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「超高速!参勤交代」

2014年08月12日 | 映画
享保20年。
磐城国の湯長谷藩は、江戸詰を終えて帰国したのつかの間、再び幕府より参勤交代を命じられる。
それも5日以内に参勤せよとの通達に、家老の相馬兼嗣(西村雅彦)をはじめとする家臣団は騒然となる。
江戸までの行程は、通常8日はかかる。
今すぐ再び旅支度を整えて向かったとしても、とても間に合わない。
のみならず、帰国したばかりの今、1万5000石に過ぎない小藩には、数年前の大飢饉の影響もあって蓄えも無く、参勤のための費用も枯渇している。
到底叶えられるわけのない無理難題を押し付けられたのだ。

参勤交代の理由は、湯長谷藩で発見された金山についての報告に虚偽の疑いがあるため釈明せよ、というもの。
この金山に目を付けた老中・松平信祝(陣内孝則)が、無理難題を押し付け、命に背いたとして湯長谷藩を取り潰して金山を我がモノにしようと企んだ陰謀だったのである。
幕府に断固抗議すべしとする者、老中に賂を送って許しを乞うべきと言う者。
藩論が分かれてまとまらないが、藩主・内藤政醇(佐々木蔵之介)は参勤することを決める。

知恵者である相馬に対策を講じさせて段取りを付け、途中の近道に山中を抜けるための道案内役に戸隠流の抜け忍・雲隠段蔵(伊原剛志)を採用し、わずかな家臣と共に江戸に向かって疾走する政醇。
一方、湯長谷藩が参勤すると知った信祝は、配下の隠密を使って阻止しようと動き出す…


8代将軍・徳川吉宗の時代。
湯長谷藩4代目藩主の内藤政醇は、実際に名君の評判も残る実在の大名。
老中の松平信祝も、吉宗の時代に活躍した実在の人物。
湯長谷の地に鉱物資源が産出されたのも事実。
しかし、参勤交代で江戸から帰国したばかりの政醇に、即座に5日以内に参勤せよとの命が下されたのは創作。
いやもしかすると事実かもしれず、全くの創作であるとは言い切れないのは確かではあるが、文献上はどこにも残されておらず、またいくら江戸幕府が強権を発令したとしても、これほどの無理難題を押しつけることは無いと思われるため、創作とすることには無理が無い。
絶妙の配分で虚実とり混ぜて描かれるストーリー展開は、さすが優秀な映画向けの脚本に与えられる城戸賞に輝いただけのことはあって、最後まで観客を飽きさせない。
歴史好きにとっては「んな、アホな!」と思わずツッコミを入れたくなることばかりだが、そんなツッコミを呟く余地が無いほどオモシロい。

物語の展開の面白さを支えるキャストの好演もまた、我々にツッコミを入れる余地を与えない。
領民思いで家臣からの信頼も篤い名君・内藤政醇を、佐々木蔵之介が抜群の存在感で好演。
ある“トラウマ”を抱えた飄々とした大名をコミカルに演じつつ、居合抜きを得意とする剣の達人としての一面を見せる殺陣も見応えがある。
更に、政醇を支える名参謀の相馬を西村雅彦がコミカルに好演、悪辣な老中・信祝を陣内孝則がねちっこくいやらしく演じている。


脚本とキャストが見事なハーモニーを奏でる、エンターテインメントに徹した痛快娯楽時代劇の快作♪


超高速!参勤交代
2014年/日本  監督:本木克英
出演:佐々木蔵之介、深田恭子、伊原剛志、寺脇康文、上地雄輔、知念侑李、柄本時生、六角精児、四代目市川猿之助、石橋蓮司、陣内孝則、西村雅彦