面白き 事も無き世を 面白く
住みなすものは 心なりけり

「清須会議」

2014年01月16日 | 映画
天正10年。
乱世を終えるべく、「天下布武」を目指して邁進してきた織田信長(篠井英介)が、謀反を起こした明智光秀(浅野和之)によって討たれる。
世に言う「本能寺の変」によって、信長の後継者たるべき嫡男・信忠(中村勘太郎)も失ってしまった織田家の後継者を決め、領地分配についての合議を行うため、かつて信長が拠点とした清須城に重臣が集まり、「清須会議」が開かれることとなった。

筆頭家老の柴田勝家(役所広司)と盟友の丹波長秀(小日向文世)は、武勇に秀で、聡明で勇敢な信長の三男・信孝(坂東巳之助)を後継に推す。
一方、信長に重用されて実力者へと駆け上ってきた羽柴秀吉(大泉洋)は、信長の次男で「大うつけ者」と陰で呼ばれる次男・信雄(妻夫木聡)を信長の後継者として推した。
信長亡きあとの織田家の重要人物であり、勝家、秀吉がともに思いを寄せる信長の妹・お市の方(鈴木京香)は、かつて夫と息子を攻め滅ぼすこととなった秀吉に対する恨みから、勝家に肩入れする。

いかにも暗愚な信雄の言動に、秀吉の形勢は不利な状況に陥っていく中、軍師である黒田官兵衛(寺島進)の策によって、信長の弟・三十郎信包(伊勢谷友介)を味方に付ける。
更に妻・寧(中谷美紀)の見事な“内助の功”により、秀吉は織田家の家臣たちの心を掴んでいく。
また、会議に列するべき重臣・滝川一益(阿南健治)に代わって列席することとなった池田恒興(佐藤浩市)に対して、自分を支持すれば望みの領地を分配すると持ちかけて気を惹こうとするが、勝家とも親交が深い恒興はなかなか立場を明確にしない。

そんな中、ある対決で“信雄陣営”は“信孝陣営”に惨敗を喫することに。
信雄のうつけぶりにほとほと愛想が尽き、落ち込む秀吉だったが、亡くなった信忠の忘れ形見である三法師と出逢い、起死回生の一手を思いつく。
そして迎える清須会議…


三谷幸喜が17年ぶりに手がけた小説を、自らメガホンを取って映画化。
史実として有名な「清須(清州)会議」を題材にとり、会議に参加した面々が織りなす人間模様を、“三谷節”全開に面白おかしく描く。

とにかく各武将たちのデフォルメが絶妙!
まずは、史実によれば会議を制したとされる羽柴秀吉。
低い身分から身を立てた秀吉は、身内との会話は名古屋弁丸出し。
武将には考えられないほどの人当たりの良さに細やかな気遣い、鋭い状況分析能力と決断力、人間観察による抜群の人心掌握術など、「人たらし」と呼ばれたその人間像を、愛嬌たっぷりに作りあげている。
秀吉の最大のライバルである宿老・柴田勝家。
勇猛果敢、戦場では部類の強さを見せる猛将ながら、領地における政治力も評価されている彼を、明朗闊達で無邪気なキャラクターに設定。
一途にお市の方を慕い、挙句振り回されることになる哀切も明るく描いて可笑しい。

常に冷静沈着で盟友たる勝家の参謀を担いながらも、最後は大局に立った決断を下す丹羽長秀。
なかなか立場を明確にせずに状況を窺いながら、自分にとって最も有利な条件を引き出していく池田恒興。
夫と息子を殺されたという恨みを抱き続けるのみならず、その卑しい出自に対する嫌悪感も露わにして秀吉を忌み嫌うお市の方。
したたかに“武田の血”を残すことに全力を尽くした松姫。

そして今回、この人物にスポットを当てことで自分のツボを見事に突いたのが、会議の進行を務め、清須城内を取り仕切る前田玄以。
過去、様々なドラマで描かれた清州会議において、議事進行を務める武将にスポットが当たった記憶はない。
そもそも清州会議に関する詳細な資料は無いため、そこに脚色を施す余地がたっぷりとあるわけだが、三法師を清州へと逃した前田玄以を議事進行役に据えた妙味がすばらしい。
確かな実務能力を秀吉が高く買い、後に五奉行に任命することの複線としてとらえると面白い。


また、キャラクター設定だけでなく、エピソードとして歴史ファンをニヤリとさせる点がある。
松山ケンイチ演じる堀秀政を、秀吉が「きゅうきゅう」と呼ぶシーンがあるのだが、相当な歴史オタクでもなければ、ただ三谷幸喜がふざけた台本を書いているとしか思えないだろう。
しかし実際に秀吉が堀秀政のことをそのように呼んでいる文書が存在するのである。
(ちなみに堀秀政は「堀久太郎秀政」である)


三谷幸喜自身も歴史好きなこともあるが、詳細な史実が伝わらない部分を巧みに利用して、見応えのある脚本に書き上げた手腕はさすが。
ただの歴史好きから戦国史オタクのみならず、歴史に詳しくない、あるいは「清須会議って何?」という観客まで、誰もが存分に笑って楽しめる、極上のエンタテインメント時代劇♪


秀逸な武将のデフォルメだけではなく、キャラクターの性格設定も抜群。


清須会議
2013年/日本  監督・脚本:三谷幸喜
出演:役所広司、大泉洋、小日向文世、佐藤浩市、妻夫木聡、浅野忠信、寺島進、でんでん、松山ケンイチ、伊勢谷友介、鈴木京香、中谷美紀、剛力彩芽、坂東巳之助、阿南健治、市川しんぺー、染谷将太、篠井英介、戸田恵子、梶原善、瀬戸カトリーヌ、近藤芳正、浅野和之、二代目中村勘太郎、天海祐希、西田敏行