猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

安易なベーシックインカム導入は福祉の切り捨てになる

2020-12-16 22:36:10 | 経済と政治

きょうの朝日新聞の《耕論》は『ベーシックインカム考』である。インタビューを受けたのは、山森亮と宮本太郎のふたりである。ベーシックインカムとは、すべての人に一律に給付金をくばり、あとは個人の才覚でお金を儲け、あわせて、個人の所得とすることで、各個人の最低所得を保障するというものである。

「個人単位」「無条件」のベーシックインカムの導入は収入がなくて困窮している人を漏れなく救うことができると、山森は言い、導入に賛成する。彼はつぎのように言う。

〈 毎月の収入が生活保護基準以下で暮らす人のうち、2割前後しか実際には受給していない状況です。自動車の保有状況などさまざまな受給要件のほか、親族との関係などプライバシーまで調査が及ぶため、申請しづらい傾向があります。〉

これに対し、宮本は、現在の福祉制度を充実させることが、先決であり、安易なベーシックインカムの導入はかえって生活困窮者の切り捨てになると言う。私は、宮本に同意する。

現在のベーシックインカム導入論は、山森の「漏れのない福祉」を実施したいからではなく、じつは(1)福祉にかかる財政支出を下げたい、(2)福祉にかかる行政の手間を削りたい、の2つの動機からくる。

国民健康保険は、突然やってくる病気の医療費の負担を軽くするものである。また、失業保険は現在の生活スタイルを一時的に支えるためのもので、住宅や車などのローンを一時的に支えるためにある。

このように現在の福祉諸制度はいろいろな理由があって存在する。ベーシックインカムの導入で不要となるのは生活保護ぐらいのものだろう。そうすると、ベーシックインカムの導入によって、漏れのない福祉が実現すれば、大幅に福祉の財政支出が増えるわけである。

また、山森が挙げた生活保護を申請しづらい現状は、生活保護への政府支出を下げたいという方針をうけて、役所の窓口が申請者のプライドを傷つける態度をとるからである。
窓口業務の手間がかかるのは、政府が細かい要件を生活保護の受給につけるからである。すなわち、福祉行政の複雑さは福祉の対象者を絞り、福祉への財政支出を減らそうとするからである。

「個人単位」「無条件」のベーシックインカムは漏れのない福祉として魅力的だが、福祉の財政支出を削減するという話しが出てくるかぎり慎重にならざるを得ない。

また、ベーシックインカムは所得の正確な把握を必要とする。現在のような源泉徴収方式でなく、欧米のように、株や債券所得を含む所得を個人単位で自己申告する制度に移行する必要がある。源泉徴収方式では、アルバイトや金融商品による収入を課税から落としがちになる。

現状では、漏れのない福祉の実現を重視したいなら、生活保護の細かい要件をとりはらったほうが良い、と私は思う。