猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

8月15日の敗戦記念日を前にして

2023-08-15 00:22:08 | ロシアのウクライナ軍事侵攻

ロシアが昨年の2月24日にウクライナへの軍事侵攻をはじめて1年半がたたんとしている。戦争を始めたロシア政府が悪いのだが、私には軍事侵攻を容認したアメリカ政府も悪いと思う。

その日、軍事侵攻でベラルーシからウクライナに入ったロシア軍の長い車列が、森と沼地のなかにつづく一本道を何の抵抗も受けずに淡々と進んだ。ロシア政府はアメリカ政府の黙認を受けていると信じていたからだろう。

当時、アメリカ政府は、ロシア政府がウクライナに軍事侵攻をすることを事前に知っていた。侵攻の1週間前にバイデン政権はそれを全世界に公表した。ロシアの軍事侵攻を止めるのでなく、ウクライナにいる全アメリカ人にウクライナから退避するよう、公に勧告した。ウクライナの大統領ゼレンスキー大統領にも亡命するよう勧めた。

大国間の戦争を避けるために、軍事侵攻を大国が黙認するというのは、第2次世界大戦前にドイツのヒトラー政権の軍事侵攻に たびたび見られたことである。

最初は、1936年にヒトラー政権がラインラントに軍事侵攻し、フランス政府は黙認した。第2次世界大戦後、フランス軍に尋問されたドイツ軍のハインツ・グデーリアン将軍は、「もし、1936年にフランス軍がラインラントに進軍すれば、我々は敗北し、ヒトラーは失脚していただろう。」と答えたという。

1938年にヒトラー政権がオーストリアに何の抵抗もなく軍事侵攻している。同じ年、軍事的脅しでヒトラー政権は、やはり帝国なくチェコスロバキアのズデーテン地方を占領している。翌年にチェコスロバキアからスロバキアを友好国として独立させ、次いで、ポーランドに軍事侵攻している。

ロシアのウクライナ軍事侵攻は突然始まったのではない。2004年にいわゆるオレンジ革命でウクライナの親ロシア政権が崩壊した後、ロシアのプーチン政権はウクライナの親ロシア派を軍事的に支援してきた。2014年に住民投票という大義名分を使って、プーチン政権はクリミアをロシアに併合し、黒海を支配する軍事拠点とした。

昨年からつづく戦争は、アメリカ政府が軍事侵攻を黙認したにもかかわらず、ウクライナのゼレンスキー政権がそれに従わずロシアの侵攻に立ち向かったからである。そして、アメリカ政府とヨーロッパの諸国の政府との危機感の違いが明らかになった。

ヨーロッパ諸国が、ロシアの公然とした軍事介入に強い危機感を覚え、ウクライナ軍を支援しているのに対し、アメリカ政府は、タテマエとしてウクライナの反攻を支持するが、ロシアとアメリカの戦争になることを避けるという奇妙な選択を行っている。

日本政府は、岸田文雄首相の地元の名産「必勝しゃもじ」をウクライナに送るという理解しがたい行動にでている。いっぽうで、岸田政権は、中国を仮想敵国として日本の軍備を増強を唱え、軍事予算を2倍にしている。バイデン政権との親密さを政権アピールに利用しようとしている。ロシアと戦わず、中国と戦う準備をしているとは、どういう考えなのか。

第2次世界大戦の教訓がいかされず、世界はいまトンデモナイ事態に進んでいる。


小泉悠は『現代ロシアの軍事戦略』で新しい戦争観を提供する

2022-10-18 23:33:55 | ロシアのウクライナ軍事侵攻

3日前から小泉悠の『現代ロシアの軍事戦略』(ちくま新書)を読み始めている。自称、軍事オタクの小泉であるが、けっして、兵器オタクの書ではない。最近メディアに出てくる防衛省防衛研究所の面々より、広い視野で論じている。したがって、本書のタイトルは「軍事力」でなく「軍事戦略」である。

本書の特徴はつぎにある。

第1に、ロシアの立場にたって世界情勢を分析している。ロシアからすれば、アメリカの包囲網がどんどん狭められている。昔の東側の国々がNATOに加盟するようになっている。アメリカの軍事力のほうがロシアの軍事力より格段と上である。世界大戦への拡大を避けないといけない。しかし、これ以上、NATOの拡大を防がないといけない。

第2に、国家の意思というものを国の権力者の意思としてとらえている。国が利害の異なる集団からできており、国と国との戦争は、権力者同士が、自分のために、支配下の国民を使って、戦っている。自分の権力を守るために、必ずしも、敵を倒す必要がなく、自分が倒されなければ、持久戦でも良い。

第3に、権力者から見れば、相手の権力者と対峙するとき、直接相手に軍事力を使うだけではなく、相手の支配下の国民から権力者と対抗する勢力がいるなら支援すれば良いのである。立場をひっくり返せば、自分の権力に屈しない国民の勢力が現れるなら、敵に利用されていると徹底的に叩くことになる。

第4に、最終的に、暴力が戦いを制する。しかし、暴力は高価である。

したがって、小泉愁は、カール・フォン・クラゼヴィッツのように戦争は外交の延長と考えない。国家と国家とは常に戦争状態にあり、第3の視点からハイブリッド戦争となる。何でもありの戦争なのだ。

小泉によれば、ウクライナのオレンジ革命はアメリカ側の権力者層が仕掛けたものとロシア側の権力者層が考えている。私も、1990年の初頭に始まった東ヨーロッパの権力のひっくり返し(革命)には、アメリカのCIAや右翼団体の支援があったとみている。アメリカ側から見れば、これは正義の実現であり、ロシア側からみれば、軍隊を使わなかった扇動による戦争である。

もっと以前になるが、私の子ども時代、圧倒的なアメリカ文化にさらされ、地方都市にも、アメリカ文化センターがあった。私の兄も私もポップと言えば、アメリカの流行歌である。年寄りだけが、日本の流行歌を歌っていた。アメリカの情報戦の中でアメリカは素晴らしいと洗脳されて育ったのである。

ロシアがウクライナに軍事侵攻したというのは、情報戦で埒があかないことの、ロシアの権力者の焦りであろう。しかし、ウクライナ側が持ちこたえているのは、アメリカやイギリスの支援のおかげである。兵器の支援もあるが、アメリカの情報戦が今のところ優勢である。

小泉の展開した議論を日本に当てはめて分析しても、面白いのではと思う。


ロシア大統領プーチンはクリミア大橋爆発を機に戦争の新しい段階に踏み込んだ

2022-10-10 22:46:50 | ロシアのウクライナ軍事侵攻

いま、ウクライナ・ロシア戦争が新しい段階にはいった。10月8日のクリミア大橋の爆発に対する報復としてロシア軍はウクライナ全土にミサイル攻撃を行った。

新しい段階とは、これまで、ロシア軍のミサイル攻撃は、建前上、軍事施設を狙ったものと発表していたのに対し、軍事施設と限定しない無差別の報復としたことである。

クリミア大橋は、ロシアのクリミア併合の後 建設されたクリミア半島とロシアと結ぶ約18 kmの橋である。クリミアの軍事基地の補給路であると同時に、クリミア併合の象徴である。

今回の爆発で、ロシア本土から日帰りで働きに来ている人たちが、橋の手前で大渋滞に巻き込まれているとの報道があった。橋は全壊でなく、片側は無償だった。ロシア大統領のプーチンの報復は、メンツを潰されたことへの怒りと同時に、この9月に起きたロシア軍の敗退への回答である。

20世紀の戦争は国家の総力戦であった。

第2次世界大戦時に、ドイツ空軍はイギリス本土を攻撃し、1941年5月末までに4万3000名以上の民間人(半分がロンドン市民)が爆撃で死亡、100万以上の家屋が損害を受けた。その仕返しか、戦争末期に、イギリス軍とアメリカ軍はドイツの都市に無差別爆撃を行った。また、アメリカ軍は日本とブルガリアの都市に無差別爆撃を行った。

今回の戦争でも総力戦である。ウクライナ政府は、2月24日のロシア軍の侵入とともに、総動員令を発し、18歳から60歳までの男性の国外脱出を禁止し、ロシア軍との戦争への参加を求めた。ロシア政府は、ウクライナ侵攻を特別軍事作戦(限定的戦闘)として志願制をとっていたが、ロシア軍の敗退を前に、プーチンは9月21日に総動員令を発した。

それでも、ロシア軍は、建前上、民間人を攻撃の対象としていなかった。それが、クリミア大橋の爆発を契機に、ロシア軍はウクライナ全土への無差別ミサイル攻撃を行った。

ウクライナ政府はこの事態にどう対処するのか。私が思うに、これまでは、ロシア軍の侵略に反撃するという建前で、アメリカやヨーロッパから軍事物資の援助を受けてきた。この援助のおかげで優勢に立てたのだから、民間人を攻撃しないという建前を守らざるを得ない。ウクライナ側は戦争の新しい段階に踏み込めない。

ウクライナ側の残されている戦争の新しい段階は、プーチン個人を狙ったテロしかないように思える。プーチンが核兵器を使用したとき、あるいは、使用しようとしたとき、プーチン個人の暗殺が試みられる気がする。

しかし、テロで戦争に勝ったという過去の事例はない。すると、結局は、ウクライナ国民はミサイルの全土攻撃に我慢、我慢しかないようである。


紛争を長引かせる非正規軍を抑えるのにアメリカ軍のウクライナ駐留が不可避

2022-08-24 23:08:19 | ロシアのウクライナ軍事侵攻

2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻して、きょうで半年になる。しかし、2014年のロシアによるウクライナ併合のころから、ウクライナ東部のドンバス地方では内戦の状態であった。ウクライナ系とロシア系の非正規軍(いわゆる民兵や義勇兵)が戦っていたのである。それを含めると8年に渡る長い戦闘が続いていたのである。

朝日新聞は8月21日から『1920s↔2020s 百年前から』の連載を始めているが、その初回に難しい問題、非正規の「軍」による戦争の問題を提起している。記者は、「近代国家は軍事力を国家が独占することが原則だった」が、パラミリタリー(非正規軍事組織)が戦争に介入すると、紛争が長引き、戦闘員以外の人たちも巻き込まれて死んでいくのだ、と、イギリス領北アイルランドの紛争を例として、主張している。

東ヨーロッパ、ウクライナ、バルカン半島では、この200年間、宗教や言語や風習の違いをもとに、独立の武装闘争が幾度となく起きて、そして鎮圧されている。中東とならぶ世界の火薬庫である。火薬庫というのは、武装闘争の経験のある人たちが散在して、いつでも、非正規軍事組織が生まれる土壌があるのだ。

政府の正規軍と非正規軍では、用いる兵器に大きな差がある。まともに戦えば、非正規軍は正規軍に勝つことはできない。それで非正規軍は普通の市民に紛れ込んで闘うことになる。テロリストになるしかない。そして、普通の市民が巻き込まれて死ぬこととなる。

正義という言葉が通用しないのが戦争である。

プーチンは、8年に渡るドンバス内戦にかたをつけるために、正規軍をウクライナに送った。ロシア軍はプーチンによって制御されている。

8月21日、ロシアの愛国主義思想家アレクサンドル・ドゥーギン氏の娘、ダリヤが車に仕掛けられた爆弾で殺された。BBC放送でその第一報を聞いたとき、プーチンの娘が殺されたのか、と思って、とても心配した。もし、プーチンの娘が殺されたなら、停戦がさらに遠のき、ウクライナかロシアが消滅するまで、戦争が続くことになるからだ。

第2次世界大戦は、ドイツと日本が灰と塵になるまで続けられた。ドイツと日本が復興できたのは、たまたま、アメリカとロシアが「冷戦」という戦争を始めたからである。近代戦争は、徹底的に相手を叩きのめし、二度と立ちあがれなくするまで戦うのである。近代の戦争は残虐野蛮そのものである。

ダリヤの爆殺に関して、ウクライナ政府は関知していないという。そうすると、ウクライナ政府が統制できない非正規軍の犯行なのか、あるいは、ロシア政府の秘密組織の犯行(戦意高揚の陰謀)となる。

最近クリミア半島のロシアの軍事基地がドローンなどの無人機で攻撃されている。これもウクライナ政府が関与を否定している。すると、ウクライナ政府が統制できない非正規軍による攻撃の可能性がある。

マウリポリの製鉄所の地下に潜んでいたアゾフ連隊はウクライナ政府の正規軍ではなく、内務省に編入された非正規軍(私兵)である。正規軍の指令系統で動くのではない。自分たちの意思で動くのである。それで、ウクライナ大統領のゼレンスキーがアゾフ連隊にインタネットで投降を呼びかけるしかなかった。

政府の指令で動かない非正規軍が存在することは、停戦を実現するのに障害となる。また、指揮命令系統の混乱で、効率的で戦略的な戦闘もおこなえない。

しかし、上からの指揮命令で動かないことは、ある意味で、民主的である。「軍事力を国家が独占すること」が正しいとも言えないのだ。私には判断がむずかしい。

ゼレンスキーは、はじめのうちは、侵攻が始まった地点に双方引きさがるのが停戦の条件であったが、現在、すべての領土を取り戻すと言っている。統制不能な非正規軍を抱え込んでるのでそう言っているのか、あるいは、すべての領土を取り戻すことができると本当に思っているのか。なにか、戦争を終える戦略がないように見えて私は不安になる。

アメリカ政府はウクライナの紛争地に駐留軍を送り、力で名誉ある停戦に持ち込むしかないように私は思う。


ウクライナとロシアの戦争を消耗戦に放置するではなく、強引にでも停戦へもっていくべき

2022-08-17 23:49:46 | ロシアのウクライナ軍事侵攻

きょうの朝日新聞夕刊の時事小言に藤原帰一が、半年になるロシアのウクライナ侵攻について、これからも消耗戦が続くという月並みのコメントを寄せていた。この消耗戦に全世界の経済は巻き込まれて行くわけだから人ごとではない。消耗戦をいかに終えるかを国際政治学者なら論ずるべきだろう。

政治学者の豊永郁子は朝日新聞に『ウクライナ 戦争と人権』を寄稿し、メディアが正義を振りかざして、ウクライナ政府に徹底抗戦に追い詰めることを非難している。彼女はウクライナ政府が白旗を掲げてロシアが停戦交渉を始めることを提案している。

藤原は「ロシア軍の……焦土作戦とも言うべき殺戮、戦時捕虜の虐待や非戦闘員の強制移動は、ウクライナ国民の厭戦感情を高めるどころかその結束を強めている。さらにこの戦争の奇怪な特徴は、ロシア軍も抗戦の意思がまだ固いことだ」と言う。

戦争が始まれば、政府は、士気を高めるために、いろいろな情報戦を行う。その最たるものは、国民のみんなは戦争継続の意思が強いと「同調圧力」をかけることだ。しかし、豊永の指摘するように、非人道的殺戮は恨みの気持ちを強めるが、勝てない戦いは、戦い続けることの虚しさをつのらせる。

ウクライナ大統領ゼレンスキーはロシアの非人道性を世界に訴えて各国の支援を求めている。しかし、各国の政府は、選挙で選ばれた政権だから、その国の人びとの利害を無視できない。いつまでも支援続けるわけでない。藤原はヨーロッパや日本のウクライナ支援がずっと続くと思っているようだが、それは疑わしい。各国は、新型コロナ騒動や温暖化による気候の不安定化を抱えている。経済的余裕があるわけではない。

当事者のウクライナ政府やロシア政府は、引き下がれない事情がある。

クリミナ半島は、エカテリア2世がタタール人の国を攻め滅ぼし、ロシアの軍事基地、リゾート地に仕立てのである。別段、ウクライナ人の土地であるわけでもない。

ウクライナのドンバス地方は、ソビエト連邦時代に、石炭や鉄鉱石の豊富な土地だったので、ロシア人が大量に移り住んで重工業地帯が形成された地である。都市にはロシア人が、農村にはウクライナ人が住むということになった。ウクライナ東部の都市は、ロシアと経済的につながっている。

だから、ウクライナ政府も領土回復が無理なことは知っている。しかし、ロシア政府は、ドンバスとクリミナ半島だけの領有で満足するのではなく、ウクライナに親ロシア政権を打ち立てたいと思っている。

停戦は外部から強引に実現するしかない。停戦の実現は、ロシアとウクライナ以外の正規軍を導入するしかない。ロシアとウクライナより強いと思われる軍隊は、アメリカ軍と中国軍しかない。アメリカ軍と中国軍がウクライナに軍事基地を作って駐留するしかない。

ウクライナ政府も白旗を掲げて降伏する必要がない。アメリカと中国によって、強引に、停戦協議の場に引き出されただけである。

ウクライナの地がアメリカ軍と中国軍を引き受けてくれれば、極東も静かになると思う。日本から、沖縄から、アメリカ軍の基地がなくなる絶好の機会ともなる。