寝床でボーとしていたら、なぜか急に「チム・チム・チェリー(Chim Chim Cher-ee)」を聞きたくなった。映画『メリー・ポピンズ』の曲である。
『メリー・ポピンズ』は1964年8月27日公開の大ヒットのアメリカ映画である。日本の公開は1965年12月10日である。当時、私は高校3年生で、公開時に見に行っていない。たぶん、映画館でなく、テレビで見たのが最初だったと思う。
どれだけヒットかというと、製作費600万ドルで、アメリカで興行収入1億230万ドルをもあげたのである。アカデミー賞では、13部門にノミネートされ、5部門を受賞した。「チム・チム・チェリー」はもちろん歌曲賞を受賞した。
この映画は、銀行家ジョージ・バンクスの家に、東風にのってメリー・ポピンズが二人の子どもの教育係としてやってきて、厳格で気難しい銀行家のジョージと女性参政権運動に夢中の妻の家庭に波乱を起こすというストーリである。
メリー・ポピンズの教育が気に入らないジョージは、厳格なしつけのために、子どもを自分の職場に連れていくが、銀行に取り付け騒ぎを引き起こす。銀行の頭取が預金にと子どもの手から2ペンスを無理矢理取り上げたため、子どもが「私のお金を返して」と大声を出し、それを聞いた預金者たちは銀行が破綻したのではと、あわてて払い戻しに殺到、噂が広がって、銀行外からも次々と預金者達が駆け込むという騒ぎになる。
もちろん、ジョージは銀行から首になる。そこで、ジョージは家族愛にめざめ、翌日、家族4人で凧揚げにいく。それを見て、メリー・ポピンズは風にのってバンクスの家から去っていくという物語である。
1964年というと、アメリカはまだ平和で、民主党のリンドン・ジョンソンが福祉国家を唱え大統領選挙に大勝した年である。人々は銀行にお金を預金し、銀行はお金を企業に貸し、アメリカの製造業がまわっていた時代である。映画は少し銀行をおちょくっているが、金融業がいまと違い、規制に縛られて、お上品であったのだ。
いまは、金融業は、ローンなどの債権をパッケージして金融商品としてリスクを売ったり、ヘッジファンドとして企業に配当金の圧力を掛けたり、経営権を取得して企業を売り飛ばしたり、ありとあらゆることをして、まっとうな製造業活動を踏みつぶしている。
ジョージ・バンクスのように首になって家族愛に目覚めるようなストーリでは、いまは、絶対にヒットしないだろう。