goo blog サービス終了のお知らせ 

猫じじいのブログ

子どもたちや若者や弱者のために役立てばと、人権、思想、宗教、政治、教育、科学、精神医学について、自分の考えを述べます。

トリチウム水の海洋放出は科学的な決断で全くない

2021-04-15 22:41:24 | 原発を考える


きのうのBS日テレ『深層NEWS』のトリチウム水海洋放出の座談会で、菅義偉の海洋放出の決定過程に批判は出てきたが、海洋放出そのものについて議論されなかった。ここでは、海洋放出にまつわる諸問題について科学的に考えてみたい。

ここで、考察するのは(1)放出基準は自然界にあるトリチウムの濃度とそれほど変わらないのか、(2)海洋放出される希釈されたトリチウム水は飲んで大丈夫なのか、(3)一体どれだけの量のトリチウム水をいつまで海洋放出するのか、(4)本当に海洋放出しかないのか、である。

トリチウム(三重水素)の半減期は約4,500日と短いので、自然にはほとんど存在しない。大気上層で窒素原子や酸素原子に宇宙線があたることで生成されるトリチウムとその自然崩壊との釣り合いで、地表にトリチウムが水素原子のおおよそ100兆分の1の割合であると推定されている。この値を水に適用すると、1リットルあたり0.118ベクレルとなる。

今回、政府がトリチウム水を希釈して海洋に放出するといっているのは、1リットルあたり1,500ベクレルにして放出するといっているのだ。したがって、自然界に存在するトリチウム濃度の1万3千倍のトリチウムを海洋に放出することになる。

☆ 今回の海洋放出基準1,500ベクレルは決して小さな量ではない!

大気中のトリチウム濃度は、原爆や水爆実験による大気汚染の状況をモニターするために、継続的に観測されてきた。米英ソによる大気圏内核実験停止条約が結ばれる1963年には、自然に存在するトリチウム濃度の200倍以上になっていた。大気圏内核実験をやめることで現在5倍程度に下がっている。しかし、30年前からその下がり方が、トリチウムの半減期から考えられるより、ずっとなだらかになっている。これは、新たなトリチウム発生源が出てきたからと考えられている。

☆ 全世界の原発がトリチウムを放出して大気汚染を起こしている!

ほかの原発が海洋にトリチウムを放出しているからといって、福島第1原発の事故処理でも、海洋に放出していいわけではない。地球の自然環境を守るためにも、トリチウムを海洋に放出してはいけない。

おととい、閣僚の麻生太郎は、「中国やら韓国やらが海に放出しているのと同じもの以下ですから、科学的根拠に基づいて、もうちょっと早くやったらと僕は思ってましたけど、いずれにしてもこういうこと(海洋放出)やられることになったんで、別にあの水飲んでもナンちゅうことないそうですから」と話した。

さすがにBS日テレ『深層NEWS』でも、放出水を飲んでいけないと視聴者に注意していた。EUの飲料水の基準は、1リットルあたり100ベクレル以下である。東電と政府のいう希釈トリチウム水は、EUの飲料水基準の15倍である。

☆ 海洋放出の1500ベクレルのトリチウム水は飲んではいけない!

海洋生物に対する影響はまだわかっていない。海洋生物は、EUの飲料水基準の15倍の中でずっと暮らすわけだから、何らかの影響があってもおかしくない。

1リットルあたり1,500ベクレルは根拠のある数値ではなく、たんに、福島第1原発の側溝の汚染水を捨てるために、事故直後に作った基準である。大量の汚染水を放出するとなったら、側溝の放出基準でよいのだろうか。

それでは、どれだけの量のトリチウム水を放出すると政府と東電はいっているのか。1年に22兆ベクレルのトリチウムを海洋放出するという。このロジックは、これまで、福島第1原発は年に22兆ベクレルを放出してきたからだという。この値については、私は良く分からない。これまで、東電と政府はトリチウムが使用済み核燃料のカプセルの中に閉じこめられてきたと言っているからだ。正直な値なのか、それとも、つじつま合わせの数だろうか。

東電と政府の基準、1リットル当たり1,500ベクレルに合わせると、これは、1日あたり4万トンのトリチウム水を放出することになる。これは大河が海に注ぐ水の量である。放出はできるだろうが、薄めるために大量の海水をくみ上げないといけない。

☆ 一日当たり4万トンというのは、現在の地下水の流れ込み、140トンよりずっと大きい量なのだ!

現在、東電と政府のプランではタンクの汚染水海水で平均500分の1に薄めるといっている。すると、1日当たり4万トンの海水をくみ上げることになる。希釈装置をどこに置くのだろうか。津波による希釈装置の破損も防がないといけない。そして、放出したトリチウム水を また くみ上げて、それで希釈するということをさけないといけない。

☆ 希釈というのは本当に守るつもりのある計画なのか!

どこに大量のトリチウム水を放出し、どこから大量の海水をくみあげるかのプランを明確にしないといけない。

東電と政府は、いま、デブリが核分裂反応を起こしていない、と主張している。その証拠は示されていないと思う。東電と政府によれば、現在のトリチウムはすべて事故前の核分裂連鎖反応でできたとして、2011年3月11日に原子炉内にトリチウムが3.4千兆ベクレルあったと推定している。2016年3月24日の報告では、トリチウムが自然崩壊で2.6千兆ベクレルに減ったと推定する。この延長上に22兆ベクレルの海洋放出は30年から40年続けると言っている。この値を私はまだ検証していない。別の論者は50年から60年だという。

もし、新たにトリチウムが発生していないなら、最終的に必要なタンクは用地を買収して今の2倍弱のタンクを増設すればよいことになる

BS日テレ『深層NEWS』で本当に海洋放出しかないのか、という疑問の声があがった。(1)タンクは増設できる、(2)地下水の流れ込みは遮断できる、すなわち、汚染水の発生を阻止できる、(3)地表深く砂礫層に汚染水を注入できる、などがある。とくに、新たなトリチウムがデブリから発生している場合にも、(2)、(3)は有効である。

IAEAは、原発推進機関であり、東電・東芝・政府と利害を共有する。中立的とは言えない。科学的な情報源と言えない。政府と東電は結局、電通などを使って国民を騙そうとしているのではないか。海洋放出を白紙撤回することこそ誠実な対応ではないか。立憲民主党は本件について腰が引けているのではないか。

安価であることを基準にして政治的決断すれば、凍土壁で地下水の流れ込みを阻止しようとした5年前の失敗を繰り返すことになる。

トリチウム水を人類共有の海洋に放出するのは無責任

2021-04-13 22:50:30 | 原発を考える
 
きょうの午後7時のNHKニュースで、福島第1原発のタンクの汚染水の海洋放出を菅義偉が決めたと報道していた。この報道は政府発表をそのまま流しているもので、NHKはジャーナリズムとしての良心を失っている。NHKの報道は政府の宣伝活動の一環にすぎなかった。
 
NHKは、政府の決定と報道しながら、一方で、地元民と丁寧に話し合えと言っている。結論が決まっているのに、話し合えというのは矛盾である。「菅政権をぶっつぶせ」というのが筋ではないか。
 
政府が2年をめどに海洋放出すると言っているが、一方で、東電は来年の夏にはタンク増設の敷地がなくなると言う。すると、菅義偉がいう「2年をめど」というのは、地元の納得を2年間待つという意味ではなく、汚染水を薄める装置が稼働し始めるのに2年かかるかもしれない、と言っているにすぎない。
 
政府は「科学的根拠」にもとづく判断だから、「風評被害」をなくせば良いといっているが、本当だろうか。
 
  ☆   ☆   ☆
 
NHKは「処理水」の海洋放出としていっているが、あくまで「汚染水」の放出である。いままで、なぜ、東電(東京電力)がタンクの「処理水」を放出しなかったか。国の決めた放射能物質の濃度基準を越えているからである。基準を越えている放射能物質はトリチウムだけでない。
 
「処理水」は「ALPS処理水」であって、東芝の開発した多核種除去設備ALPSから出てくる「処理水」は「放射能汚染水」であったということである。
 
NHKは「国の基準の40分の1に海水で薄めての放出」と強調していたが、これには落とし穴がある。「40分の1」に薄めるというのは、国が東電に要請したことではなく、東電の自主基準であって、東電が今後変更できる。
 
現在のタンクの汚染水が、国の基準をどれだけ超えているかを、NHKは報道していない。いったい、東電は、何倍に薄めるといっているのか。「国の基準の40分の1に薄めての放出」を本当に実行した場合、どれだけの年月がかかるのか。専門家は、50年から60年かかるという。東電は7年で放出するといっているから、はじめから、この自主基準は見せ球と思われる。
 
菅義偉は、原子力規制員会が東電の汚染水の薄める設備の能力を書類審査するといっているが、何トン処理できるかであって「国の基準の40分の1」を守るかではない。
 
海洋は人類共有の財産である。「汚染水」を薄めて放出することがまともな政策だろうか。「汚染水」が海洋の中で自然に薄まるということは期待できない。海流によってどこかに運ばれることがあっても、汚染水の拡散のスピードは非常に遅いのである。一番ありうることは、放出場所に汚染水が蓄積することである。そうなると、薄める海水はどこからもってくるのだろう。
 
陸の生物と違って、海の生物は汚染水に浸かったままだ。海洋生物に障害が出てくるだろう。
 
NHKは、IAEA(国際原子力機関)が日本政府の「海洋放出」を支持していると報道していたが、IAEAは原子力利用推進機関であり、すなわち、利害関係者であり、客観的な判断ではない。また、他の原発でもトリチウム水を放出しているからは、海洋放出の理由にならない。これは「みんなで赤信号をわたれば怖くない」と同じ論理である。
 
  ☆   ☆   ☆
 
では、解決策は「汚染水の海洋放出」しかないのか。
 
トリチウム水というから、わかりにくいが、水素原子の原子核が中性子を2個吸いとったものをトリチウム、あるいは、三重水素という。トリチウムは不安定で、ベータ線(電子線)をだしてヘリウムになる。12.3年でトリチウムの半分はヘリウムになる。したがってトリチウムは自然にはほとんど存在しない。メディアが、トリチウムが自然界にもあるというのは詭弁である。あくまで、人間が原発でトリチウムをつくっている。
 
トリチウムは化学的性質が水素と同じだから、質量が異なるということで、分離しなければならない。核融合の研究では、デューテリウム(二重水素)やトリチウムをあたりまえのように分離し、使用している。だから、技術的には取り除ける。しかし、それが高価であるから、東電の対策から除外され、一番安価な海洋放出が東電と政府によって選ばれただけである。(もちろん、安価に取り除く方法が将来発明される可能性はある。)
 
現時点では、トリチウムをとり除くことを検討する前に、なぜ、トリチウム水ができるのか、という問題を考えるべきである。トリチウム水が発生しなければ良いのだ。この問題を政府も東電も隠している。
 
トリチウム水ができるのは、水に中性子線が当たるからである。中性子線はどこからくるのかである。デブリからくるとすれば、デブリの中で核分裂反応が起きていることになる。中性子の寿命は短いから10年前の中性子がいまだに飛び回っていることは科学的にありえない。デブリの核分裂反応を止めるには、もっと、小さい破片にわけるしかないが、デブリの取り出しができない現状では不可能である。
 
使用済み核燃料は水につけたまま保管されている。すなわち、デブリに新たな水をかけなければよい。このようにできないのは、地下水がデブリのある場所に流れ込んでくるからではないか。地下水の流れ込みを、いまだに東電がコントロールできていないということである。
 
地下水の流れ込みをコントロールすることが東電の約束であった。東電は2014年に原子炉建屋のまわりの地面を凍らせた凍土壁をつくった。しかし、壁とならず、いまだに1日約140トンの地下水が流れこんでいるという。この値は、現在の汚染水の増加量とあっている。
 
凍土壁の計画の段階で、防水措置のほどこされたコンクリート壁をつくるという案も当時出されていた。しかし、凍土壁のコストのほうが安いということで、採用されなかった。ずっと地面を凍らせる電気代と汚染水のタンクを建設しつづける費用を考えるとき、正しい選択であったとはいえない。
 
このことが、いま、議論の対象にならない理由を不思議に思う。地下水の流れ込みを止めないといけない。冷却だけなら、熱交換器のある循環型の水でデブリを冷やすことができ、汚染水が大量に発生することはない。
 
それに、海洋放出の前に、(1) タンクはまだ増設できるし、(2) 地中深く放出する手段もある。
 
福島第1原発のまわりには、人が住んでいない土地が広がっている。用地を買収すればタンクを増設できる。123年たてば、トリチウムの濃度は自然に1024分の1になる。
 
また、地下深く1000メートルぐらいで、水を貯えることのできる地層がないか、調べ、そこに、汚染水を送りこめばよい。汚染水はその地層で拡散をおこし、いずれ海洋に流れ込むだろうが、十分時間がかかって海洋に達するなら、その間に、トリチウムも減っているだろう。
 
アメリカなどでシェルオイル採掘で小規模な地震が起きているのは、岩盤に含まれる石油を取り出すために、薬剤を混入した加圧水で岩盤破壊を行っているからである。汚染水を吸収する砂礫層に流し込めば地震の心配はないと思う。
 
  ☆   ☆   ☆
 
それにしても、地下水の流れ込みを止めることは確実にできることだから、海洋放出の前に、東電と政府は行わないといけない。原発を新たに作るより、ずっと低いコストで実現できることである。
 
海洋放出は、原発事故が起きたとき、東電経営陣が自衛隊に事故処理を任すと言ったのと同じレベルの無責任な発言である。
 
[補遺]
NHKの報道で、国の基準と言っていた1リットルあたり 6万ベクレルとは、日本の「排水基準」である。ウィキペディアによれば、米国の排水基準は 3万7千ベクレルである。同じく、米国の飲料水の規制基準は740ベクレルである。EUの飲料水の基準は100ベクレルである。NHKの報道での飲料水の基準の7分の1は、WHOの基準1万ベクレルを採用したものであり、東電の自主規制1500ベクレルの値は別に根拠がない。EUの規制にあわせるなら、600分の1に薄めないといけないことになる。

デブリ取り出しはポーズなのか、NHKスペシャル『廃炉への道』

2021-04-08 22:50:09 | 原発を考える


きょうのお昼に、午後1:00から1:50に、BS1でNHKスペシャル『廃炉への道 全記録 file.1』を放映していた。事故を起こした福島第1原発の廃炉がいかに困難なことかのシリーズ1回目である。この中で、政府が本気でデブリを取り出そうとしているか、を疑っている場面があった。

デブリとは原発事故で熔け落ちた核燃料が固まったものである。核燃料ウランは重金属であるから、熔け落ちて固まったものは固い金属状のものである。デブリはウランだけでなく、核分裂連鎖反応の結果できたプルトニウム、放射性物質が含まれている。

今回のNHKスペシャルでは、米国のスリーマイル島原発事故でデブリを取り出したプロジェクト担当者にインタビューをしている。彼は、デブリ取り出しも困難であったが、そのデブリをどこに保管するかが、もっと困難であったと言う。デブリは取り出しは単に技術的な問題であるが、デブリをどこに保管するかは、政治的な問題である。結局、アメリカの西の端のアイダホ州の国立研究所に保管することになったが、アイダホ州の同意だけでなく、スリーマイル島のペンシルベニア州からそこに運ぶために、通過するすべての州の同意を取らざるをえなかった。プロジェクト担当者は、どこに保管するかが決まっていない段階で、デブリを取り出しが先行することは、あり得ないとコメントした。

日本政府にとっては、デブリを取り出して新たな政治的問題が発生するより、とてつもない困難な廃炉作業を一所懸命やっているというポーズを続けているほうが、良いのだ。東芝や東電にとっても、悪い話ではない。

だから、このNHKスペシャルを見て驚いたのである。NHKにこのような鋭い批判を放映する勇気があるのだ。

ところで、核分裂反応でできた放射性物質は中性子線をださない。中性子線は核分裂の際に放出される。現在、デブリを水で冷却すると、水の水素原子が中性子線を吸いとって、三重水素に変換される。これを、トリチウム水と呼んでいる。デブリがなぜいまだに中性子線をだすのか。この説明がいまだになされていない。

トリチウム水が湧き出るのは、事故前の原子炉からのトリチウム水があたりの地中にしみ込んでいたからという説を政府関係者が流すが、地中にしみ込んだトリチウム水が10年間もデブリのまわりにしみ出すなんてありえない。それも希釈しなければいけないような高濃度のトリチウム水である。

そのなかで、きのう、菅義偉は全国漁業協同組合連合会長に、福島第1原発のトリチウム水を海に放出すると通告した。菅は、魚業組合の意見を聞いたのではなく、彼らに通告したのである。漁業組合は、もちろん、放出に反対である。

いま、福島第1原発のまわりには人が住んでいない。用地買収をして、タンクを増設することもできる。なぜ、いま、菅政権は、トリチウム水の海洋放出を強行する必要があるのか。

原発研究者の小出裕章は、六ヶ所村の再処理工場では年間800トンの使用済み燃料を処理する計画で、「もし福島第1原発のトリチウムを含む処理水をタンクに貯蔵し続けることを容認したら、六ヶ所村での海洋放出もできなくなるばかりか、福島の比にならない数のタンクを用意しなければならず、再処理工場の稼働自体がままならなくなる」からだと言う。

私は、海洋放出ではなく、地中深く、例えば、1000メートルの深さにトリチウム水を放出すれば良いと思う。海洋までにしみ出すに時間がかかるだろうし、海洋の深部にしみ出すことになる。

また、小出裕章は、 福島第1原発のデブリ取り出しは結局できずに、コンクリートで原子炉建屋をおおう石棺にならざるをえないだろうと予測する。私もそう思う。巨大な石棺が福島第1原発をおおい、21世紀の原発事故の遺構(負の記念碑)となり、全人類に対する安易な原発利用を戒める警告となるのは当然だと思う。

原発炉心損傷事故の確率なんて求まらない、これからも起きるのだ

2021-03-18 22:53:56 | 原発を考える


ここしばらく朝日新聞は原発の安全管理が行き届いていたかの検証記事を続けて連載している。私はこの努力を評価する。

『炉心溶融事故件研究者』の3回目の記事に、「国際原子力機関(IAEA)は、炉心損傷事故の確率を既設炉で1万年に1回、新設炉で10万年に1回、新設炉で10年に1回を下回るべきだと目標を掲げている」とある。

他の産業とくらべ、少数の原発しか建設されていない中、炉心損傷(メルトダウン)の事故確率なんて計算できるのか、と私は思う。この数値は、単に、チェルノブイリ原発事故やスリーマイル島原発事故を受けて、既設炉で1万年に1回と言っているだけである。しかも、これらの事故は人為的ミスで起きた。

私がいた会社で液晶ディスプレイを生産していたことがある。液晶ディスプレイの画面は100万くらいのセル(画素)からできている。その1つのセルが欠陥であれば、ディスプレイは不良品である。1日に1000台出荷すると、1日に10億のセルの検査があることになる。したがって、何個、欠陥が出るかの確率を求めても意味がある。設計や生産工程の改良でどこまで不良品を減らせるか、出荷前の検査の精度と効率をどうあげるか、などの研究が具体的に行える。

ところが、原発の場合、そうはいかない。第1に炉心損傷事故が起きたら、膨大な被害をもたらす。第2にそんなに原発事故が起きない。世界の原発で、500基弱の原子炉ある。1万年に1回というと、20年に1回、どこかで事故が起きていることになる。しかし、それでも頻度が少ないから、事故を確率的に抑えるとは、どだい無理である。

国際原子力機関は原発推進の機関である。したがって、意味のない確率で安全に原発を運用できると、世界をだまかすために、数値目標を掲げただけである。そして、その推進機関でさえ、事故が起こったので、起こりうると言ったのである。重大事故がこれからも起きるという認識こそがだいじなのだ。

したがって、原発を動かさないのが一番正しい。私は再稼働に反対である。動かさないで日本の経済に何の問題も生じなかった。

それに、炉心損傷事故が起きたとき、それを的確に迅速に対処し重大事故に至らないようにする体制を確立しないで、日本政府が原発を動かすというのは、正気の沙汰でない。原発規制委員会は法規制を守っているかの書類審査を行っているだけで、法規制が技術的問題や運用の安全を保障できるはずはない。

原発で炉心損傷事故が起きたときの対処方法について、国が原発メーカー、電力会社を含めて現場で研究を行っているのか。そして、事故が起きたとき、指揮を誰がとれるのか。首相も原発メーカーの社長も電力会社の社長が指揮をとれるはずがない。彼らに知識がないからである。平時から炉心損傷事故対処のチームをつくり、そのチームの長に、首相や社長より強い権限を与えるべきである。チームの長には、NHKのドキュメンタリー番組で指摘していたように、チームメンバーに死んで来いといわなければならない局面がある。

そうできないなら、原発を再稼働してはいけない。重大事故は起きるのである。津波とか火山とか地震だけでなく、人為的ミスでも起きるのである。あるいは、原発規制委員会が指摘しているように、テロでも起きるのである。

3月14日の朝日新聞の記事『「原発事故、起こるべくして起きた」東電元エースの告白』に電力会社のお粗末な実情が報告されている。

〈東電の司令塔である企画部で順調に出世街道を歩んでいた男性は事故の3カ月後、上司から事故の調査報告書のとりまとめを命じられた。しかし、男性が報告書の原案で原因に触れようとすると、会長の勝俣恒久ら経営陣からは厳しい言葉が飛んできた。
 「事実に立脚していないことは書く必要はない」
 「なんでお前が勝手に決めるんだ」
 男性は「事故は天災で防ぎようがなかったというシナリオを求めている」と感じたという。〉

これは、特に電力会社だけで起きていることではなく、日本の他の製造業でも頻繁に起き得ることである。会社のお粗末さを外に漏らすなということである。ただ、それによっておきる被害の規模は、原発事故に比べてはるかに小さい。

日本の裁判所が勝俣を有罪にして刑務所に送らなかったのは、とても残念である。きのう、伊方原発の再稼働差し止めも広島高裁でひっくり返った。司法も政府や民間企業の経営陣と同じく頭がいかれているのではないか。

東日本大震災も福島第1原発事故も忘れてもいけない、終わっていない

2021-03-10 00:28:32 | 原発を考える


最近、NHKをはじめてとするメディアが、10年前の東日本大震災の復興が遅れていることや、原発事故処理が終わる見込みのないことを報じ始めた。

当初の計画、事故の原発を30から40年で廃炉にできる見込みがないという。私は300年にわたる大事業になるのではと思っている。核燃料が焼け落ちてできたデブリがいまだにトリチウム水を作っているのが異常である。

マグニチュード9.0の大地震が引き金だが、その災害の規模は人間の努力でもっと小さくできたはずである。自然災害から学んで人間の行動を改めるとともに、災害から生き残った人たちを社会として助けるべきである。

約1カ月前の福島沖地震はマグニチュード7.3である。10年前の大地震の約350分の1の大きさだが、福島第1のあの大きな汚染水タンクを15センチ移動させた。そして、1号基と2号機の格納容器の冷却水の水位が1メートル近く下げた。どこかに穴が開いたらしい。

それとともに、NHKのカメラがはいって、原子炉建屋に設置されていた地震計が壊れているままだったことがあきらかになった。また、新たに設置された防潮堤は、これまでの10メートルの高さの防潮堤のうえに、1.5メートルの壁を載せたものであった。東日本大震災のときの津波は20メートルを超えるものだったが、政府の基準がこれまでの10メートルのままであるので、緊急措置で1.5メートルのかさ上げを行ったとのだという。緊急措置だというが、事故後10年がたっている。

去年1月の安倍晋三の施政方針演説では、震災から復興できた、原発事故処理はできた、という論調でつぎのように述べた。

〈2020年の聖火が走り出す、そのスタート地点は、福島のJヴィレッジです。かつて原発事故対応の拠点となったその場所は、今、我が国最大のサッカーの聖地に生まれ変わり、子どもたちの笑顔であふれています。〉
「サッカーの聖地に生まれ変わる」ことが、震災の復興ではない。東日本大震災の被災者がすべてプロサッカー選手になれるわけではない。才能に恵まれた非常にわずかの子どもがプロになれるだけである。

〈常磐自動車道に続き、本年三月、JR常磐線が全線開通します。これに合わせ、双葉町、大熊町、富岡町の帰還困難区域における避難指示の一部解除に向け、準備を進めます。〉

NHKの番組をみると非難を解除されたのはほんの一部ではないか。強引に「JR常磐線を全線開通」し、駅のまわりだけを除染しただけでないか。そして、その駅にいても毎時0.3マイクロシーベルの放射線を浴びるではないか。ここに1年いれば、2.6ミリシーベルの放射線を浴びてしまう。

〈浪江町では、世界最大級の、再生エネルギーによる水素製造施設が、本格稼働します。オリンピックでは、このクリーンな水素を燃料とする自動車が、大会関係者の足となります。そして、大会期間中、聖火を灯し続けます。リチウムイオン電池、AIロボット。未来を拓く産業が、今、福島から次々と生まれようとしています。〉

浪江町に最先端の産業を引っ張ってきても、農業や漁業や牧畜をやってきた人たちに定住の仕事を与えるわけではない。最先端の産業はもともとの地元の雇用を生まない。

〈津波で大きな被害を受けた、宮城県を訪れる外国人観光客は、震災前の二倍を超えました。岩手県では三倍となっています。昨年九月に陸前高田市で開業したばかりの道の駅では、僅か一か月で十万人の観光客が訪れ、賑(にぎ)わいを見せています。〉

観光客が津波の跡を見に大量に訪れるだろうか。漁業が復興しなければ、本当の復興がないだろう。だのに、メルトダウンした福島第1原発から湧き出るトリチウム汚染水を海に放出して、漁業の復興は進むのだろうか。

現状は、復興マネーで、大手の建設会社、土木会社が潤っただけではないだろうか。

安倍を引き継いだ菅義偉は「安心」と「希望」とを今年の1月の施政方針演説で訴えた。これって、精神論に過ぎないのではないか。

菅が語った具体的施策は、つぎである。

〈心のケアなどのきめ細やかな取組を継続するとともに、原発事故で大きな被害を受けた福島においては、「創造的復興の中核拠点」となる国際教育研究拠点を設立します。原災地域十二市町村に魅力ある働く場をつくり、移住の推進を支援します。〉

ここでも、「心のケア」などという「復興は心の問題」という言葉が出てくる。そして、「国際教育研究拠点」の設立が具体的施策だという。いままでの田舎の生活ができれば、というささやかな願いを否定している。「魅力ある働く場をつくり、移住の推進を支援」しても、外からの移住者のためであって、もともと いた人たちの生活を取り戻すことにならない。

そして、菅はつぎのようにいう。

〈安全最優先で原子力政策を進め、安定的なエネルギー供給を確立します。2035年までに、新車販売で電動車100%を実現いたします。〉

CO2対策のため、原発を動かすといっているのだ。しかし、前回指摘したように、規制委員会が設計ミス,施工ミスを見つけ出すことができるだろうか。これまでの重大原発事故、チェノルブイ事故とスリーマイル島事故は人為的ミスである。だから、安全といえない。

そして、重大事故が起きたとき、誰が、犠牲的精神で事故処理をするのだろうか。チェノルブイ事故では、多数の消防士、兵士が動員され、死んだ。

さらに原発は腐敗を招きやすい。関西電力は原発建設に世話になった地元の助役に脅かされて、お金を払い続けたのである。助役が死んでそのことが明るみにでたが、それでも、関西電力は、2018年から昨年まで、公表されていない計15億円のお金を敦賀市に贈っている。

CO2対策というが、どうして、日本政府は国土の緑化をすすめないのか。緑の植物はCO2を吸って、炭水化物をつくる。雨の多い日本は緑化こそ、CO2対策の柱にすべきである。最先端技術の開発は企業に任せば良いのであって、農林業を守るのが国の仕事ではないか。

菅は意味不明のことをいう。

〈主食用米から高収益作物への転換、森林バンク、養殖の推進などにより、農林水産業を地域をリードする成長産業とすべく、改革を進めます。美しく豊かな農山漁村を守ります〉

「改革」や原発が「美しく豊かな農山漁村」を破壊しないことを願う。