日々是チナヲチ。
素人による中国観察。web上で集めたニュースに出鱈目な解釈を加えます。「中国は、ちょっとオシャレな北朝鮮 」(・∀・)





「上」の続き)


 昨年秋に江沢民が引退して胡錦涛政権がスタートした当初、胡錦涛が「靖国神社」に対して如何にナイーブだったか、反日サイトに対する姿勢が如何に強硬だったかを御記憶の方も多いかと思います。

 恐らく胡錦涛は当初、イニシアチブを終始中国側が握った形での未来志向型の対日外交を構想していたのだと思います。

 ところが意外にも日本側の腰が強く、首脳会談でも「参拝しません」との言質をとれなかった。逆にODA打ち切りなんて話を持ち出されてしまいます。

 そこで軍部など対外強硬派からの風当たりが強くなります。「国家統一促進法」(反国家分裂法)制定の動きもその一環でしょう。

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 胡錦涛に対する「弱腰に過ぎる」という反発の表れですが、それが決定的になったのは、
昨年12月に李登輝氏への訪日ビザ発給が確定的になった時点でしょう。それに続いて2月の尖閣諸島の灯台国有化、さらに日米安保の「2プラス2」で「胡錦涛に任せておいて大丈夫なのか」という声が強まったと私は思います。

 その動きが「反日」気運を上手に利用した権力闘争、さらに5月以降の「靖国」を止められない胡錦涛への「ヘタレ認定」へと発展していきます。呉儀ドタキャン事件ではクーデター説との関係も取り沙汰されました。その後の胡錦涛は半ば軍部の操り人形になってしまった観があります。

 
「胡耀邦生誕90周年」イベントは、そうした頽勢を少しでも挽回するためのものです。もともと胡錦涛を推していながら趙紫陽元総書記の死去に伴うゴタゴタで疎遠になってしまった党の長老グループとの関係修復を狙ったものでしょう。清廉とのイメージがある胡耀邦を担ぎ出すことで、胡錦涛の好きな風紀粛正に対する効果も狙っているのかも知れません。

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 上記の限りだと胡錦涛は軍部や対外強硬派とばかり戦っていたようにみえてしまうので、最後にさらに話題を転じておきます。

 例の「炭鉱における官民癒着」で中央が各地方政府の党幹部に資本撤退を求めた件は進展がないままです。新しい情報としては石炭の本場ともいえる山西省で国家機関職員及び国有企業経営者合計190名が自主的に資本撤退を行ったとのニュースがあります。

 http://politics.people.com.cn/GB/1026/3730882.html

 が、たぶんこの数字は25日時点の「貴州、河南、河北など9省の不完全統計で合計497名」に含められているのではないかと思います。

 ●国家機関職員と国有企業経営者497名が炭鉱から資本撤退
 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-09/26/content_3546408.htm

 しかもこの山西省のトップである張宝順・省党委書記は胡錦涛と同じ共青団(共産主義青年団)出身で、つまり
胡錦涛派のホープなのです。その親分のためにひと肌脱ごう、ということなのか、胡錦涛の提唱する「科学的発展観」を実践して山西省が如何によくなったかを力説する文章も発表しています。

 http://news.xinhuanet.com/politics/2005-09/28/content_3554419.htm

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 そういう忠実な子分がいるところがあれば、逆に政敵系列が治めている地区もあるでしょう。ただそれらは言わば例外のようなもので、基本的には「中央政府なんて俺たちの経済発展を邪魔するだけだ」という
「中央vs地方」という対立軸があり、それが対外強硬派や江沢民系列と組んで「アンチ胡錦涛派」ともいうべき政治勢力を形成しているように思います。

 地方のボスにとっては
胡錦涛憎しではなく、地元の開発欲求を常に満たしてくれない「中央」に反発しているのです。仮に胡錦涛が失脚してその後を温家宝が継げば、今度は「アンチ温家宝派」を構成することでしょう。要するに軍部だけでなく、動機は異なれど総論賛成の諸派連合が胡錦涛の相手だということです。

 さて、軍主流派を味方につけたと思われる胡錦涛ですが、「国家主席+党総書記+党中央軍事委主席」という序列ナンバーワンの最高指導者として、軍部とどういう関係を築いていくのか、それに軍主流派の分別がどの程度のものなのかは興味深いところです。ちょっと前に、

「もし米国が台湾問題の絡みで中国の主権の及ぶ範囲(軍艦や航空機を含む)を攻撃したら、西安から東の都市を全て潰される覚悟で米国を核攻撃する」

 みたいな放言をして物議を醸した将軍がいましたよね。確か朱成虎少将でしたか。そういう発言が公になってしまうのは、当時、胡錦涛の軍部に対する統制力がよほど弱体化していたことを示すものです。

 あの勇ましい「朱成虎発言」が軍主流派の意思を代弁しているのなら、中共政権は早晩火病を発端に潰れるしかないでしょう。ですから個人的には軍部の「分別の度合い」と胡錦涛の引きずられ具合、そういったものが目下気になっているところです。



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 素朴な疑問です。

 『朝日新聞』(2005/09/26)が一面トップで陸上自衛隊の「防衛警備計画」なるものを報じました。

「『中国の侵攻』も想定」

 という大見出しに魅かれて、私はつい売店で買ってしまいました(笑)。中国、香港、台湾のメディアは速報といえるタイミングでこのニュースを報じています。電子版で速報しておいて翌日の紙面で詳細な報道を行った新聞もありました。

 いやメディアだけでなく、同日(9月26日)の中国外交部定例記者会見にもこの話が持ち出されています。持ち出した記者はA日かK同か(五七五)。爛々と目を輝かせて中国サイドからの手ひどい日本批判を待っていたのかも知れません。

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 が、さすがに報道官はよく訓練されています。この質問に対しては原則論に終始して、記事そのものについては見事にスルーしていました。

 http://news.xinhuanet.com/world/2005-09/27/content_3553388_1.htm

 で、素朴な疑問なんです。私は外交部報道官としては、上のようなリアクションで正解だと思っています。だって
この『朝日新聞』の記事、ウラは取れていますか?日本政府が公式にその存在を認めたものなんでしょうか?記事が確実なものかどうかを通り越して、話題だけが一人歩きしているように思います。

 そういう無責任な記事がタネ火になって、また反日騒動とかに発展したら……ああ、それはそれでいいことかも知れませんね(笑)。

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 さてそれとは全く別の話。党の重要会議である「五中全会」(党第16期中央委員会第5次全体会議)を前にして、中国政治もややヒートアップしてきた印象があります。

 胡錦涛総書記は、とりあえず
人民解放軍の主流派の支持を取り付けることに成功したようです。根拠ですか?根拠も何もあったもんではありません。ここ数日の『解放軍報』(人民解放軍の機関紙)には胡錦涛を持ち上げる記事がどんどん出てきています。それが国営通信社のウェブサイトである「新華網」にも転載されているのです。

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 ●平和・発展・協力・調和――胡錦涛総書記の国連談話を読み解く
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-09/26/content_3544490.htm

 ●軍総政治部、胡錦涛主席の「汚職汚職根絶・風紀粛正」講話を下達
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-09/27/content_3548787.htm

 ●郭伯雄中央軍事委副主席、駐広東部隊の調査研究会で科学的発展観の実践・貫徹を強調
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-09/27/content_3548971.htm

 ●徐才厚中央軍事委副主席、駐北京部隊で先進性教育活動の専門調査研究会を開催
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-09/27/content_3549094.htm

 ●党の軍事指導理論の重大なる刷新
 http://www.chinamil.com.cn/site1/xwpdxw/2005-09/27/content_303695.htm

 ●新世紀・新段階におけるわが軍の歴史的使命理論シンポジウム、その一側面
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-09/28/content_3557777.htm

 ●胡錦涛主席の重要理論に関する学習会についての発言ダイジェスト
 http://news.xinhuanet.com/mil/2005-09/28/content_3554435.htm

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 9月26日以降だけでもこんなにあります。最後の記事なんか長くて長くて、なかなか終わらないので私はもう半泣き状態でした(笑)。

 こうした文章の中に
「三個提供、一個發揮」「三個素質、四個本領」といった言葉が出てきます。それらをキーワードとする「新理論」で全軍に胡錦涛色を打ち出していこう、ということかと思います。

 簡単に言ってしまうと、
「努めよ」「怯むな」「誇りを持て」「忘れるな」「信じろ」「励め」「負けるな」「進め」……といった、精神主義というかある種の覚悟といった抽象的なものです。

 その点は「雷鋒に学べ」型の風紀粛正キャンペーンに傾きたがる胡錦涛本来の好みと平仄が合っています。いまはまだ無理でしょうが、そのうち江沢民を神棚に祭り上げて胡錦涛が自分なりの軍事指導理論をでっち上げ、それを柱に据えることになるのでしょう。

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 人民解放軍といっても派閥などが色々あるのでしょうが、これだけの勢いで攻勢をかけることができた、というのは胡錦涛が『解放軍報』を制し、軍部の多数派を味方につけたことを意味するものでしょう。ですから記事の洪水は、ある意味その陣取りゲームにおける
勝利宣言のようなものといってもいいかと思います。もちろん、これで全てが終わった訳ではありませんけど。

 問題は人民解放軍の主流派は胡錦涛支持に回った、ということなんですが、「支持に回った=胡錦涛が掌握した」というよりは、「軍部主流派が胡錦涛を担いだ」という色合いが濃いように思えることです。胡錦涛は神輿に乗って担がれているけれども、主導権は自分の手にない……もちろん皆無ではないにせよ、
最高指導者として自由自在に切り回せるような状況にはないという印象です。

 ここから先はもう少し事態が煮詰まってみないとわかりません。ただ仮に軍部が大きな発言力を持つことになるのであれば、対外政策においては当然ながら
武断的なアクションが増えることになるでしょう。

 例えば昨年秋の中国原潜による日本領海侵犯事件、あれは発覚後の中央サイドの周章狼狽ぶりからみて軍部の一部が勝手に先走った結果ではないかと私は思います。胡錦涛の本意ではないでしょう。

 最近では東シナ海の問題のガス田付近に中国海軍の艦艇が出現、それも日中中間線ギリギリのところを狙って航行したようですが、これが武断的アクションといっていいかと思います。

 これも胡錦涛の本意ではないでしょうが、軍主流派に引きずられて認めざるを得なかったのではないかと。軍艦を差し向けて挑発してみせるなんて、いかにも軍人の頭から出そうな発想ではないですか。そして、「原潜による領海侵犯」と「資源紛争地域への海軍派遣」、その深刻度の差が血気に逸った一部の連中と軍主流派との分別の差かと思います。

 ここで念を入れておきますけど、強硬姿勢=武断的アクションではありません。軍事力に拠らずとも強硬姿勢を示すことはできるでしょう。そうではなく、
主として軍事力に拠って強硬姿勢を表現しようというのが武断的アクションです。


「下」に続く)



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