どうも私は温家宝首相が好きになれないようです。
胡温体制と呼ばれる現在の胡錦涛政権ですが、この1年ばかり、何だか胡錦涛総書記ばかりが汚れ役や苛められ役になっているような気がするのです。別に胡錦涛を好きだという訳ではありませんが、胡錦涛の中共政権への危機感は、文書になったものもそうですが、直線的で素人の私にもわかりやすいものです。
ただそれに対する「アンチ胡錦涛」ともいうべき抵抗勢力(諸派連合)があり、折にふれて胡錦涛を苛めたり圧力をかけたりする。いまや国家主席+党総書記+党中央軍事委員会主席という序列ナンバーワンであるのに、政権運営の主導権が胡錦涛の側にあるのかどうかも定かではないような状況です。
で、温家宝はというと、陰で胡錦涛をフォローしているのかも知れませんが、表向きは庶民派を偽装してそのイメージ向上に努め、オイシイところは全部自分が持っていってしまう。エイズ村視察、障害者の子供が学ぶ学校訪問、そして先の小学校訪問などがそうですが、いずれも児童に優しく語りかける。それがまたみんな揃いも揃って女子児童。ひょっとすると幼女趣味があったりして(笑)。
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その温家宝が来月訪欧する予定を延期しました。香港の親中紙にあたってみると、
「より重要な国内事務を処理する必要があるため」(『香港文匯報』2005/09/24)
「目下のところ『その他の重要な国内事務』が何を指しているのかは不明だ。ただこの期間(訪欧を先延ばしにした期間)に共産党の年に一度の大会(五中全会=党第16期中央委員会第5次総会)や有人宇宙船の打ち上げが行われるものとみられる」(『大公報』2005/09/24)
とあります。五中全会の期間中に訪欧することは考えられませんから、その根回しなのか、五中全会の開催そのものが早まったのか。
原因が五中全会絡みで、開催そのものが早まったためならば、それは温家宝にとって予想外の事態が発生した、つまりもっと後に開くべき大会を何らかの望ましくない理由で前倒し開催しなければならなくなった、ということになるでしょう。胡錦涛が党務、温家宝が政務を主に担当していることを考えれば、政務絡みの非常事態が発生した、とも考えられます。
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で、温家宝の訪欧延期と関係があるかどうかはわかりませんが、実はいま政務にとってゆゆしき事態が起きていることは確かです。それが中国国内のメディアにも報じられて私もちょっと驚いています。炭鉱に関する問題のことです。あるいは炭鉱問題によって中央vs地方という対立の構図がはからずも浮き彫りにされてしまった、ということかも知れません。
炭鉱といえば第一に当局の認可や安全審査を無視したヤミ炭鉱が全国に存在していて、それがしばしば炭鉱事故の原因となっていたことが挙げられます。第二はいわゆる炭鉱汚職ともいうべきもので、地元当局の党官僚がヤミ炭鉱ないしは歴とした炭鉱に出資することで懐を暖めているという問題です。官僚にとっては打ち出の小槌ですから、事故が起きてもその隠蔽に協力してやったりします。
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業を煮やした中央政府は8月下旬、「安全生産条件と非合法炭鉱の整理・封鎖に関する通達」という最後通告を発しました。
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2005-08/23/content_3393421.htm
その内容はといえば、まずヤミ炭鉱に対して「直ちに操業を停止しろ」となっています。ただこれは一発退場ではなく、あくまでもイエローカード。
「基準を満たしていない炭鉱には1度だけ操業停止・環境改善の機会を与え、期限までに安全生産許可証を手にできなかった炭鉱については法によって一律閉鎖とする。操業停止による環境改善の期限は今年末を超えてはならない」
要するにヤミ炭鉱にも1度だけ更正のチャンスを与えるというものです。
と同時に、炭鉱に対し出資している官僚に対し、1カ月以内に資本を引き上げるよう厳命しています。汚職の温床や事故隠蔽の根を絶つ措置です。最終期限は9月22日。
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ところが、この出資問題の進捗状況がどうもうまくいっていないんです。9月22日という期限を過ぎても、上の通達に従わない地方があります。
最もあからさまなのは内蒙古自治区です。『中国青年報』(2005/09/22)によると、22日当日の午後4時現在で、出資とりやめに応じた官僚はなんとゼロ。1名もいないのです。「通達」を発した中央政府からみれば「造反官僚」ということになります。
地元の炭鉱経営者の間では「官をクビになっても出資は取り下げない」という言葉があるそうです。「年間20万元投資すれば、収益は20万元を下らない」ともいわれているそうですから、出資している役人にとってこれほどオイシイ話はない、ということなのでしょう。
http://news.xinhuanet.com/legal/2005-09/22/content_3524583.htm
全員が「通達」を無視したことで際立ってしまいましたが、もちろんこれは内蒙古自治区に限ったことではありません。「造反官僚」は全国各地に遍く存在しています。
9月22日の期限を迎えたことで各地の進展状況を伝える記事の標題は、
「すでに自主的に資本を引き揚げた官僚がいる」
となっています。要するに「炭鉱と縁を切っていない官僚がまだたくさんいる」ということでしょう。
http://news.xinhuanet.com/legal/2005-09/22/content_3524901.htm
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同じような内容の記事があります。
http://news.xinhuanet.com/legal/2005-09/22/content_3524901.htm
官僚の出資問題についてのみピックアップしますと、
広東省:具体的数字はまだ明らかになっていない。
貴州省:すでに自主的に資本を引き上げた者がいる。
内蒙古自治区:出資をとりやめた者は誰一人いない。「クビになっても出資はやめない」との言葉も。
陜西省:出資をやめない者は免職との最後通牒。
山西省:期限(9月22日)までに出資をとりやめない者は免職とする方針。
……とまあこんな感じでして、要するに期限までに全員が「通達」に従った地区はなく、中央の言うことを聞かない役人がたくさんいる模様です。
各省・自治区の対応も本腰を入れているのか中央政府向けに「ウチはちゃんとやってますよ」とポーズを示しているのか、よくわかりません。まさに「上有政策下有対策」(中央に政策があれば地方にはその対策がある)を地でいく状況です。
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地味なニュースではあるのですが、これほどの「造反」ぶりも珍しいものです。各地方政府に対する中央の威令が届きにくくなっていることを示す現象として記憶しておいていいかと思います。
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