ほとんど視力のないマラソン選手、道下美里みちしたみさとさん(38)(福岡県太宰府市)が、26日に英国で行われたロンドンマラソンの視覚障害者部門で3位に入賞した。
ブラジルで来年開催されるリオデジャネイロ・パラリンピックでは初めて視覚障害者の女子マラソンが正式種目になる。道下さんは今回の成績でリオ大会出場が内定し、夢に大きく近づいた。
「優勝できなかったのは悔しい。でも、正直ほっとしている」。記録は3時間3分26秒。9人が出場した視覚障害者部門でロシア、スペインの選手に続いてゴールした。今大会は国際パラリンピック委員会(IPC)の世界選手権も兼ね、日本盲人マラソン協会(東京都文京区)の「3位以内に入れば日本代表の推薦順位1位」との規定をクリアした。
「パラリンピックという大きな舞台で走ることが夢だった。正式種目になると信じて、リオ出場を目標に頑張ってきた」。同協会によると、パラリンピック競技の視覚障害者マラソンは現在男子だけだが、来月にも女子も正式種目に決定する予定。その先には、2020年の東京大会もある。
目は、子供の頃は見えていた。アミロイドというたんぱく質が角膜にたまる病気で、右目は小学4年の頃から悪くなり、中学2年で失明。その後、左目もだんだん見えなくなり、25歳の頃、視力をほとんど失った。
身長1メートル44。失明後、中学生の頃にやっていた陸上の中距離走を始めた。パラリンピックを目標に国際大会で走ったところ、外国人選手との体格差があまりにもあり、世界では戦えないとあきらめた。趣味で始めたのが、マラソンだった。「小さくても勝てる、と思った」。競技人口も徐々に増え、この2、3年はリオ大会で正式種目になることが現実味を帯びてきて、再び夢も膨らんだ。
輪になったロープを握り、伴走するのは歯科医の樋口敬洋たかひろさん(39)(福岡市中央区)と会社員の堀内規生のりたかさん(34)(同市西区)。中間地点で交代する。福岡市でともに走るクラブの仲間で息はぴったりだ。カーブや路面の突起、給水場所などを絶妙のタイミングで教えてくれる。栄養士やトレーナーらの支えもある。
「視力は失ったけど、走ることは楽しく、たくさんの人との出会いに恵まれた。障害者スポーツをもっと知ってもらい、この競技を始める人が増えてほしい。リオ大会では金メダルをとりたい。がんばります」
バッキンガム宮殿に近いゴール手前の直線コースを走る道下さん(右)と、伴走者の樋口さん(26日、ロンドンで)