JAにじが運営する農産物直売所「にじの耳納の里」(うきは市吉井町福益)。野菜や果物が並ぶ中で、クスノキのチップを袋詰めにした「クスのちから」が売れ行き好調という。消臭や防虫などに効能があるとされ、市内の障害者施設が商品化した。発売までの経緯をたどりながら、この小さな商品に込めた人々の思いを追った。
発端は「鳥」だった。同市浮羽町山北の芝尾山中腹に、山春尋常小学校(山春小の前身)の運動場跡がある。いつ頃まで使われたか記録はないが、うっそうとした森のようになって久しい。中でも枝を張ったクスにはカラスなどが盛んに巣をつくり、周辺の果樹園への食害が深刻化。農家の苦情を受けた市は昨年夏、5本を伐採した。
いずれも樹齢100年を超す大木。切り倒した後の処置に困った市は、うきはブランド推進隊(地域おこし協力隊)の女性隊員、小崎尚美さん(31)に相談した。神奈川県出身の小崎さんは東京農工大で「森林科学」を専攻。2014年から市嘱託の「地域資源活用プランナー」として活動中だ。
「クスは古来、樟脳(しょうのう)の原料。伐採した木を活用してもらえればと、県内の樟脳製造業者を探し出した」という。ところが、業者が必要とするのは幹の部分だけで、すべて引き取ってほしいとする市側の希望と合わず、交渉は頓挫。そこで思い出したのが、2年前に知り合った大分県日田市で木材加工業を営む原田重臣さん(67)だった。
原田さんは8年ほど前からクスノキをチップにし、日田市内の障害者施設に袋詰めを委託する活動を続けており、引き取りを承諾した。その上で「うきは市の木なのだから、地元の障害者施設の支援に役立てたらどうか」と市に提案。原田さんの工場でチップ化し、市社会福祉協議会(石井忠孝会長)が運営する障害者就労支援事業所「ワークサポート白鳥の家」(同市浮羽町朝田)で通所者が選別、詰め込み、シール貼りをして商品化することが決まった。
市社協職員で同事業所管理者の天野宏一さん(46)は「従来のパンや雑貨製造に新たな仕事が加わることで、通所者の受け取る工賃アップにつながる」と歓迎。「クスのちから」と名付け、今年4月に事業所内の「白鳥の家ショップ」で発売した。次いで「にじの耳納の里」にも販売を依頼し、快諾を得た。店長の佐藤賢二さん(52)は「障害者施設を応援しようと引き受けたところ、予想を上回る売れ行き」と話す。
「クスのちから」は30グラム入りの小袋四つが1セットで500円。同事業所は5月、熊本地震被災地に100セットを贈り、大いに喜ばれたという。クスノキがもたらした心意気の輪が、さらに広がることを期待したい。
問い合わせはワークサポート白鳥の家=0943(77)4866。
にじの耳納の里などで販売されている「クスのちから」。1セット4袋で、うち1袋は巾着入り
クスのチップを袋詰めするワークサポート白鳥の家の通所者
=2016/07/20付 西日本新聞朝刊=