「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

死の隣 …… 「生死命(いのち)の処方箋」 (6)

2010年08月05日 20時48分01秒 | 「生死命(いのち)の処方箋」
 
(前の記事からの続き)
 
○佐伯宅

  淳一、 ぐったりしたポチを 撫でている。

美和子 「すっかり 弱ってしまったね……」

淳一 「(ポチを抱き上げ 顔を覗き込んで)

 こいつ、 もうすぐ自分が 死ぬかもしれない

 なんて 考えてるのかな?」

美和子 「人間も考えずに過ごせたら 幸せなの

 かもしれないね……」

淳一 「……そんなことないよ…… 死ぬの考え

 られるって、 幸せだよ……」

美和子 「………」

淳一 「みんな 一度は死ぬんだもんな……。

 オレだって、 いつ死んでも おかしくないん

 だから……」

美和子 「死ぬことばっかり言わないの、 縁起

 でもない」

淳一 「何で 死ぬの嫌がるの」

美和子 「当たり前じゃない」

淳一 「オレは子供のときから ずっと死と一緒

 に 生きてきたんだよ……」

美和子 「あたしがきっと 助けてあげる、 その

 ために 今まで頑張ってきたんだもん」

淳一 「………」

美和子 「いつでも この肝臓あげるから」

淳一 「……(不服そうに) あんまりあげる

 あげるって いつも言うなよな」

美和子 「え……?」

淳一 「オレぁ、 姉キのために 生きてるんじゃ

 ないんだよ、 オレはオレで生きてんだ!

 死ぬのだって……! (ポチを抱えて 立ち上

 がり、 部屋を出ていこうとする)」

美和子 「何よ、 それ……?」

  淳一、 何もない所で つまずいて転び、

  ポチがビタッと落ちる。

美和子 「ジュン……!?」

  びっくりして 淳一に駆け寄る美和子。

美和子 「まさか……!?」

淳一 「(取り繕って) 何でもないって、 青春

 の蹉跌っていうやつ……」

美和子 「(真剣な表情で 人差し指を 淳一の前

 に差し出す) やってみて」

淳一 「(美和子の手を振り払う) いいよ、

 E・Tごっこは……」

美和子 「(指をジュンに突きつけ) やって

 !」

淳一 「(渋々と) ………」

  淳一、 美和子の指先に 自分の指先を合わ

  せようとする…… が、 すれ違ってしまう。

淳一 「!!……… (動揺を隠す)」

美和子 「とうとう来たの……!?」

淳一 「(笑ってごまかす) なんちゃって、

 びっくりしただろ」

美和子 「ふざけないで!  もう一度! (指を

 差しだす)」

淳一 「……… (真顔に戻る)」

  淳一、 もう一度 試みる。

  が、 できない。

美和子 「ジュン……!?」

淳一 「ち、 ちょっと 疲れてるだけだよ……

 !」

  淳一、 立ってポチを抱え、 行こうとする。

  バランスを崩して転び、 掴んだテーブル

  クロスから 食器が音を立てて 砕け落ちる。

美和子 「ジュン……!!」

  淳一の手が 小さな痙攣を起こす。

美和子 「(必死に 淳一の手を押さえ) 落ち着

 いて……!!  大丈夫よ……!!」

  青ざめて震える淳一。

(次の記事に続く)
 

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