「境界に生きた心子」

境界性パーソナリティ障害の彼女と過ごした千変万化の日々を綴った、ノンフィクションのラブストーリー[星和書店・刊]

同一性障害 (1)

2008年04月15日 22時22分37秒 | 「BPDを生きる七つの物語」より
 
 多くのBPDの人は、

 自分が 他者とは別の存在であるという 感覚を確立できていません。

 誰かのふりをしている という不安と、

 いずれ それが 「ばれる」 という恐れに 悩まされているといいます。

 それは子供時代、高圧的な親によって 自立が妨げられたり、

 逆に 年端もいかないのに 大人の役割を 無理強いさせられたことによります。

 心子もまた、「本当の自分が分からない。どれが本当の私?」と 言っていました。

 子供のときは、病死を恐れる 父親を慰める、

 小さな大人の役目を 負わされていたのでした。

(ただしそれは、心子の心的事実でした。)

 BPDには、そのとき一緒にいる人に 合わせて振る舞う タイプの人がいます。

 一貫した自己像の 確立に失敗すると、空虚な感覚に陥り、

 自分の存在も 無価値なものになってしまいます。

 心子が 僕のいない場所で 他の人といるとき、

 どのように振る舞っていたか 分かりませんが、

 僕の目の前でも 何かのきっかけで 一遍に自分を失い、

 虚無的になって 生きる意味をなくしてしまうのは、常にあったことでした。

 乳幼児は、親から無条件に 受容されることによって、親に同一性を見いだし、

 やがて そこから自立していく過程で、自己同一性を発達させます。

 同一性の混乱は、このプロセスが うまくいかなかった結果です。

 あるBPDの人は 子供のとき、

 親から確固とした基準を 示してもらうことができませんでした。

 今日良かったことが、明日は悪くなり、

 何を元にして 行動していいのか分かりませんでした。

 脈絡のないまま、その場その場の 対応をしていかなければなりません。

 そして 成長するにつれて、

 人が自分に どう振る舞ってほしいか 察知できるようになり、

 求められる役を 演じ分けるようになってしまったのです。

 それは真の自己を 失う危機でした。

(因みに、演技性パーソナリティ障害は、

 人からの関心を 求める余り、過剰な魅力をもって 演じるものです。

 注目浴びていないと 自分は無価値だと思い込み、

 人目を集めること自体が 目的となって、

 自分を損なうようなことをも してしまいます。)

(続く)

〔「BPDを生きる七つの物語」(星和書店)より〕
 


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