ひまわり博士のウンチク

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駅のホーム、小鳥のさえずり

2014年04月15日 | まち歩き
 まったく知らなかった。
 何十年も東京に住み、同じ駅を何度も使っているのに気にも止めていなかったことを知らされた。
 視覚障害のあるライターのS君を出版社に紹介するため、水道橋駅で待ち合わせた。
 歩きながらふと、こんな質問をしてみた。
 「S君は、ひとりでどこでもふつうに出かけているけれど、電車の乗り換えは不自由しないの?」
 「乗り換えはだいじょうぶ。ただ一度方向感覚を失うと修正するのがたいへんだけど」
 彼は、生まれながらの視覚障害者ではない。まったく見えなくなったのは10年ほど前だ。だから彼には、見えていたときの記憶があって、知っている場所ならば風景が浮かぶという。ただ、都心部はこの10年でだいぶ変わってしまっていて、かつて目印とされていた建物や店などがなくなっている例も少なくない。
 「はじめての駅だと、階段の位置がわからないんじゃない?」
 「鳥がさえずってるんだ。だれもそれを教えてくれなかったから、気づいたのは最近なんだけど、階段の上のほうから鳥の声が聞こえる」
 言われてみると、階段の上にスピーカーが設置されていて、断続的に鳥の声が聞こえる。
 「なるほど、それは知らなかった」
 「でもね、どの駅にでも鳥がさえずってるわけじゃないんだ。大きな駅、たとえば、新宿駅にはない」
 「ええ? 逆かと思った」
 「騒がしい駅で鳥がさえずっていても気づかないからね」
 「たしかにまぎれてしまうね。でも、何らかの工夫はほしいね」
 健常者なら、ただのBGMとしか思えないだろう。しかし、駅にそんな工夫があったとは今の今まで知らなかった。
 視覚障害というのは、障害の中でもことさら生活に大きな影響を及ぼす。それでも彼は、さまざまなツールを駆使して、文章も読むし原稿も書く。
 彼からこんなことを聞いた。
 「よく、目の見えない人の気持ちを知ろうなんてイベントがあって、目隠しをして街を歩いたりするよね。〝こわい、こわい〟なんて言ってるけど、実際に視覚に障害を持つと、ぜんぜん違うんだ。恐さとか不便さとか、目隠しして歩くのとはずいぶん違うもんだよ」
 周囲が思うほど、生活がたいへんではないのだそうだ。
 「わからなかったら、まわりの人に聞くから」
 
 最近は、周囲の光景を脳に直接伝える電子機具の研究がされているらしい。障害者のためのさまざまなハイテク機器は、彼らに健常者以上の能力をあたえる場合さえある。ハンディを抱えた人々が、ハンディを感じさせない時代がくることはそう遠くないかもしれない。
 


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
歩行能力や腕力をサポートする最先端技術、私もテレビで... (みどり)
2014-04-15 23:05:29
歩行能力や腕力をサポートする最先端技術、私もテレビで見てはびっくりしています。

一方でふつうに願うのは、車椅子利用可のトイレがもっと街にあればということ。つれあいが同行する際は、それが何より重要なポイントになるんですね。
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街には車椅子でないとわからない小さな段差が無数... (ひまわり博士)
2014-04-16 12:48:14
街には車椅子でないとわからない小さな段差が無数にありますね。健常者から「あそこには段差がありませんから」と伝えられて出かけると、2、3段の階段があったり。通路の幅が狭かったり、車椅子では曲がれなかったり。
たしかに、身障者用のトイレはかなり限定されますね。公共施設などにはありますが、中規模以下のビルにはまずありません。以前、身障者のための都内の案内図をつくったことがあるのですが、そのとき、肝心の出版社のビルにそれがなくて、そこの社長は強くそれを求められて困惑していました。
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