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松本清張ドラマ「坂道の家」「霧の旗」

2014年12月08日 | テレビ番組



 (写真はともに、テレビ朝日ホームページより)
 
 松本清張生誕105年ということで、(浅学をさらすことになるが、この105という数字にどんな意味があるのかよくわからない。太宰治をはじめ何人かの偉人・著名人の「生誕105年記念」なんやらというのがあるので、きっと意味があるのだろう)テレビ各局が松本清張原作ドラマの旧・新作を多数放送している。
 12月6・7日、2作品が2夜連続、テレビ朝日系列で放送された。
 
 松本清張ドラマと言えば、映画では「砂の器」、ドラマはテレビ朝日の米倉涼子ものが有名だが、連続・単発を含めてすさまじい本数の映画やテレビドラマが製作されている。同じタイトルの作品でも、キャストや演出を変えて複数あるので、筋を知っていてもけっこう楽しめる。
 
「坂道の家」の原作は、短編集「黒い画集」に収録されている一編だが、これがまた少しずつ設定を変えて何度もドラマ化されている。1960年のラジオ東京テレビジョン「現在のTBS」に始まって、今回で6回目だ。
 これまで最も印象に残っているのは、1983年日本テレビ制作の坂口良子・長門裕之版だ。昭和の香り一杯のドラマで、坂道にある家も愛人を匿うにはどうかと思えるような渋い一軒家であった。ただ、当時の坂口良子は演技力はともかく、人間ばなれした美しさがあった。それと好対照の地味な初老の男を演じる長門弘之の、鬼気迫る演技がすごい。
 たぶんどこかで再放送すると思うので、一見の価値ありだ。
 
 さて、今回の「坂道の家」は主演が尾野真千子、男が柄本明。原作とは設定が異なり、杉田りえ子(尾野)がキャバレーのホステスではなく、理容師になっている。寺島吉太郎(柄本)の職業も小間物屋ではなく布団屋。設定を変えたことに意味があるとは思えないし、理容師に布団屋が入れ上げるというのもいささか無理があると思うのだが、そこはまあ、これまでと同じにしたくないという脚本家の意地であろうと目をつぶることにする。
 りえ子が吉太郎を氷漬けにして殺すのは原作どおりだが(これを変更したら作品でなくなる)、恋人の川添直樹(小澤征悦)に大きめのクーラーいっぱいの氷を担がせて坂の上まで運ばせ(まずこれすらも無理)、坂の上から自宅まではりえ子が1人で運んでいる。どれだけ怪力なのかと思った。
 ちなみに原作と過去の作品では共犯者の名前が「山口武豊」であったが、これもなぜわざわざ変えたのかよくわからない。
 そもそも尾野真千子に、こういった男をたらし込むような役は合わない。好きな女優の1人ではあるが、どちらかというと女を感じさせないサバサバ系で、美人度もそこそこだ。過去にドラマで同じ役を演じた黒木瞳や坂口良子とどうしても比較してしまう。柄本明がはまり役だっただけにもったいない。
 ストーリーは上手くできているのに、各所にほころびが見られて残念。
 
「霧の旗」は映画化が2回、ドラマは今回で9回目という、清張ものの定番ともいえる作品である。有名なのは1977年の映画、山口百恵、三浦友和主演で、弁護士が三国連太郎という作品。なぜだかものすごく印象に残っている。映画館で公開時に観ただけで、さきごろCSで放送されたものは録画したまま観ていない。
 
 柳田桐子(堀北)の弟が殺人罪の容疑で逮捕された。あきらかに冤罪を疑われる事件だが、知的障害を持つ弟には、きちんと状況を説明する能力がない。そこで、冤罪訴訟で定評のある売り出し中の弁護士、大塚欽三(椎名桔平)に弁護を依頼するが、けんもほろろに断られる。愛人とゴルフ旅行に行くのが理由だった。
 懲役刑が確定した弟は、収監中に死亡する。桐子は依頼を断った弁護士にすべての責任があると、大塚を陥れる計画を実行する。
 
 主演の堀北真希がいい。彼女はこれまで、あまり女を武器にするような役はやってきていなかったが、もう26歳、十分大人の役がこなせる女優になった。ずいぶん色っぽくなったなあと、感心。
 原作と異なる点は、冤罪で獄中死する身内が原作では兄だが、本作では知的障害を持つ弟になっている。自分の身をまもることが思いどおりにできない人間が、潔白を証明するにはたよれる協力者の力が欠かせない。高名な弁護士(椎名桔平)に依頼することの必然性に説得力を持たせている。この設定の変更は納得できる。
 原作の時代は、すでに「はるか昔」になってしまった「昭和」。現代に引きつけることで、ややもすると不自然さが出てしまうものだが、抵抗なく観ることができた。
 エンディングで、してやったりの堀北真希が、うっすらと口元で笑う。それでも何ら気が晴れることのない微妙な表情がゾクリとする。好演の堀北真希に拍手。
 
 この2作品、ともに力の入った作品ではあるが、出来は「霧の旗」に軍配を上げたい。断っておくが、尾野真千子の演技が下手という意味ではないので悪しからず。


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