4月24日、東京池袋のみらい座池袋(豊島公会堂)で「教科書検定意見撤回を求める4・24全国集会」が行われました。事前の告知が十分でなく、しかもはっきりしない天候のもと、いささか出足が悪く、キャパ800人のところ主催者側発表で350人(実数250人程度か)。講演者の顔ぶれをみると、いささかもったいないイベントでした。
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◇教科書検定意見撤回を求める4・24全国集会プログラム◇
報告1
■ 東京から:検定意見撤回と記述回復の取り組み
石山 久男さん(歴史教育者協議会委員長)
■ 大阪から:大江・岩波沖縄戦裁判 地裁判決報告
小牧 薫さん(大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援連絡会事務局長)
■ 沖縄から:基地問題・教科書問題~沖縄からの報告
山口 剛史さん
(沖縄戦の歴史歪曲を許さず、沖縄から平和教育をすすめる会事務局長)
大浜 敏夫さん(沖縄県教職員組合委員長)
松田 寛さん(沖縄県高等学校障害児学校教職員組合委員長)
*首都圏在住の沖縄出身大学生からの発言
報告2
■ 教科書検定制度の問題点を暴く
俵 義文さん(子どもと教科書全国ネット21事務局長)
■ 理科教科書検定の実態と学界からの批判
小佐野 正樹さん(教科書シンポジウム世話人会)
講演
◆世界から見た日本の教科書検定一一私の経験を通して一一
暉峻 淑子さん(埼玉大学名誉教授)
主催 沖縄戦検定意見撤回を求める4・24全国集会実行委員会
大江・岩波沖縄戦裁判を支援し沖縄の真実を広める首都圏の会(歴史教育者協議会、日本マスコミ文化情報労組会議、沖縄平和ネットワーク首都圏の会、子どもと教科書全国ネット21、日本出版労働組合連合会、ピースポート、フォーラム平和・人権・環境 日本ジャーナリスト会議)、大江健三郎・岩波書店沖縄戦裁判支援連絡会、沖縄戦の歴史歪曲を許さず沖縄から平和教育をすすめる会、沖縄戦教
科書検定意見撤回を求める市民の会・東京、教科書・市民フォーラム、教科書を考えるシンポジウム世話人会、子どもの権利・教育・文化全国センター、地方史研究会、東京教育連絡会、東京歴史科学研究会、日本史研究会、歴史科学協議会、歴史学研究会(五十音順)
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撮影録音は禁止とのアナウンスがあり、こっそり録音はしましたが、さすがに写真は撮りにくかったので、何枚かの隠し撮りだけ。
開演10分前に、カンペを見ながらの素人コントが始まりました。昨年の教科書検定での、文科省の対応をギャグにしたもので、「軍命とは文書化されていなければならないと、文科省は言ってます」「住民に配っちゃったので、もう武器がありません」など、上手にやればけっこう笑いの取れる内容ですが、間が悪くイマイチ。
■ 石山久男氏
検定意見の撤回だけでなく、検定制度そのものを抜本的に見直すか、あるいは検定そのものを廃止すべきという意見。
■ 小牧薫氏
大阪地裁での判決当日のようすを報告。
勝訴の旗を掲げ、「たくさんの人がこの旗が出るのを待っていてくれました」。
傍聴券の抽選に外れた人も、前庭で待機していましたが、原告側の傍聴希望者は抽選に外れると、かんたんにあきらめて引き上げて行ったそうです。
勝訴の旗を用意することなく、すでに敗訴を予知していた様子だったとか。
原告側は34人の弁護団を結成していたものの、まったくチームワークがとれておらず、陳述書提出は遅れ、誤字脱字文法はめちゃめちゃのひどいものであったといいます。
被告側の弁護士は3人だけでしたが、十分に活躍して証拠を揃え、今回の勝訴に結びつけたと報告しました。
最後に、こんな発言がありました。
「大江さんはこの裁判の勝利のために奮闘されましたが、私は大江さんの『沖縄ノート』には納得のいかないところがあります。それは、本土と沖縄を対立させたものとし、本土の人間に反省を迫るというのがこの本の主題でもあります。本当にそれでいいのか。(中略)また、“集団自決”という言葉は軍隊用語だから使うべきではない、これからは“集団自殺”という言葉を使うということを、(文章に)書いたり語ったりしている。“集団自決”と“集団自殺”ではどこがどう違うのか。やっぱりそれは間違っている。大江さんが間違っていることを指摘し、歴史から学び、歴史を広めることをしてほしい」
この発言について、ひまわり博士としては賛成いたしかねます。沖縄は本来琉球王国という独立国であって、民族的にも本土とは異なります。江戸時代に非武装の島を島津が侵略し、支配しはじめたのが沖縄差別の始まりです。
その後明治政府による強圧的な琉球処分によって、沖縄は力ずくで日本に併合されたのです。対立があるのは当然のことで、本土が沖縄に対して反省し謝罪することは、今後の沖縄との良好な関係を作るためには絶対に必要なことです。
小牧さんのこの発言は、チベットに対する中国政府の態度とオーバーラップします。
また、“集団自殺”という言葉に対しても批判していますが、これは大江さんなりに検討し、言葉を選んだ結果であって、悪意あるものではありません。それどころか、言葉の善し悪しはともかく善意での言葉の選択です。討論すべきことではあっても、批判するのはまったくお門違いです。
ましてや、沖縄戦について、今後も共闘していかなければならないのですから、こうした内部矛盾を集会などの公の場でさらすことはお互いの中に敵対意識を生み出します。このような軽率な行為こそが、内部分裂を引き起こす要因です。
大江さんと小牧さんの意見の違いは敵対矛盾ではないはずです。したがって、内部矛盾であるならば徹底的に議論し解決点を見いだすことに努力をしなければならないはずでしょう。
また仮に接点が見いだせなくとも、目的が同じであるならば多少の表現の違いは認めるべきです。
「小異を捨てて大同に従う」という言葉があります。小牧さんには肝に銘じていただく必要のある諺です。
■ 山口剛史氏
文科省への抗議活動の中で、対応した池坊保子副大臣、「係争中に教科書を変えるいしはない」と検定意見を撤回しない理由を発言。係争中だからという理由で最初に検定意見を出したのは文科省であるにもかかわらず、あまりに無責任。
■ 大浜敏夫氏
「米兵のトラック」という30年前の子どもの死を朗読しました。
どうして、米兵はクチャクチャがむを噛みながらやってくるの、
戦争はもうとっくの昔に終わったのに、
憲法九条でもう戦争はしないことになっているのに。
……(原本がありませんので、あとでテープから起こします)
沖縄で、アレン・ネルソン氏(『ネルソンさんあなたは人を殺しましたか』の著者。元米兵)の講演があり、「沖縄に来る米兵の目的は、殺人訓練、そして酒と喧嘩と女」だといいます。
■ 首都圏在住沖縄出身大学生(カキノハラさん)
浦添(彼女の出身地)で化学兵器と見られる米軍の不発弾が見つかり、沖縄で戦争があったことを実感。
本土の友人と沖縄についての話をし、あいては日本の地図で沖縄県が線引きされて別枠になっているのは、日本ではないと思われているからかと言ったそうです。
軽いエピソードでした。
■ 俵義文氏
教科書検定は無料ではない。
1ページあたりの審査料 小学校280円 中学校450円 高等学校560円
最低料金が設定されており、それは56,000円。
たとえば小学校のようにせいぜい100ページ程度の教科書だと単価計算で28,000円だが、56,000円が必要。
検定で誤字脱字のチェックはしない。
チェックされるのは、国の方針とは異なる部分がチェックされる。
たとえば、原発について、危険などの問題点は記述してはならず、良い点だけを記述するように検定意見が述べられる。
さらに、実にばかばかしい検定の例が述べられました。
〈一例〉
小学生が作った「川」という詩が検定によって削除されました。
「さら さるる ぴる ぽる どぼん
ぽん ぽちゃん
川はいろいろなことをしゃべりながら流れていく……」
これに対し、水の音はほんらい、サラサラなのだから全文そう直せ、という検定意見がつきました。子どもの感性を無視した、何をかいわんやの検定です。
小学校の国語の教科書で、「たかのす取り」という、子どもが木にのぼってたかのすをとる話に検定がつきました。
「木のぼりのような危険なことを教科書に載せるのは好ましくない」
生活科の教科書。
「しぜんのうごきはうつくしい。あるくのはかちまけのないスポーツだ」
「競歩」というスポーツがあるので、この記述は間違いである、のだそうです。
「おふろからでて はしったとき とまったとき あるいたとき 同じ足なのに あしあとはかわる」
しつけに問題がある。お風呂から出たらちゃんと体をふくはずだから、足あとはつかない、そうなので、この文章はダメなのだそうです。
こんなアホな検定に56,000円。まったくの無駄ですね。
■ 小佐野正樹氏
小佐野氏からは、槍玉に挙げられることの多い理科の教科書についての発言がありました。
環境問題や生物関連がとくに狙い撃ちされ、教科書が歪められる原因になっているそうです。
国の方針に従わない環境問題に関する記述は、間違いなく修正され、生殖を連想させるような生物の記述も不可だそうです。
メダカの産卵の項で、二匹のメダカが重なり合って見える写真は不可。離れているものに差し替える。
植物で、花びら、がく、おしべ、めしべだけを記載する、子ぼう(種や果実の元になる部分)は子宮を連想するので不可。
多くの学者がこの検定制度に遺憾の意を表しています。
■ 暉峻淑子氏
中学校公民の教科書の、著書『豊かさとは何か』(岩波新書)からの引用が、事実と異なるということで検定意見が付けられたことに触れ、行政に不利な記述はすべて誤りだとする態度に怒り。
これは、生活保護を無理に辞退させられたことを苦に、福祉事務所を非難する遺書を残し、自殺したというニュースの件。
これについて厚生省の社会局長が「遺書は迷惑をかけたことへのお詫びとお世話になったことへの謝意につきており、直接の死因は環状動脈硬化症による病死とされている」という国会答弁を行いました。
その、「迷惑をかけたことへのお詫びとお世話になったことへの謝意につき」ている遺書とは以下のものです。
福祉の××さん
貴女の言われた通り 死んでもかまわないと申された通り 死を選びました
満足でせう 女は女同士いたわりがほしかったのです
自分のお金でも下さる様に福祉をことわるのなら今すぐことわりなさい
福祉は人を助けるのですか ころすのですか 忘れられませんでした。
××さん (署名)
××に渡してください
この遺書を、検定意見を出した文科省に見せたところ、けっしてナンバーワンは応対せず、ナンバーツー以下で、「国家公務員にとって上司の言うことはすべて正しい」のだから、それに従ったまでだと言います。
では、白い紙を黒だと言われれば黒だと言い、雨の日を晴だと言われれば晴というのか、とただすと、「ハイ、そういうことです」としゃあしゃあと答えたとか。
あまりに長くなりますのでここでは割愛しますが、暉峻さんはこの他にも、ユーモアを交えながら興味深い題材を分かりやすく説明してくれました。
日本でいう文科省をもたないドイツが、いかに国との間に一線を画しているかなど、具体的な例を挙げて述べられました。
こうした制度の違いについてはぜひとも詳しく調べてみたいものです。
しかし、暉峻さんは当年80歳、実にお元気です。
今回の集会は、さまざまな問題も含んではいましたが、それぞれのはなしの中に多くの有意義な内容を含んでいました。
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