ひまわり博士のウンチク

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原民喜 未発表原稿

2008年04月10日 | 本と雑誌
Mitabungaku

 先日の朝日新聞に、別の小説原稿の裏に書かれた原民喜の未発表原稿が発見され、それが『三田文学』の春季号に掲載されるというので、どんなものだろうかと荻窪の八重洲ブックセンターに注文しておきました。
 それが今日(10日)、発売日に入荷したということで、昼食がてら受け取ってきました。

Soukou 〈asahi.comより〉
 被爆体験をつづった「夏の花」で知られる作家、原民喜(1905~51)の未発表原稿が見つかった。47年に発表された短編「雲の裂け目」の初期段階の草稿とみられるが、文章はまったく異なる。民喜は普通の社会生活を送るのが困難なほど極端な無口だったとされるが、発表稿にはない、〈一人立(ひとりだち)の出来ない大人になつてゐた〉原因が草稿には直接に記されており、民喜の人格形成の原点に迫る資料として注目される。
 草稿は、遺族から広島市立中央図書館に寄贈された遺品1400点余りの中から、民喜の研究者である「広島花幻忌の会」会員の竹原陽子さんが見つけた。戦前に発表した原稿の裏に5枚にわたって書かれていた。(3月11日『朝日新聞』)


 一般の読者として読んでみると、自分の両親、特に父親に自分を重ね合わせ、自分と妻の関係について言い訳をしているような作品で、あまりおもしろいものではありませんでした。
 発見者の竹原陽子氏の解説が同時掲載されています。

 竹原陽子氏の解説の詳細はともかく、僕が読んだ印象は、草稿というより、それ以前の下書きあるいはメモ書きに毛の生えたようなもの。
 これって、活字にして発表するようなものだろうか、と思ってしまいます。

 未定稿とか草稿といわれるものの中にはたしかに名作も少なからずあり、それが完成される前に作者が夭折してしまったために、その段階でしか読むことができないならそれはそれで価値があります。
 しかし、文章がまったく異なろうがなんだろうが、完成された「雲の裂け目」という作品があるのにその下書きとわかっているものを公表されるということは、作家にとってはらわたを覗き込まれるようなものではないでしょうか。
 原民喜は、なんでそんなものを残しておいたのか、その真意はわかりませんが、いずれだれかが公表するだろう、なんて考えてのことではないでしょう。
 僕が原民喜の立場だったら、イヤだなあ。陶芸家が失敗作をたたき壊すように、消滅させます。

 研究者が作品の完成に至る経過を研究するためにならともかく、一般の雑誌に掲載するのはスキャンダルを喜ぶ感覚に近いと思うのです。
 存在だけを知らせて、原本は広島市中央図書館で、必要な人にのみ公開されれば良いのでは。

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大江・岩波沖縄裁判 報告会

2008年04月10日 | ニュース
 4月9日午後6時半より文京区民センター会議室で、「大江・岩波沖縄裁判 勝訴! 判決報告集会」が行われました。
 狭い会場には十分に告知されたとは言えないにもかかわらず、250人の賛同者が集まり、超満員の盛況でした。

 〈プログラム〉
 ◆主催者挨拶 俵 義文さん(「沖縄戦首都圏の会」呼びかけ人)
 ◆裁判報告  秋山幹男さん(弁護士)
        岡本 厚さん(岩波書店『世界』編集長)
        小牧 薫さん(大江・岩波裁判し得ん連絡会事務局長)
 ◆講演    謝花直美さん(沖縄タイムス編集委員)

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 こうした集会のメリットのひとつに、一般では手に入りにくい資料や入手に手間のかかる資料を、簡単に手に入れられることがあります。
 判決を報じる各社の新聞は、大手全国紙だけでなく、「沖縄タイムス」「琉球新報」なども集められていて、また、関連記事のコピーも配布されました。
 「元戦隊長らの「無実」届かず」という見出しは『産經新聞』。原告寄りの記事は『産經新聞』のみで、「無実」という見出しに小牧薫さんから突っ込みが入りました。
 「「無実」だなんて、今回の判決によって隊長らが刑務所に収監されるような書き方ですね、おかしいです」

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 このような、判決文の全文資料が入手できるのも、こうした集会ならでは。

 主催者の俵さんからは、判決文資料の重要部分の読み方についてと、判決後の同時期に「つくる会」の集会があり、藤岡信勝が「新証言が出たので次は必ず勝つ」と言っていたとか。

 秋山弁護士からは、これまでの報告がなされました。
 「曾野綾子氏の著作には取材の偏りがある」
 「隊長の命令なしに手榴弾が配られることはない」
 「阿嘉島で住民を集めて、住民の自決を促す訓示があった」
 「日本軍のいないところで「集団自決」は起きていない」
 そして、「住民が軍から命令があったと信じたことには相当な理由がある」として、今回の勝訴になったことが説明されました。

 岡本さんの話は過去に何度か聞いていて、ひじょうに面白いのです。
 「表面的には大江・岩波だが、中味は問題を引き起こすことにあった。(国民の意識を向けること、特に教科書問題では成功している)」
 「赤松・梅沢の両氏は、裁判する意図はなかっただろう。(つまり引きずり出された)」
 「本(『沖縄ノート』など)を読まずに原告になった両氏は、(自分をおとしめたとする本の内容について)知りません、(本は)読んでいませんと、裁判で証言してしまった」
 「原告側の弁護士も不勉強で、「『安里(あさと)屋ユンタ』の安里を「あんざと」と読み違える始末」
 実に良く観察しています。

 秋山弁護士は、歴史修正主義者たちの週刊誌記事について、裁判所は信用できないとしたこと。
 そして、今回の判決を「良い判決」ととらえるのではなく「これが当然のことなのだ」ととらえたいと、意見が述べられました。

 最後は『証言 沖縄「集団自決」』(岩波新書)の著者、謝花直美さんの講演で、内容はおもに著書の概略に近いものでしたが、取材するにあたって、証言者がなかなか口を開いてくれないこと、そして謝花さん自身も、住民の忘れたいという気持ちの強さから「集団自決」は取材するべきではないのではないか、という思いにとらわれたと言います。

 今後高裁で戦うことになりますが、「高裁でひっくり返る可能性が2、3割ある」(岡本さん)ということから、確定するまで手を緩めずに運動を進めていくことが、今後の取り組みとして引き継がれます。

 詳細な報告はこちらにあります。

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