monologue
夜明けに向けて
 



 わたしがうなづくとかれは「それじゃ、あとで指しましょうか」という。
仲良くNHK杯戦が終わるまで見て昼食後、一局指した。すると自然に車椅子が集まってきて将棋が指せる人は指したり観戦したりしていた。ここにも将棋を指す人々がいることがわかって良かった。すこしはなにかができそうだった。

 病院の消灯は午後9時で起床は午前6時で朝食は7時だった。わたしは寝る前に詰め将棋を作り朝6時に起床すると食堂で将棋盤に昨夜作った詰め将棋を並べておいた。7時になって人々が食堂に集まってくると詰め将棋に気付いてみんなであれこれ考えだした。食事もろくろくせずに頭をひねる人もいたりしたがやっと解けると喜んでいた。そのまま朝から指し将棋に突入する人達もいた。わたしが毎日それを続けると患者達はそれを楽しみにするようになった。ところがある日、看護婦がやってきて「朝からみんなに将棋をさせないでください」と言いに来た。朝の日常作業に支障があるようだった。

 リハビリは順調に進み、ワープロの練習もした。リハビリの一環として病院の一室でワープロ「書院」で書いたのがわたしのホームページの中でこれまでに膨大なアクセスのある「水面に書いた物語」シリーズの第一話 風の中の北京家鴨(ダック)である。つまりこの話しの舞台はこの病院だったのである。
fumio



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