80ばあちゃんの戯言

聞いてほしくて

塾の先生(2)

2010-07-20 11:24:44 | 思い出
 翌年の6月頃、私の4歳児のクラスにいた坊ちゃんとお母さんに

出会った。

何だかご縁があると言うのか、この親子には買い物途中でひょっこり

会うことが多かったが、何時も決まって、お母さんの口から出るのは

 ”先生聞いてくださいよ。 この子ったらどうしようもない馬鹿で

  本当に困っちゃいます。”だった。 

  ”お母さん。お子さんの前で馬鹿馬鹿言わないでください。

   子供さんの前で毎日、馬鹿馬鹿言っていれば簡単に馬鹿にする事

  ができると言うくらいですから、それだけはやおやめください。

  ○○チャンはIQも人並みですし、馬鹿ではないですよ。”

  それから暫く彼に対する愚痴が続くのだったが、その日はちょっと

  違っていた。

 ”先生、何とか子のこの勉強を見てやってくださいませんか。塾では

 とても駄目なんです。6年生ですからね。何とかがんばってもらわな

 いと。”と言ったのである。

 ちょうどその頃、私は家具を売り出そうとしていたのでそれはとても

 辛い言葉であったが、これは放って置けないと判断し、家に一度来て

 もらう事にしたのである。

 翌日、親子でやって来たのだが、子供さんに質問をしようとしたら、

 彼の方から

 ”先生11-2はどうやってやるのですか?”と言う質問が来た。

 私は一瞬聞き違いかと思ったが、彼はまじめそうな顔をしていたし、

 お母さんも何も言わずで、私はどう考えたらいいのかただもう

 びっくりしてしまっていた。

  これが6年生の質問か、私をおちょくっているわけではないのかと

 思ったりもしたが、何はともあれ、このまま放って置けない気がした

 のである。

 ともかく私が教えるしかないと思ってしまった。

 それからお母さんとお話しして、毎日私のところにできるだけ来るように

 と言ったら、

  ”この子はちょっと心臓に心配があるので、この夏休みには手術をしな

 ければいけないかもしれません。”といわれたので、

  ”身体の事が一番大切ですから、そんな時には何時でも仰ってくだ

  さいね。 後は時間がないから、毎日できるだけ頑張りましょう。”

 と言う事で、にわかに塾の先生をやる羽目になってしまったのである。

 とりあえず、算数と国語を見ることにして、毎日時間を計りながら

 4則計算をはじめにやらせて見たが、毎日毎日、彼はやってきて、午前中、

 3時間以上も頑張ったが、少しづつ向上していった。


 夏休みが終わりに近づいてきた頃、彼の心臓の手術はどうなっているのか

 と心配になり、お母さんに電話したら、

 ”だって荒武先生が毎日来いと言われるので行かれません。”

 ”エエーッ? いつでも行って下さいとお話しておいたではあり

 ませんか?心臓の手術をしないといけなかったのではないのですか?

 私はびっくりした。あれほど身体の方が大事だからいつでも休んで

 行ってくれとお話ししておいたのに、もし何かあったらどうなるのか

 と、びっくりもしあきれもしたのである。

 (つづく)



 





 

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