奈良

不比等

古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その596)

2018-04-12 08:15:00 | 奈良・不比等
「シャーデンフロイデ~他人を引きずり下ろす快感(中野信子著・幻冬舎新書2018刊)」を読んだ。中野信子(なかののぶこ1975生れ)女史は東大(工学部)卒で、同大学院(脳神経医学)修了の医学博士であり、フランス国立研究所に務め、帰国後は脳や心理学をテーマに研究執筆を行っており、現在、東日本国際大学教授である。-----
「シャーデンフロイデ(Schaden Freude)」とは、誰かが失敗した時に思わず湧き起こってしまう喜びの感情のことです。成功者のちょっとした失敗をネット上で糾弾し、喜びに浸る。実はこの行動の根幹には脳内物質「オキシトシン」が深く関わっている。オキシトシンは母子間など人と人との愛着を形成するために欠かせない脳内ホルモンだが、最新の研究では「妬(ねた)み感情」も高めてしまうことが分かって来た。何故人間は一見、非生産的に思える「妬みという感情」を他人に覚え、その不幸を喜ぶのか。現代社会が抱えている病理の象徴「シャーデンフロイデ」の正体を中野信子女史は解き明かして呉れているのだ。------
祖先から引き継いだ不寛容な私たちの脳はオキシトシンによってその不寛容性が保持されています。つまり、愛が不寛容を裏打ちし不寛容さが人間社会を強固なものにしているのです。オキシトシンによる愛があふれ出た時に人は思いやりに満ちた行動をとる一方で、ひどく不寛容にもなっていきます。「あなたのため」という愛は、実は自分の脳の快楽のためであり、自分の所属集団を守るためであり、それを阻(はば)む者を許すことはできないからです。ここで、「愛は美しく正しい」という思い込みにより思考停止すると、愛の支持する不寛容性に気づくことはできず、多くの人を傷つけることに繋がります。「あなたのためを思っている」という愛は時に簡単に虐待に変わってしまうことさえあるのです。娘を支配しようとする母親も、ネットで誰かを攻撃しまくる人も、いじめを行う子どもも、自分以外の存在に興味があり、「その人のためを思って」「良かれと思って」制裁を加えます。地震・台風・集中豪雨など災害の歴史の中で暮らしてきた日本人はお互いを守り合いたいという思いを強く持っています。それ自体は素晴らしいことだろうと思います。このように向社会性の強い集団として生き残ってきた日本人は、今その能力を最大限に発揮しようとしているのかも知れません。しかし、良かれと思ってという気持ちとその帰結とは必ずしも方向性を一致させないのだと云うことは、意識しておいた方がいいでしょう。時には美しい「愛」と云う情動の裏側にある闇を覗き込むことで、私たちの見ている世界がどれだけ正義や愛によって曇らされているかを感じてみる必要があるのではないでしょうか。と結んでいる。----
稍(やゝ)、レベルの高い理系の心理学者なので従来の文系の心理学の成果からすると、びっくりするようなことが書かれているように思うが、グローバルな世界の教養としては読んでおくべき時期になってきたようだ。
コメント
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