北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない
「東京育ちの京都案内(麻生圭子著・文春文庫2002刊/1999版の文庫化)」を読んだ。麻生圭子(あそうけいこ1957生れ)女史は、1980年代作詞家として活躍した。1991年より執筆業に転じ、1996年からは結婚を機に東京を離れて、京都市中京区のマンションに暮らし始め、1999年末には築70年の京町屋に移り住んでいる。-----
「東京育ちの京都案内」は、京都に移り住んだ東京人の目から見た20年前の京都の街の様子を、女性作家の目で克明に書き出してくれている作品であり、単なる京都のガイドブックではない質の高い京都紹介本となっている。-----
ミーハー的な浮(うわ)ついた興味で書きなぐった本でなく、“ぶぶ漬け”にしても、“川床”にしても、“白朮詣(おけらまいり)”にしても、“大文字送り火”にしても、“花見”にしても、“骨董”にしても京都のこだわりがあり、それを時間をかけて調べて読者の納得が得られるまで掘り下げて解説をしてくれているので、女性にしては行き届いた取材というか取り組み方が尋常とは思えない程に素晴らしい仕上がりの本であるとも思った。どの節も書き足りない部分は無くて、親切に分からせてくれるのであるから、至れり尽くせりの京都案内本なのである。然しながら、当時より20年後の現在から見れば、京都タワーや京都駅ビルの古都京都に似つかわしくない景観破りの箱物がそれ程には邪魔になっていないし、既に景観に溶け込んでいるとも感じられるのであり、時の経過は人の感性をどうにでも誘導してしまうのだなとも思った。