古都奈良の世界文化遺産を、世界的に俯瞰(ふかん)してみると、ユーラシア大陸の東端にあり、しかも東シナ海や日本海を挟んで外側に、大陸に添(そ)う島弧列島として存在する僅(わず)かな膨(ふく)らみの中に、何時(いつ)しか国家が形成され、大陸の文明の煌(きら)めきの所産を、その一端ではあるのだろうが歴史の興亡にシンクロして伝来した文化財を大切に継承しており、シルクロードの終端とも捉えられてきた。正倉院の伝世品(でんせいひん)は夙(つと)に有名である。
しかしながら、毎年開催されている正倉院展は、修学旅行生にとっても、外国人観光客にとっても無縁の存在である。これまで、国内の少数のファンが、読売新聞の正倉院展の無料招待券を持って、古都奈良の奈良国立博物館の正倉院展会場に詰め掛ける様子が、読売テレビの恒例のニュースになっている程度である。正倉院展に陳列される皇室の御物は文化庁の指定する文化財ではなく、正倉院関係は古都奈良の世界文化遺産のリストには東大寺の付属的な位置づけになっている。
修学旅行は正倉院展(第68回)の開催時期(平成28年10月22日~11月7日)を避けているように見えるのは、上客となる国内観光客への旅行会社の配慮でもあるようだ。
また、外国人観光客にとっては、中国の故宮(北京&台北)の財宝を観れば、日本の正倉院の御物は子供騙(こどもだま)し程度にしか見えないだろうから、正倉院展開催時期に古都奈良に来る外国人観光客も是非見たいとは思わないだろう。古都奈良は唯一、正倉院展の時期にのみ国内観光客に関心を示されるといったところである。
古都奈良の世界文化遺産の8項目のリストの中では、結局大きなものが、分かり易く、東大寺大仏殿と、毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ)、それと古都奈良の親善大使を務めてくれている「奈良公園の鹿たち」にシンボライズされるのだろう。これ以外の文化財は相当に上手に説明しないと、感動を呼ぶことは難しいと思われる。