奈良

不比等

古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その525)

2018-01-31 08:15:00 | 奈良・不比等
歴史ミステリー小説 北円堂の秘密

「世界神話学入門(後藤明著・講談社現代新書2017刊)」を読んだ。後藤明(ごとうあきら1954生れ)氏は東大文学部卒、同大学院修士修了、ハワイ大学大学院(人類学)博士課程修了にて現在は南山大学教授である。専攻は海洋人類学および物質文化や言語文化の人類学的研究とのこと。-----
「世界神話学入門」では、出アフリカ後の人類の5大陸への拡散と世界各地に残る神話の総纏(まと)めから、新人(ホモサピエンス)においても大きく2度の出アフリカがあり、1度目(10万年前)の新人が5大陸に遺した神話としてゴンドワナ型神話群を捉え、2度目(4万年前)の出アフリカを果たした新人が5大陸に遺して今に繋がるローラシア型神話群が存在すると書いている。-------
日本列島に最初に(3万5千年前)住み着いた縄文人は、恐らくゴンドワナ型神話群の類型に属しただろうと云う。その後5千年前に東アジアから渡来してきたローラシア型神話群を持つ人類が大挙して日本列島に住み着き先住の縄文人を北方に追い遣った。即ちアイヌ人だと云う。------
人類学の進展はミトコンドリアの追跡やY染色体の研究からとても科学的に恣意性の入らない科学的な学説が組み上げられて来ており、これまでの世界神話学の研究成果が出アフリカ後の人類の5大陸への拡散と軌を一にしている事が分かったと云うのだ。------
現在の人類学に拠れば、これまでのように日本独自の文化であるとか、全て日本列島で醸し出されたものだと云う説は通用しない。極々短い有史時代だけに目を向ければ、極端な独り善がりな結論を見出すことも出来るのでしょうが、今や、科学の進展は本当の社会科学として科学的な手法を使って解明されなければならない時代となったようだ。
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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その524)

2018-01-30 08:15:00 | 奈良・不比等
歴史ミステリー小説 北円堂の秘密

「中身化する社会(菅付雅信著・星海社新書2013刊)」を読んだ。菅付雅信(すがつけまさのぶ1964生れ)氏は法政大学卒で、角川書店の契約社員として働いた際に、見城徹氏(現・幻冬舎社長)に鍛えられたそうである。以後独立して数々の編集の仕事をこなし、津田大介(情報の呼吸法)や園子温(非道に生きる)などを世に送り出してきた。------
「中身化する社会」は4~5年前の出版物であるが、当時すでにSNSの普及によりネット検索から逃れられなくなると予想している。確かに有名人のネット炎上は日常茶飯となっており、ネットの存在を無視出来ないと云うか、ネット上の人格がその人そのものであるかの時代となって来ている。ブログのようにペンネームで書くことの出来るサービスもあるがフェイスブックに登録しなければ信用されないような時代的雰囲気も出て来ている。個人を特定できてしまうネットでは嘘や張ったりは効かないし、実物で外見を良く見せようとしてもその人物の発言内容が伴わなければ相手にされない信用されないと云う困った時代となって仕舞ったのだと云う。------
「中身化する社会」では、広告も力を失っていくと述べている。口コミで賛同される物でないとこれも疑われてしまうのだとか。ポストモダンの文化の最先端であるニューヨークでは、コンフォートフードのカフェレストランが話題を呼んでおり、心地よいオーガニックな家庭料理が好まれていると云う。ラグジュアリーに疲れた消費者がカジュアルに向かっているのであると。------
人間中身を充実させないとアウトプットが良いものにならないのだから、ネット社会で生きるには全てにおいて本物志向が求められて来るのだろうと思われた。そしてこの4~5年前の予想が現実化して来ているとも感じた。
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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その523)

2018-01-29 08:15:00 | 奈良・不比等
歴史ミステリー小説 北円堂の秘密

「労働者階級の反乱~地べたから見た英国EU離脱(ブレイディみかこ著・光文社新書2017刊)」を読んだ。ブレイディみかこ(1965福岡市生れ)女史は、96年から英国人の夫とブライトンに在住している。英国で保育士として働き、ライター・コラムニストとしても活躍している。「労働者階級の反乱」の扉には、次のように書いている。全世界を驚かせた2016年6月の英国国民投票でのEU離脱派の勝利。海外では下層に広がった醜い排外主義の現れとする報道が多かったが、英国国内では1945年以来のピープル(労働者階級)の革命と評す向きも多かった。世界で最初に産業革命を経験し最初に労働運動が始まった国イギリス。そこでは労働者こそが民主主義を守って来た。ブレグジットはグローバル主義と緊縮財政により社会のアウトサイダーにされつつある彼らが、その誇りをかけて投じた怒りの礫(つぶて)だったのだ。英国在住、地べたからのリポートを得意とするライター兼保育士が労働者階級のど真ん中からいつまでも黙って我慢しない彼らの現状とその矜持の源流を、生の声を交えながら伝える。------
前半はブレグジットの経緯、後半は生の声、そして英国の労働者階級の歴史に及んでいる。自身のお勉強も兼ねたとあるように、「労働者階級の反乱」の白眉は前半であるが、後半も歴史のお浚いが出来るのでブレイディみかこ女史ならずとも英国に不案内な読者にとっては便利な構成となっている。-----
NHKEテレで産業革命と資本主義について30分番組があったが、東インド会社の貿易の富が英国に齎されると共に、更なる経済活動を高めようと労働生産性に対する技術的な工夫が様々になされている内に産業革命に至ったのだと云う。英国では資本家が富の独占をしていた訳ではなくて労働者階級にも一定の利益を渡していたのであり、封建時代と較べると所得は大幅に増えている事が経済学者の研究で判明しているそうである。唯マルクスの云うように、労働者階級の労働力の搾取が過ぎると資本主義も行き詰まるのである。現在、AIやロボットの出現が労働者の職を奪うと心配している人もいるが、嘗ての搾取が労働者の体力であったものがこれからは脳力(創造力)の搾取となるため、これはこれで大変だろうと云う。
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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その522)

2018-01-28 08:15:00 | 奈良・不比等
歴史ミステリー小説 北円堂の秘密

「続・一日一生(酒井雄哉著・朝日新書2014刊)」を読んだ。酒井雄哉(さかいゆうさい1926~2013)氏は比叡山飯室谷不動堂長寿院住職として務め、千日回峰行を80年と87年の2度満行したことで有名であった。39歳で得度するまで特攻隊基地・鹿屋で終戦を迎え、その後職を転々とするが上手くいかず、結婚しても2カ月後に奥様が自殺されるなど人生の苦労を重ねていた。-----
「続・一日一生」は大阿闍梨(だいあじゃり)になられた後の日々の暮らしの中の生老病死について語っている。朝日新聞記者のインタビューは他界される3日前にまで及んでおり、個人的な動静が一般人の関心事となる稀有な人材であったと云える。--------
千日回峰行を一人で2回こなした例は、比叡山400年の歴史の中で2人だそうで3人目となるそうだがそういう人は居るには居るようだ。宗教行事的な山岳マラソンのようであり、戦国時代以前ならもっと大勢記録保持者が居たかも知れません。織田信長の叡山焼打ち以降の文献記録が存在しないので分からないだけであろう。仏教の修行は心身を鍛えるのであるが、千日回峰行は主に身体を鍛えるものであり、江戸の東叡山・寛永寺に心(脳)を鍛えていた賢い僧侶が根こそぎ叡山から出て行ってしまった後には、体育会系の僧侶ばかりが残って仕舞った叡山では心(脳)ではなくて身体を鍛える能力に秀でた僧侶たちが巾を利かすようになってしまった。明治になり江戸幕府に仕えていた江戸の僧侶たちが比叡山に戻っても昔のようには上に立つことが出来なくなっていた。それだから千日回峰行が事更に立派だと褒めそやされてきた。酒井雄哉師はそのことにも触れて大阿闍梨など大したことではないと仰っていたようである。謙遜でなく自身が比叡山で生を全うできたことに感謝すると云うのが辞世の言葉であったようだ。------
「続・一日一生」を読んでも仏教のことは何も書かれておらず、朝日新聞の若き女性記者が初対面の際、自分には学が無いので仏教教義などは聞かないで下さいと云われたそうである。飾らない人で人気があったのだと思われた。
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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その521)

2018-01-27 08:15:00 | 奈良・不比等
歴史ミステリー小説 北円堂の秘密

「十五歳の戦争~陸軍幼年学校最後の生徒(西村京太郎著・集英社新書2017刊)」を読んだ。西村京太郎(にしむらきょうたろう1930生れ)氏は旧制中学卒で、途中陸軍幼年学校を5カ月(昭和20年4月~8月)経験している。19歳で政府の人事院に就職するが務め上げても大学卒ではないので課長補佐が関の山と聞き29歳で退職し、作家を目指した。3年目の32歳でオール読物推理小説新人賞を獲得し、多少の低迷期は有ったようだが以後、500冊を超える作品をものにしている。------
「十五歳の戦争」では、太平洋戦争を子供ながらに体験された西村京太郎氏の想いを書き綴っている。----
日本人が戦争(現代戦)に向いていない理由を7つ挙げて説明している。「国内戦と国際戦の違いが分からない」「現代戦では死ぬことより、生きることが重要なのに、日本人は死に酔ってしまう」「戦争は始めたら一刻も早く止めるべきなのに、日本人はだらだらと続けて行く」「日本人は権力に弱く、戦争を叫ぶ権力者の声に従ってしまう」「頭の中で反対でも沈黙を守り、賛成しなかったからいいと自分を納得させてしまう」「日本人の場合、社会の前に世間があって、その世間に屈して社会的行動を取れない」「日本人が一番恐れるのは、臆病者とか卑怯者といわれることである。だから臆病者・卑怯者といわれるのを恐れて、戦争に賛成した。勝算なしに戦争を始めた。敗戦が続いたら和平を考えるべきなのに僥倖を恃んで特攻や玉砕でいたずらに若者を死なせてしまう。終戦を迎えたあとは、敗戦の責任を地方(現場)に押しつけた。戦後は現在まで戦争はなかったが原発事故があった。その時も虚偽の報告を重ね責任を取ろうとせずひたすら組織を守ることに汲々としていた。これではとても現代戦を戦うのは無理だろう。良くいえば日本人は平和に向いているのである。」------
87歳の西村京太郎氏のミステリー作家の目で見た、自伝的ノンフィクションと扉には書かれている。敗戦の責任を下に押し付けたとの話は、勧善懲悪を旨とするミステリー作家からみると許せない代物なのだろうなと思った。

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