奈良

不比等

古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1285)

2020-02-29 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「ノモンハン責任なき戦い(田中雄一著・講談社現代新書2019刊)」を読んだ。田中雄一(たなかゆういち1979生れ)氏は、2005年、ディレクターとしてNHKに入局した。NHKスペシャルなど戦争関連の番組制作に多く携わっている。------

司馬遼太郎は自身が満州の戦車部隊に出征していた関連もあり、第2次大戦の契機として重要なノモンハン事件を調べたが、人を人とも思わない陸軍/関東軍の余りの酷さに執筆を断念したと言われている。-----

戦後日本は東京裁判を是認して国際社会へ復帰したが、自身の手で戦争裁判を行ってこなかった。寧ろその体制を戦後も温存してきたかに思われるほどである。田中雄一氏は、放送ジャーナリスト/番組ディレクターとして、日本人自身の目で捉えて、あの戦争を始めた政府/軍部の戦争責任者を焙り出す仕事を、されているかのようである。勿論、その活動は微々たるものであり、そして多くの生き残りの証人はとても数少ないのだが、手を尽くして遺族訪問をしたりして、その裏付けをとり、番組で描き切れなかった内容をこの本「ノモンハン責任なき戦い」に書いている。-----

章立ては次の通り。“陸の孤島(絶望の塹壕戦)”、“関東軍VSスターリン”、“参謀/辻政信(大権干犯)”、“悲劇の戦場(夜襲突撃)”、“責任なき戦い(自決勧告)”、“失敗の本質(瀬島龍三の証言)”、“遺された者たち(実にすまんことをした)”、“いま戦争を語るということ”------

日本は機密文書を終戦時に焚書しているが、ソ連やアメリカは保存しており、今では諸外国にも閲覧を許可している。日本の自分勝手な文化とは大違いだ。田中雄一氏は解禁されている公文書アーカイブを読み解き、NHKらしい丹念さで正確な事実を明らかにしてくれているのだ。------

日独伊防共協定を結びながら、ソ連と不可侵条約も結んだ日本政府の頓珍漢の理由の一つがノモンハン事件のショックによる迷妄であったことは確かだろう。

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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1284)

2020-02-28 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「保険ぎらい~人生最大の資産リスク対策(荻原博子著・PHP新書2020刊)」を読んだ。荻原博子(おぎわらひろこ1954生れ)女史は、明大(文学部)卒、経済事務所勤めを経て、1982独立、経済ジャーナリスト、家計経済のパイオニアとして活動してきた。近著紹介は次の通り。“払ってはいけない(新潮新書2018)”、“老前破産(朝日新書2018)”、“年金だけでも暮らせる(PHP新書2019)”-------

“はじめに”には保険ぎらいの荻原博子女史の執筆動機が書かれている。生命保険はシンプルに考える。生命保険とは死んだり病気になった人にお金が出るシステム。元気で病気一つしない人や病気をしても貯金がしっかりある人には、生命保険は必要ありません。保険の真実に踏み込んだ衝撃的な内容に生命保険会社が青ざめること必至。------

章立ては次の通り。“よくわからないでは保険会社の思うツボ(以外と知らない生命保険の基礎知識/これから入るなら掛け捨てが良い)”、“生命保険の加入の前に公的保険をチェック(超使える公的保証フル活用術)”、“老後の不安に付け込むセールスに騙されるな(ケース別入ってはいけない保険/火災保険を悪用した修繕詐欺)”、“膨らむ介護費も公的保険でOK(月数万円に抑えるマル秘テク/ケアマネジャーは替えられる/高額介護サービス費制度の活用)”------

“おわりに”には次のように書いている。保険ぎらいでも病気や怪我に遭ったり介護が必要になったらお金が必要です。そこで普段から健康に留意して過ごし、病になりにくい元気な体を維持しておく必要があるでしょう。無料/安価の公的スポーツジムで汗を流したりしてストレス解消/うつ病防止に心掛けなさい。それでも保険が必要になることもあるが、その際は利用の知識に知恵を働かせて下さい。そのノウハウをこの本に書いたつもりであると。

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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1283)

2020-02-27 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「トランプのアメリカに住む(吉見俊哉著・岩波新書2018刊)」を読んだ。吉見俊哉(よしみしゅんや1957生れ)氏は、東大大学院(社会学研究科)博士課程単位取得退学。現在、東大(情報学環)教授。専攻は社会学/文化メディア研究。-----

本の扉の文言は次の通り。ハーバード大学客員教授を1年間、ライシャワー日本研究所に滞在した著者がアメリカ社会を中心近くの崖っぷちから観察した記録。非日常が日常化した異様な政権下、この国が抱える深い暗部とそれに対抗する人々の動きをリアルタイムで追う。そして黄昏のアメリカの世紀の現実とその未来について考察する。-----

目次は次の通り。“ポスト真実の地政学(ロシア疑惑と虚構のメディア)”、“星条旗とスポーツの間(National Football League選手の抵抗)”、“ハーバードで教える(東大が追いつけない理由/優秀なTeaching Assistantの存在)”、“性と銃のトライアングル(ワインスタイン効果とは何か/ハリウッドプロデューサーのセクハラ激震)”、“反転したアメリカンドリーム(労働者階級文化のゆくえ)”、“アメリカの鏡/北朝鮮(核とソフトパワー)”、“NAFTAのメキシコに住む(1993~94)”、“キューバから眺める”-----

“ケネディ・ライシャワー路線(反共リベラリズム)からニクソン・キッシンジャー路線へ”、核とソフトパワーは現代世界におけるアメリカの力の2つの源泉である。アメリカのソフトパワーを特権階級がそっと抱擁することしか出来ない北朝鮮は、核をアメリカと同じように持つことで背伸びをしながらアメリカに敵対する。他方、核兵器が忌避され米軍基地を本土では巧妙に背景化されてきた日本では、暴力の影を視界の外に置きつつアメリカのソフトパワーが消費され続けた。日本列島と朝鮮半島は、大日本帝国崩壊から朝鮮戦争へと向かった歴史の爪痕を解決できていないだけではない。この地域には核とソフトパワーという帝国的権力の根幹をなす2つの影が複雑に重層しているのである。-----

ニクソン訪中でニクソンは毛沢東を選び、日本政府はアメリカに裏切られるのであるが、それまではライシャワーの活躍で反共リベラリズムが日本の知識人に根付いた。ライシャワーは次のように唱えていた。日本の近代化の達成は日本の内政的な歴史によるのであり、1960年の反安保は共産主義の策動によるのではなく、戦後日本のナショナリズムが米軍基地の存在に違和を叫んだ結果だった。ベトナム戦争もベトナム人が共産主義者だからではなく彼らがナショナリストだから終わらないのだと。

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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1282)

2020-02-26 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「欲望の名画(中野京子著・文春新書2019刊/文藝春秋2014.7~2019.7名画が語る西洋史の新書化)」を読んだ。中野京子(なかのきょうこ)女史は、早大大学院修士課程修了。作家/独文学者。西洋史や絵画にまつわるエッセイや解説書を多数執筆している。------

本の扉の紹介文は次の通り。狂おしく激しい愛情、金銭への異常な執着、果てない収集癖、飽くなき野心。人はあらゆる欲望を絵画に込めてきた。細部に描かれた小さな情報も見逃さず、名画に込められた意図を丁寧に読み解く。-----

時空を遡ると、高校時代、美術を選択していた時の、東京藝大出の美術教師のスライドを使った西洋の名画解説を思い出した。まったくコピーのような内容なので、恐らく、東京藝大の教養科目にある講義内容そのものなのだろうと思ってしまった。西洋音楽のクラシックと同様に、西洋絵画の名画は数が限られており、その評価も定まっており、特段に真新しい話はないのだが、中野京子女史はそれにめげずに、これは知らなかっただろうと細かい解説を披露してくれるのである。今も文藝春秋の連載は続いているようであり、また纏まれば第2弾として新書化されるのだろうと思った。さすがに独文学者であり、西洋史には自棄(やけ)に詳しい知見/見聞をお持ちである。良い本に仕上がっている。----

章立ては次の通り。“愛欲(怒れるメディア/フリュネ/オフィーリア/グランドオダリスク/踊り手の褒美/最後の晩餐)”、“知的欲求(ポンパドゥール夫人/子どもの遊び/サンシストの聖母/ウフィツィ美術館のトリブーナ)”、“生存本能(ヴォルガの船曳/モルフェウスとイリス/ノートルダム橋の槍試合/病気の子ども)”、“物欲(ベリー公のいとも華麗なる時禱書/旅の道づれ/両替商とその妻/ベートーヴェンフリーズ敵対する勢力/真珠の首飾りの女/守銭奴の死)”、“権力欲(ヘンリー8世/民衆を導く自由の女神/宰相ロランの聖母/フリードリヒ大王のフルートコンサート/フットボールをする人々)”、“欲望の果てに(地獄の見取り図)”----

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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1281)

2020-02-25 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「定年後の楽園の見つけ方~海外移住成功のヒント(太田尚樹著・新潮新書2017刊)」を読んだ。太田尚樹(おおたなおき1941生れ)氏は、東京水産大学卒、サンフランシスコ大学、カリフォルニア大学バークレー校、マドリード大学に留学した。1983東海大学助教授、のち教授となる。現在は東海大学名誉教授、専門はスペインの農業経済史/南欧文明史。幅広い教養で著書多数。------

章立ては次の通り。“終の棲家を求めて”、“花嫁は17歳”、“帰れない男”、“歴史マニアと若い妻”、“海辺の元大学教授夫妻”、“地中海は楽園か”、“成功する人/しない人”------

序章にはこの本執筆の理由を次のように書いている。子供を育て上げ、親を見送ると、自分たちの後半の人生をどう生きるかは、大方の人間が直面する課題である。ところが昨今、根拠は定かでないが、“老後の生活に1億円かかる/1億総老後崩壊”、の声が聞かれ“下流老人”なる高齢者を蔑視したような奇妙なフレーズが幅を利かす。しかも命綱の年金自体が先細りしている現実が目の前にあると、人は何とかしようと知恵を働かせる。そんな暗い先行きに忍従するのは真っ平とばかり、生活費が驚くほど安くてすむ東南アジアに、永住の地を定めようとする人が増えているのもその一つだ。本書は、私から見た、アジア/地中海にかけがえのない後半の人生を預けた人たちの生きた記録である。無論登場人物は取材した人たちのごく一部にすぎない。何れも元がつく銀行員/ビジネスマン/エンジニア/大学教師/公務員/観光会社社員/自営業者など様々な背景を持っている人の中から選んだ。有難いことにアジアに居を定めた人たちの多くは饒舌で、しかも誰しも目線を低くして生きられるから本音でまくしたてる。生活の場が外国の場合、とくに肩の力を抜いて生きられる南洋では、いつまでも語らいが続くのは珍しいことではない。バラ色の話ばかりではないが、巷間言われるほど、私たちの老後は暗いものではないし、“考えよう/遣りよう”によっては色々な可能性がある。南洋の風土と人間は懐が深い。本書が老後を考える人たちに前向きなヒントとなれば幸いであると。-----

バブル時代の終わりごろに年金世代を次々に海外へ移民させる計画を日本政府が青写真化したことがあったが、それを地で行くような人たちのある種の冒険譚として読むと面白いと思った。小金を貯めた老人で健康でさえあれば、南洋の楽園が待っているという、それこそ人生100年時代の“白髪になってからの浦島太郎の物語“であるとも思った。読後感はさわやかである。

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