北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない
「絵と心(平山郁夫著・中公文庫2008刊/1998版の文庫化)」を読んだ。平山郁夫(ひらやまいくお1930~2009)氏は、東京藝大卒で、前田青邨に師事した。卒業と同時に同助手となっている。その後同教授となり、更に同学長も2期務めている。日本画家として作品も多い。-----
「絵と心」は広島県の瀬戸内海の島/瀬戸田の地主の家に生まれた平山郁夫氏がどのようにして絵描きになったのかを、エッセイ風の文章でその経緯(いきさつ)を丁寧に書いている。その後の長い画家(教育者としても)の人生についても淡々と書き綴っている。原爆体験は意外とあっさりと書いているのだが、原爆後遺症の白血病の発症に怯える人生でもあったようであり、80歳を前にして他界したのはその所為であるとも考えられる。------
「絵と心」の文庫化のあとがきには日本の将来について次の文章が掲げられていた。“日本の国際信用とは蓄積された富を有効に生かしてどう人類のために使用するのかを明確に示すことだろう”と述べているが、2019年現在の日本には経済的/金銭的余裕は既になくなっているのであり、平山郁夫氏の生きた20世紀とは様相が様変わりして、残念ながら平山郁夫氏のアドバイスは参考にはならなくなっている。平山郁夫氏の戦後はバブル崩壊の憂き目を眺められたことは確かだが、ここまで日本が落ちぶれるとは平山郁夫氏には考えられなかったことのようだと、この本「絵と心」を読んで思った。