奈良

不比等

古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1102)

2019-08-31 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「絵と心(平山郁夫著・中公文庫2008刊/1998版の文庫化)」を読んだ。平山郁夫(ひらやまいくお1930~2009)氏は、東京藝大卒で、前田青邨に師事した。卒業と同時に同助手となっている。その後同教授となり、更に同学長も2期務めている。日本画家として作品も多い。-----

「絵と心」は広島県の瀬戸内海の島/瀬戸田の地主の家に生まれた平山郁夫氏がどのようにして絵描きになったのかを、エッセイ風の文章でその経緯(いきさつ)を丁寧に書いている。その後の長い画家(教育者としても)の人生についても淡々と書き綴っている。原爆体験は意外とあっさりと書いているのだが、原爆後遺症の白血病の発症に怯える人生でもあったようであり、80歳を前にして他界したのはその所為であるとも考えられる。------

「絵と心」の文庫化のあとがきには日本の将来について次の文章が掲げられていた。“日本の国際信用とは蓄積された富を有効に生かしてどう人類のために使用するのかを明確に示すことだろう”と述べているが、2019年現在の日本には経済的/金銭的余裕は既になくなっているのであり、平山郁夫氏の生きた20世紀とは様相が様変わりして、残念ながら平山郁夫氏のアドバイスは参考にはならなくなっている。平山郁夫氏の戦後はバブル崩壊の憂き目を眺められたことは確かだが、ここまで日本が落ちぶれるとは平山郁夫氏には考えられなかったことのようだと、この本「絵と心」を読んで思った。

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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1101)

2019-08-30 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「観光公害~インバウンド4000万人時代の副作用(佐滝剛弘著・祥伝社新書2019刊)」を読んだ。佐滝剛弘(さたきよしひろ1960生れ)氏は、東大(教養学部)卒で、NHKに入局した。高崎経済大学教授を経て、現在は京都光華女子大学教授である。専門は雑多であり、世界遺産、産業遺産、近代建築、交通、観光、郵便制度などをカバーしているが、日本政府の施策として観光インバウンドを経済成長の一つと位置付けている事から、観光に類する方面の研究活動に傾注して来ているようだ。----

日本の場合、順調にインバウンドが伸びて外貨獲得の一角を占めてきている。しかし、急激に海外からの観光客が集中すると、観光公害(オーバーツーリズム)のデメリットが出るケースも増えるだろうと心配されているのだ。-----

2008年に観光立国の実現を目指して“観光庁”が設置されているが、その観光振興の施策を学問的にアドバイスする意味で大学の社会学分野から独立して“観光学”なる分野が生まれている。あまりに付け焼刃であり、教授になってくれる人が現れるのだろうかと、気を揉まれたことであろうが、東大(教養学部)卒でNHK育ちの佐滝剛弘氏であれば云う事無しで、教授就任となったのだろうと思った。この本「観光公害」を読むとタイトル程の驚きは感じなくて、海外からの外人観光客が集まれば、日本の秋の祭りのような人出の賑わいが続くだけのように思うし、経済効果が大きければ、経済停滞している日本にしてはメリットが大きいから目くじらを立てる必要もなかろうと思うばかりであった。

 

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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1100)

2019-08-29 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「外資の流儀~生き残る会社の秘密(中澤一雄著・講談社現代新書2019刊)」を読んだ。中澤一雄(なかざわかずお1950生れ)氏は、同志社大学(電子工学科)1973卒で、日本マクドナルドに入社し、その後、米国マクドナルド、1999年にはディズニーストアジャパン、日本ケンタッキーフライドチキン、ウォルトディズニージャパンなどに45年間、2018年まで外資系企業で働いた。-----

「外資の流儀」は、日本の企業の生産性がアメリカの半分しかない理由を書き出してくれており、さらにその改善策を提示してくれている。グローバル化が進展し、海外に販路を求めなければ企業の存続がますます不可能となっていく時代にあって、新卒採用/年功序列/終身雇用を続けていては、世界に勝ち目が無くなると言うのだ。-----

中澤一雄氏の45年の経験はとても永くて貴重ではあるが、金融業界ではなくて食品(ファストフード)業界やエンタメ業界だけなので、全ての業界に通用するかどうかは定かでないが、一定の評価をすることは出来る本であると思われた。-----

外資系企業の生産性を確保し、利益を出して来た勝利の方程式は8項目あるとしており、それは次のとおりである。“職位別の職務内容と仕事の領域の確定”、“期初前に個人目標を設定”、“期末の成果重視による人事評価”、“業務改善と退職勧奨”、“後継者育成計画”、“外資流のリストラクチュアリング”、“5年戦略計画”、“年間遂行計画”-----

中澤一雄氏は子供の頃より、会社経営に興味があったそうだが、残念ながら起業されることは無く、サラリーマンとして人生の大半を過ごされた。その悔しさが「外資の流儀」に書かれていなかったのは、少しく疑問を感じた。それ以外は良い本であると思った。

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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1099)

2019-08-28 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「さらば銀行~第3の金融が変えるお金の未来(杉山智行著・講談社α新書2019刊)」を読んだ。杉山智行(すぎやまともゆき)氏は、東大(法学部2005)卒で、大和証券SMBC、ロイズ銀行(東京支店)を経て、2013年クラウドクレジット(株)を設立し、投資型クラウドファンディングサービスを展開している。-----

杉山智行氏は法学部を出ているが、実際の趣味というか興味の方向は金融工学を持つ経済学部であったそうであり、社会に出てからもアクチュアリー(保険数理人)の資格を取ろうとしたりして、法律や会計学のお勉強には面白みを感じなかったようです。元々高校3年生で文転をされているので理系人間ではあるのですが、とても数字には強い人の様であるのと、ある種社会貢献を仕事に出来ないかという大きな夢をお持ちのようである。そうして辿りつかれた道が、インターネットを利用して、金余りの日本からアフリカ/中南米などの低開発国への小規模融資事業である。現在の銀行が日本のような高度先進資本主義国となると、企業の内部留保も増えて、資金が過剰で融資先が先細りとなり、貸出先を国内で探すには無理になってきている。世界を見渡すと資本主義がまだ未完成の国では事業化資金が極度に不足しており、小規模でもその需要は大きいと言うのだ。そこで低開発国への寄付をする精神でプラスになれば儲けものくらいの善意の人々の余り金を集めて、インターネットを介してそうした小銭を必要としている国の人びとに日本よりは高金利だが、世界で見ると低金利で貸し出して機能させる企業体を設置したのだとか、最高でも70万円程度を拠出して貰えば、それでも集めれば100億円にもなるので、少しづつ事業化を進めているのだそうである。そしてあなたも是非、投資してみては如何かとこの本で薦めておられるのである。

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古都奈良・修学旅行と世界遺産の街(その1098)

2019-08-27 08:15:00 | 奈良・不比等

北円堂を知らずして奈良の歴史は語れない

「城~夢想と現実のモニュメント(澁澤龍彦著・河出文庫2001刊/1981&1988版の文庫化/初出1977雑誌連載記事)」を読んだ。澁澤龍彦(しぶさわたつひこ1928~1987)氏は、東大(仏文科)卒で、マルキドサドの著作を日本に紹介し、人間精神の暗黒面を題材に取り上げたエッセイや小説を書き、広く読まれた。-----

「城」は、世界遺産とかで騒がれるずっと前の段階で、日本の城の代表である廃墟の安土城と現存国宝の姫路城を中心題材にして語り尽くしている本である。サドの城がカバー写真として使われており趣深い本に仕上がっている。残念ながらカフカの“城”への言及は無いが、澁澤龍彦氏の興味はルネサンス期前後なので仕方ない処である。安土城探訪記としては有名作家の中では一番秀逸であると思った。-----

掲載文章の初出は1977年、澁澤龍彦夫妻が初めて欧州歴訪に旅立った1970年には、羽田空港まで作家友達が見送りに来てくれたそうである。その中には三島由紀夫もいたと書いている。東大作家同士で仲が良かったのだろうと思われる。拘りを捨てない作風はどこか似ていなくもない。然しながら、三島由紀夫は分かれの挨拶の積りだったのだろうと、夫妻で後日語り合ったそうである。こうして稀有な本が後年文庫化されているものに出会うと年代物のウィスキーやワインのように気の所為か読書の味わいが濃くなるのである。

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