Zooey's Diary

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85年プールサイドの匂い

2010年04月12日 | 
暫く前の日経新聞「春秋」に、村上春樹の短編「プールサイド」が取り上げられていました。
”35歳が人生の折り返し点。
そう心に決める男の話を、村上春樹氏が25年前に「プールサイド」という題で発表した。
やりがいのある仕事、高い収入、家庭、健康、外車。
35歳ですべてを手に入れ、これ以上何を求めていいか分からなくなり泣く。
そんな話だった。”

コラムでは、現代の35歳とのあまりにもの違いに触れている。
”今思えば優雅な悩みだったと言うべきか。
三菱総合研究所などがまとめた調査報告書が描く現代の35歳の姿は厳しい。
団塊ジュニアの彼らは雇用や所得に不安を抱え、経済的な理由から
結婚や出産をあきらめている人も多い、と分析する。”

この小説、もう忘れていたので引っ張り出して読んでみました。
「回転木馬のデッド・ヒート」という短編集に入っている。
”彼はソファーの上に寝そべったまま、その日の最初の煙草に火をつけた。
(中略)彼は求め、求めたものの多くを手に入れた。
努力もしたが、運もよかった。
彼はやりがいのある仕事と高い年収と幸せな家庭と若い恋人と頑丈な身体と
緑色のMGとクラッシック・レコードのコレクションを持っていた。
これ以上の何を求めればいいのか、彼には分からなかった。
(中略)ビリー・ジョエルは今度はヴェトナム戦争についての唄を歌っている。
妻はまだアイロンをかけ続けている。何一つとして申し分はない。
しかし気がついた時、彼は泣いていた。”

「プールサイド」が発表されたのは1985年。
春樹の作品は、ほぼ発売と同時に読んできているから、これもその頃読んだ筈。
日本中が好景気に浮かれ、バブル真っ盛りの頃。
25年後にこんな不景気が訪れ、日航が倒産して、トヨタが米国で叩かれるなんて
誰も想像もしなかっただろうな…

当時読んだ時も、私はそれほど共感した覚えもない。
けれども特に反発した覚えもないということは、
すんなりと受け止めたということでしょう。
私は仕事や恋愛や結婚問題に直面して、結構ドタバタの時期を過ごしていました。
会社を辞め、NYにひと夏遊びに行き、秋に結婚したのがその年です。
ビリー・ジョエルのアルバム「ビリー・ザ・ベスト」や
ティアーズ・フォー・フィアーズの「シャウト」やポール・ヤングの
「エブリタイム・ユー・ゴー・アウェィ」なんかが流行っていたなあ…
久しぶりに読んだ短編集から、当時の匂いが甦ってくるようです。

確かに優雅で贅沢な悩みだ…
けれども、当事者にとってはそれは確かに深刻なのでしょう。
例えば「拒食症」が、貧しい国の人にとっては信じられない贅沢な問題であっても
当事者にとってはどうすることもできない深刻な問題であるように。
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