Zooey's Diary

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「オマールの壁」

2016年05月19日 | 映画


この映画は、監督をはじめスタッフは全てパレスチナ人、
撮影も全てパレスチナで行われ、100%パレスチナの資本によって製作されたのだそうです。

ヨルダン川西岸地区に住む真面目で思慮深いパン職人のオマール。
家族のために働き、家では愛猫を可愛がる心優しい青年。
聳え立つ分離壁に投げ縄をかけて乗り越えては、恋人ナディアや幼馴染の友人たちに会いに行く。
ある日、イスラエル軍兵士に手酷い侮辱を受け、
友人と共にイスラエル兵殺害を実行するが、秘密警察に捕まってしまう。
壮絶な拷問を受け、一生囚われの身になるか、仲間を裏切ってスパイになるかの選択を迫られる。



分離壁というものは、イスラエルとパレスチナの国境線に建っているのだと
私は思っていました。
ところがそれは、パレスチナ自治区の中にも縦横無尽に張り巡らされているのです。
その高さは8m、長さは今の時点で500㎞。
ベルリンの壁の2倍の高さ、1.5倍の厚さ、5倍の長さといいます。
今世紀に入ってすぐイスラエルが「テロリストの侵入を防ぐため」という名目で
アメリカの援助と保護の下に建設したのですと。
聳え立つ壁を乗り越えるには、銃殺も覚悟しなければならない。
パレスチナ自治区といっても自治とは名ばかりのようです。
「海からたった15キロなのに、生まれてから一度も見たことがない」と嘆く
パレスチナ人の言葉が重い。



そんな中でも作品の前半、オマールは愛と友情に包まれて
8mの巨大な壁も楽々と乗り越えるのです。
壁の向こうには、恋人と友人が待っているから。
ところが終盤では、オマールは自力では登れなくなってしまう。
あれだけ凄惨な拷問にも耐え抜いたオマールが、何故そうなってしまったのか?
民族抗争、占領下の抵抗に加えて、愛と友情と裏切りが複雑に絡まり合う。



オマールを巧みに騙し込む、イスラエル秘密警察の幹部ラニ。
電話で母親に子どもの幼稚園の迎えを頼むという良き父親の側面を見せつつ、
何人ものパレスチナ人の人生を決定する某略をさらりと語るラニは、
占領者イスラエルの象徴か。
そして最後のオマールの選択には、私は小さく叫んでしまいました。



なんとも重い映画です。
先週はナチの残党の裁判の話「アイヒマン・ショー」を見たばかり。
ホロコーストであれだけ酷い目に遭ったユダヤ人が今、パレスチナでしていることは…?
そして「アイヒマン・ショー」も小さな劇場、恵比寿ガーデンで観ましたが
こちらの上映劇場はもっと小さな渋谷のアップリンク、客席は50席ほどしかないのです。
平和な日本と無関心、これも現実。
原題は「Omar」。ハニ・アブ・アサド監督。

オマールの壁  http://www.uplink.co.jp/omar/
コメント (10)
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