『子猫をお願い』 ~もう一つの「女の子ものがたり」

2009-11-14 23:59:15 | 映画&ドラマ


 今日は一日中クルミさんと「食べては寝て」を繰り返していたのですが、『おとこまえ 2 』が終わってから、この日のために?用意していた『子猫をお願い』(01)を観ました。
 『空気人形』で遅まきながら「ペ・ドゥナ体験」したニワトリさんは、自分が彼女を発見できなかった悔しさを噛みしめながら彼女のフィルモグラフィーを遡ることにしました。まずは、買ったままだった『グムエル 漢江の怪物』(06)のDVDを見て、「やっぱり彼女は凄い!」と感心。クリーチャーの造形も結構良かったし、「ブルーレイ」化してほしいですね。この映画の彼女はジャージ姿で、顔はスッピンに近く、映画が進むにつれて泥にまみれてゆくから決して「きれい」とはいえないのですが、恐ろしく魅力的です。漢江の生臭い匂いが感じられるほど生々しい絵が家庭劇場で再生できれば、この作品と彼女がよりパワーアップされる筈!


左から陽気な双子ピリュ&オンジョ、絵が上手いジヨン、上昇志向のヘジュ、そしてテヒ(ペ・ドゥナ)


 『子猫をお願い』には5人の子猫(内二人は双子)と本物の子猫が1匹出てきます。ひと言でいえば、商業高校を卒業して厳しい格差社会(日本も韓国もその意味では同じですね)の荒波に乗り出した子猫たちの日常をはらはらしながら見つめるドラマなのですが、ワンシーンワンシーンが素晴らしく、監督は、自分が描いた絵コンテどおりに役者を動かしたのか、その場で動きを決めたのか、どっちにしても天才です。
 この夏観た『女の子ものがたり』の8年前に、もう一つの『女の子ものがたり』が作られていたんですね~。日本公開は3年遅れの2004年で、それからさらに5年遅れてしまったけれど、この作品と出会うことができて本当に良かったと思います。
 冒頭、高校時代の描写を1分足らずで済ませ、五ヶ月後の「現在」にカメラが瞬時に切り換わり、インチョンからソウルへ向かう通勤電車がゆっくり動き始めたかと思ったら、同時にカメラがゆっくり浮いていき、電車とその奥に広がる巨大な操車場を俯瞰で映し出したとき、この映画がとんでもない傑作だと確信したのですが、その傑作を世に送り出したチョン・ジェウンが、映画学校を卒業したばかりの女性監督で、本作が長編第一作だったとは・・・驚くべき才能です。
 この映画には、奇蹟的としか言いようがない「えモーション」(フィルムに生々しく刻まれた感情と動きそのものを言葉にすると、こうなる。ダジャレじゃなくてニワトリさんの造語?)が随所に出現し、観終わった途端にもう一度見たくなりました。「映画とは動かないことも含めて動きなのだ」と訳の分らぬことを呟いています。DVDのクオリティはまずまずでしたが、映画館で見るかブルーレイで見ればさらに感動が深まる筈。このままだと少し眠いんだよね。絵が。

 DVD の解説は何と蓮實重彦御大!
「たまたま一本の作品を撮った監督など掃いて捨てるほどいるが、いきなり映画の地平を揺るがせるみずみずしい処女作を撮ってしまった映画作家は数えるほどしか存在しない」と断じ、「傑作と呼ばれる『市民ケーン』ですら、オーソン・ウェルズの第一作に過ぎない」と、本作を激賞していました。
 「たまたま一本の作品を撮ってしまった盆栽(面白い変換しましたね)監督といえば、勘違いも甚だしい松本某とか、同じく勘違いの誇大妄想狂に近い(そうでなければ人生なんてやってられないけど)角川某のことかしら?」なんて想像してしまったのですが、日頃難解で高尚な文章を書かれる氏が、こう書くと身も蓋もないかもしれませんが、「ユリイカ」ではなく DVD などという中途半端に消費される媒体のペラペラのリーフに(米国クライテリオンの解説書となると、それが欲しくてDVDを買ってしまうほどだが)一文を寄せてくれるとは・・・熱の入り方がわかるというもの。自分としては、「蓮實」学校はとうに卒業したものと考えていたのですが、久しぶりに意見が一致してほっとしました。蓮實大先生は若い女の子が好きだし、解説では触れていませんでしたが、この作品から小津安二郎の初期の傑作『大学は出たけれど』『生まれてはみたけれど』あたりを思い浮かべたのかもしれません。




 映画の中で何度か姿を見せる可愛い子猫は(ウチのクルミさんも私の膝から見つめていました)ティティと呼ばれていました。全く関係ないと思うけれど、アーサー・ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』シリーズにティティという名の少女が登場します。ウォーカー家の次女ティティは、多くの登場人物の中で私が一番好きなキャラクターでした(第4巻から登場するドロシーも好きだったけれど)。もしもリアルタイムに『子猫を探して』を見ていたら、ウチのネコの名前も「ティティ」になっていたかもしれません。
 余計なことばかり綴りましたが、ニワトリさんと同じように『子猫を探して』をまだ見ていない人がいたら、是非ともご覧下さいね~♪