『ラビリンス 魔王の迷宮』ブルーレイ(国内盤)ジャケット。
DVD米国盤(リージョン1)ジャケット
国内盤DVD(左)とサントラCD(右)。レーザーディスクも同じイラストが使われていたと思う・・・。
迷宮映画館のオープニング作品は、『ラビリンス 魔王の迷宮』(86)です。ブルーレイだけで計7回見ました。飽きずによくも・・・と言うなかれ。映画の神様=ジャン・ルノワールも言ってたと思います。「好きな女優のクローズアップだったら何時間でも飽きずに見ていられる」と・・・。
もちろん、フィリップ・ガレルの『孤高』(74)のような例外を除けば、映画が俳優のクローズアップだけで作られることはないでしょう(『孤高』はニコとジーン・セバーグのために作られた)。そして『孤高』を見てわかったのですが、好きな女優であろうとクローズアップだけを長時間見せられるのは結構しんどいものです。
映画は物語だから、シークエンス(一連の繋がり)を無視することはできません。しかしながら我々観客は、実は映画のシークエンスよりも映画のあるシーンに魅せられる傾向が強く、魅惑的なシーンが幾つもあれば、シークエンスが破たんしていても気になりません。映画を映画館でしか見る手段がなかった時代は、ある映画のあるシーンを見るためだけに映画館の暗闇に何度も足を運ぶことすら日常的に行われていました。和田誠さんの『お楽しみはこれからだ』(全7冊)は、映画のワンシーン(そこでの会話あるいは独白にスポットライトを当てた)を和田さんの魅力的なイラストと軽妙な文章で切り取った名著です。
私にしても、よほど肌の合わない映画以外は少なくても連続二回見ていたので、名画座で二本立て三本立てを観る場合は、誇張ではなく朝から晩まで映画館に居続けるわけでして、こうなると映画の耐久レースと言った方がいいかもしれません。朝9時から夜23時まで見続けたこともありました。
ウッディ・アレンの作品に、映画を頭から見ないと納得しない人物(『マンハッタン』だったかな?)が出てきますが、昔の映画館は途中から見ようが途中で出ようが構わない「自由」もあって、時間の都合がつかなくて途中から見始め、ひと回りしたところでなるほどと合点がいく・・・ような(変則的だけれど)楽しみ方もできました。
映画館の外で長時間待つ間に、いっそのこと初回を立ち見にして二度目を坐ってじっくり鑑賞する方法を思いつき、早速実行してみました。そのうち、映画が中ほどに差しかかったあたりから空席が出始め、その頃に入場すると坐れる可能性も高くなることを学習し、しまいには終映間際に入場する「荒技」に至りました。人気の封切り作品には使えない手でしたが、名画座になると、どのタイミングで入場しようと咎められることはまずありません。もっとも名画座の場合は、そこまでしなくても席を確保できましたが・・・。
ネット予約が普及した今は、並ばずに映画館に通うのが当たり前になりましたが、続けて観ることができた時代の方が、映画にとっても観る人にとっても幸福だったような気もします。それ以前に、続けて観たくなる映画にこれからも出会えることを、願ってやみません。
話を戻して、自分の好きな映画が万人に鑑賞される映画である必要は全くないはずで、趣味とは本来そういうものだから、自分は(遊びとしては面白いけれど)映画に点数も順位もつけません。最高の作品がたくさんあるのが当たり前だと思っています(こうしたことは映画に限った話ではないけれど)。
私のホームシアター熱は、(レーザーディスクを普及するため発売された?)テレビアニメ『未来少年コナン』(全7枚)と、映画『ラビリンス』に端を発しています。
『未来少年コナン』は一枚9800円、『ラビリンス』も7800円と高価でしたが、好きな作品を好きなときに好きなだけ見られる幸福に比べれば微々たる問題で、迷わず飛びつきました。
ビデオデッキすら持っていなかった自分が、当時としては大型の29インチブラウン管テレビ(市価の半額で手に入れた)と、出始めたばかりのAVアンプとエアコン(実はこれが一番重要だった?)も購入し、手持ちのシステムコンポと組み合わせ、ドルビープロロジックを再生できるミニシアターの主となったのです。最初の「シアター」は、たった三畳の空間ではありましたが、最新映画をかければ映画館に変貌してくれたし、旧作品や単館系のソフトをかければ名画座にいるのと同じくらい映画に入っていけました。
繰り返し上映したソフトを思いつくまま挙げていくと、『ミツバチのささやき』『エル・スール』『ピアニストを撃て』『恋のエチュード』『パンドラの箱』『セブン・チャンス』『バンドワゴン』『イースターパレード』『マルタの鷹』『アフリカの女王』『生きるべきか死ぬべきか』『天国は待ってくれる』『(ヴェロニカ・レイク主演の)奥さまは魔女』『断崖』『汚名』『裏窓』『めまい』『静かなる男』『ハタリ!』『こわれゆく女』『チャイニーズ・ブッキーを殺した男』『パリ、テキサス』『ベルリン、天使の詩』『ストーカー』『ノスタルジア』『バベッドの晩餐会』『霧の中の風景』『非情城市』『肉体の冠』『愛人ジュリエット』『麗しのサブリナ』『昼下りの情事』『イタリア旅行』『麦秋』『東京物語』『東京上空いらっしゃいませ』『ゼイラム』『ブレードランナー』『2001年宇宙の旅』『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー』『大丈夫日記』『サブウェイ』『眠れぬ夜のために』『四つ数えろ!』『妖獣都市』『天空の城ラピュタ』『ラビリンス』『ネバー・エンディング・ストーリー』・・・という具合に、「果てしなく」続いてしまいます。
やがてDVDの時代が到来し、題名だけしか知らなかった映画までがソフト化されるようになり、大量の映画ソフトと念願だったシアタールームも手に入れました。『未来少年コナン』や『ラビリンス』も、より高画質なDVDに買換えましたが、不思議なことにさわりしか見ていません。インパクトとしては、最初のレーザーディスクの方が大きかったのでしょう。
家を建えかえた際に、父も見そうな作品とDVD化されていない作品以外のレーザーディスクを処分しました。先日、300枚ほど残っていたレーザーディスクの中から『ラビリンス』と『未来少年コナン』を探してみたのですが、やはり見当たりません。どちらも割と良い値段がついたので(一枚10円からだった・・・)買い取ってもらったのでしょうが、ブルーレイのジャケットがお粗末なだけにかなり後悔しています。驚いたのは、今もなおレーザーディスクでしかソフト化されていない作品があったこと! 大画面ではもう見ないと思いますが、テレビで観る分にはまだまだイケるかもしれません。試してみようかなあ?
映画館が映画の現在と自らの現在とが直に接する場所だとすれば、家庭劇場(敬愛する「映画番長」がホームシアターをそう呼びました)は映画のシーンを過去の時間に遡って回想する場所かもしれません。映画館と家庭劇場は二律相反するものではなく、お互いを補完し合う関係にあるのではないでしょうか?
お気に入りのシーンを最高の状態で視聴できたら・・・その想いだけで、この部屋は成り立っています。
『ラビリンス』の監督は、テレビ『セサミストリート』の魅力的なマペットたちを動かしたジム・ヘンソン。劇場映画では、『ダーク・クリスタル』(82)、『ミュータント・タートルズ』(90)もよく知られています。
ヒロインのサラ(内向的なオタク少女)を演じたのは、ダリオ・アルジェントの『フェノミナ』(85)で一躍スターダムに駆けあがった当時14歳の美少女ジェニファー・コネリー。今も美しいジェニファーですが、この頃の美しさと可愛さは奇蹟に近く、一挙一動を見つめているだけで時間が経つのを忘れてしまいます。こうなると再発見と言った方がいいかもしれません。『ジェニファーの恋愛同盟』(85)とか、同じ路線の『恋の時給は44ドル44セント』(90)も、ブルーレイで観たくなりました(『フェノミナ』は米国盤ブルーレイが待機中)。
ゴブリンたちの王ジャレスを演じたのは、アルバム『レッツ・ダンス』を大ヒットさせ新境地を開いたデヴィッド・ボウイ。本格的な映画出演も多く、『地球に落ちてきた男』(76)を皮切りに、『ハンガー』『戦場のメリークリスマス』(83)、『眠れぬ夜のために』(84)といった作品でも、周りが霞んでしまうほどの独特なオーラを発していました。多くの楽曲を『ラビリンス』に寄せてくれていて、久しぶりに歌声も聴いたのですが、やはり痺れます。サントラCDも欲しくなりました。
物語は至ってシンプルですが、『不思議の国のアリス』より少し年上の、思春期を迎えた少女のファンタジーとも読めるし、ナブコフの『ロリータ』と同じように、大の大人が美少女にとことん翻弄される物語として読んでも楽しめます。もう一人の主人公とも言えるホグルの立場になって観ると、また違った味わいが出てきます。サラから「私の友達」と紹介されたときの、ホグルの表情が忘れられません。
ブルーレイの再生は、『ラビリンス』が初めてでしたが、黒をどこまで沈ませるかで印象が大幅に変わってしまいました。沈んでいる方が綺麗な感じがしましたが、若干浮かせ気味にすると微妙なグラデーションが再現され、好ましく思えてきました。
全体を通して最良の絵になるよう追いこみながら、何度も「通し」で観てしまいましたが、最新のCGや3Dと違って何度見ても飽きることがなく、見るたびに新鮮な気持ちになれる不思議な作品でした。「とシアター」が開館してすでに一ヶ月が経過したというのに、未だに迷宮の中で遊んでいるとは、実に困ったものです・・・。
ブルーレイが他を圧倒している『ラビリンス』だけれど、ジャケットだけはいただけません(冒頭写真)。なんですかね、これ? 1500円という価格を考えると仕方がないのかもしれませんが、リーフレットもなく、ソフト偏重派としては寂しい限り・・・。それに比べると、米国盤DVD(画質もまずまずでした)や、ジャレスが手のひらで転がしているクリスタルを意匠に凝らした国内盤DVDの方が数段優れています。サントラやレーザーディスクは映画のポスターをそのまま使っているようですが、このイラストが一番お洒落かな?
オープニング。「Underground」の主旋律が[ドルビーTrueHD]で響き渡り、ジャレスの化身である真っ白なフクロウがスクリーンを横切った際の波動で「Labyrinth」の表題が現われる・・・心高鳴る瞬間です。
サラに壁の通り方(だまし絵になっていた)を教えてあげた「虫」さん。彼女が近道を行こうとすると、「Don't go that way !」と声かけ、反対方向へ誘導するあたりはただの親切者ではなさそう。くりくり目玉が可愛らしく、たくさん出てくるキャラクターの中でも一番のお気に入り。フィギュアがあったら、手の届くところに置きたい!
このシーンについては撮影裏話(特典の音声解説)が楽しい。ところで彼女は、間違った扉を選んでしまって「ユーブリエット(忘却の穴)」に落ちたのではありません。「四人の門番」のシーンは、「正直者と嘘つき」という論理学でも有名な設問をビジュアル化したもので、サラは巧みな質問を思いついて門番から正答を引き出しています。ユーブリエットが正しい道だったことは、その後のジャレスの発言と行動からもわかります。お喋り鳥の帽子を被ったおじいさんも、「前に進む道が後ろに戻ることもある」と、深みのある発言をしていました。人生「迷っているようで正しい道を進んでいる」のが、案外当たっているかもしれません。鳥にせっつかれて指輪を募金箱に寄付する羽目になったのは、とんだ災難でしたが・・・。
扇の後ろにジャレスが・・・。数え切れないほど見た、クリスタルボウルの中で行われる仮面舞踏会のシーン。このとき歌われる「As The World Falls Down(世界が崩れる時)」は歌詞も最高で、サラのためなら「君のまたたく瞳に 青い空を映してあげよう」「君の心に 光り輝く月を贈ろう」・・・なんて想いに駆られるのも当然でしょう。「世界が崩れ落ちて 恋が生まれる」「他人だった二人が 空の小道を共に歩み出す」「愛の花を 星の野原に散りばめよう」「全てがはかなく消え失せても 君を待ち続ける」・・・その昔、胸をきゅんとしめつけられながら(多くのサラに)謳ったものです。最近はとんとご無沙汰ですが、世界が崩れる時がやって来ないとも限らない?
14歳とはとても思えないサラの美貌と色香・・・翻弄されているのはジャレスの方だった? お前のために世界を逆さまにしてやったのに・・・嘆く魔王は「自分を愛してくれれば下僕になってもいい」と訴える。ジャレスの妖しい魅力に彼女は屈せずにいられたのだろうか? エンドロールの続きは、貴方の夢の中で・・・。
エッシャーの有名な絵が、クライマックスの舞台になっているとは・・・! 彼女の部屋の壁にこの絵も掛かっていたのですが、最初は気づかず、このシーンに大喜びしました。デジタルに移行する前の伝統的な特撮だけれど、今でも見ごたえ充分! ブルーレイでは奥行きが広がり、より立体感が増してました。3D要らないよね~♪
大きなルドーも可愛いな~。動かすのは実に大変だったみたいですが、その甲斐はありました。迷宮と迷宮の住人が彼女の心の投影だったことは、全てのアイテムが彼女の部屋にあることから明白なのですが、これら宝探しの楽しさもブルーレイになって増しました。話は少し変わるけれど、彼女が大事にしていた物(パンダスリッパとか)を次から次へと出してくれた不気味なオバさんが、自分の前にも突然現れたら、最初に何を出してくれるのか、ちょっとドキドキします。存在すら、忘れているかもしれません。よくよく考えると、自分もガラクタをあんな感じで山のように背負っているのでしょうね。もう少し身軽にならないと・・・。
ボウイ(ジャレス)がゴブリンたちと歌い踊る「Magic Dance」(「笑えっ!」のひと言に毎回必ず笑ってしまうのですが、貴方は?)も最高だけれど、「Chilly Down」が流れるこの(いささか狂った)ミュージカルシーンも大好き! 首が自由に抜けたら楽しいのに・・・と思う自分も、かなり狂ってる?
公開当時と同じように、サラの美しさと、ジャレスのもっこり具合(80年代だなあ~)に眼が入ってしまいました・・・。何回観直したら、次の作品『ザ・ディープ』に行けるでしょうか? 実をいうと、『ザ・ディープ』も、すでに三回見ているのですが・・・。