巻頭一番、「ヤァ~~ッ!」と吠える磯山(成海璃子)の般若の顔が面金越しに大写しに映し出される。気合いの激しさとあまりの形相(成海本人によれば「顔もけっこうヤバイし」)にビビりながらも、「ヒヤァ~」とか細い声で受けて立つ西荻(北乃きい)。最初のツーカットを見ただけで、この映画、すっかり気に入ってしまいました。
『武士道シックスティーン』の原作はまだ読んでいないのですが、映画では孤高のサムライ=磯山香織と、天然なところが憎めない天才剣士=西荻(甲本)早苗の二人に的を絞っていて、非常に明快な作品に仕上がっていました。
磯山香織は、ひと昔前のバンカラ学生みたいに下駄が似合いそうな女の子で、いつも眉間に皺を寄せた不機嫌そうな面構えは野良犬にも似ていて、鉄アレイで手首を鍛えながら宮本武蔵の「五輪書」を読む姿は人を全く寄せつけません。周囲から完全に浮いている彼女は、宮本武蔵というより「むさし」になる前の「たけぞう」ですね。勝手にライバル視している西荻早苗を睨めつけるときの憎々しい顔とか、本当にすごいのですが、早苗にそそのかされて履いた可愛いサンダルが慣れないためにガニマタ歩きになってしまうところとか、素手でつかんだケーキをガブリと口に運ぶ様子など、狼に育てられた「野生児」を見ているように眉をしかめる人もいると思うけれど、何だかとても格好良くて、しかも可愛いのです。
一方の西荻早苗は、フニャフニャした天然少女です。誰からも好かれる気のいい性格で、自分は弱いと思っているし周囲もそう思っているから、武蔵のライバルだった佐々木小次郎とは程遠く、彼のようなエリート臭は全くありません。西荻にとって、磯山香織はライバルどころか恐れ多い存在です。でも、相手の攻撃からひたすら逃げているように見えながら実は全て受け切っている西荻の天武の才能を、「たけぞう」磯山がいち早く見抜いていたのでした。
最近だと、『リンダリンダリンダ』が頭ひとつ抜けていましたが、『武士道シックスティーン』も非常に格好良い(格好悪いことが格好良いのだ)青春映画でした。ラグビー部で汗を流しながらも『色即ぜねれいしょん』な日々を送っていたニワトリさんにとって、『リンダリンダリンダ』や『武士道シックスティーン』で描かれるストイックな青春には、憧れに近い想いがあります。これほど徹底していたらさぞかし気持ちがいいだろうなあ~と、中途半端に終わってしまった過去を後悔半ば振り返ってしまうのです。
それだけではありません。『武士道シックスティーン』は、一本気な青春物語であると同時に一途な恋愛映画でもありました。映画のどこにもそれらしいシーンはなかった・・・なんて言わないように。それこそ、「どこを見ていたんだよ~」と、磯山にどつかれますよ~♪
成海璃子さんについては今さら何も言うことはないでしょう。ある意味、磯山と同じサムライで、怖い者なしと言わんばかりに突っ張っているけれど、繊細な心の持ち主でカオスのようなどろどろしたものが核にあって、まだ固まり切っていない成長過程の女の子。役を演じるのではなくて役を生きるという意味では、『ガラスの仮面』の北島マヤと同じです。どんな役を演じても成海璃子である点から、最後の映画女優と言ってもいいでしょう。
北乃きいさんは初めて観ましたが、魅力的な女優さんだと思いました。しかも、このタイプの女の子は(顔立ちも含めて)クラスに一人はいたような気がして、もしも西荻早苗が同じ学年にいたら(上級生や下級生だと、おそらく気がつかずに終わる)ほぼ間違いなく恋をしていたでしょう。そんな、初恋の女の子にも似た北乃さんが、これからどのような女優になってゆくのか、興味津々です。
二人だけでありません。出番こそ少なかったけれど、剣道部の主将を演じた高木古都さんや、『女の子ものがたり』にも出ていた波瑠さんもブレイク必至! 朝ドラ『ウェルかめ』では完全な捨てキャラ(勝之新の従妹)だった山下リオさんも非常に可愛らしくて、あのドラマも「あの子」でなくて彼女がヒロインならもう少し良かったかも?なんて思ってしまいました。二人(成海璃子&山下リオ)が出演している『書道ガールズ!! わたしたちの甲子園』も観たくなりました。ベテラン陣では、『空気人形』と監督も兼ねた『脱獄王』が好評だった板尾創路さんのそこはかとない存在感が素晴らしかったです。ほんのワンシーンしか登場しないのですが・・・。
それにしても、やっぱり剣道って、凛々しくていいですね。映画鑑賞後に家までテクテク歩きながら、「五十?の手習いでもしようかな?」なんて考えるほど・・・何ごとにも影響され易いニンゲンではあるものの、剣道は最初に憧れた武道だったのです。それについては別記事で・・・。
『武士道シックスティーン』の公式HPは、 → ここをクリック
それにしても、今日&明日も忙しい・・・来月は楽になるかと思いきや非常にハードで、臨界点を超えそうです。