センチメンタル・ジャーニー ~剱埼灯台へ

2009-06-02 23:55:15 | オートバイ春夏秋冬


 134号線は金田湾から内陸部へ入ります。「⇒ 城ヶ島・剱崎方面」の標識に従い右折したニワトリさんは、このあたりから奇妙な感覚を覚えるようになりました。何だか、覚えのある道なのです。夢の中によく出てきた風景にも似ているのですが、「一度も経験したことがないのに、いつかどこかで既に経験したように感じる」既視感とは、過去二度この道を実際に歩いたことがあるという点で、決定的に異なります。懐かしさで、たちまち胸がいっぱいになってしまいました。
 剱崎周辺は、数十年前と殆ど変っていないかもしれません。剱埼灯台へ向かう細い枝道が左手に見えた瞬間、時計の針がはるか昔に戻ってしまいました。「この電信柱を伝ってゆくと、灯台に出られるぞ・・・」

 ・・・ずっと昔、時折小雨がぱらつく春休みの午後、三浦海岸駅からしばらくバスに揺られ、剱埼灯台前で下車した6人は、二万五千分の一の地図とにらめっこしながら、まだ見えない灯台に向かって、畑の中の道を歩き出しました。上空にはトビが何羽もいて、それぞれゆっくりと、小さな円を描いていました。しばらく歩いてつゆくと、左手に海が見えてきました。そこから視線を右へ振ってゆくと、右手の森の向こう側に、頭一つ高い剱埼灯台が姿を現わしました。どんより曇った空なのに、海は驚くほど青く、灯台の白さも際立っていました。「色」については、年月を重ねていくにつれて濃くなったのだと思います。




(左)灯台も海もありそうもない「畑の海」を歩いてゆくと、不意に陸地が切れて、思ったより近くに海があったことがわかる。
(右)そのまま視線を右に振ると、灯台がニョキと姿を現わしていた。


 「電信柱を伝っていけば灯台に出られるよ」・・・誰がこの台詞を口にしたのか、今ではもうわからない。


 バイク(や車)はここまで。あとは歩いて灯台を目指します。普段から精神年齢が低いが、この時点で少年に戻っていた。さっさとバイクを乗り捨てて、先へ向かう・・・。


 この道を下れば浜に出る。そのまま道なりに上がっていけば、灯台にたどり着く。元少年は、どきどきしながら小走りに坂を上がっていった。中央に写っている建物は、廃墟ではなくて便所・・・昔のままだった。きれいなトイレに慣れた人は、使う気にならないだろう。