アーバンライフの愉しみ

北海道札幌近郊の暮らしの様子をお伝えしています。

ドストエフスキー著・亀山郁夫訳「罪と罰」

2017年05月09日 | 読書三昧

過日の「旅」の友として携行し、このほど全巻を読み終えた。文庫版3巻1,488頁。
先の島崎藤村の「夜明け前」に続く名作への挑戦である。

やはり、人類遺産的名作と言われる本の持つ力は偉大で、読了した今は、ただ陶然となっている。

つまり、そこには人間とは? 罪と罰とは? という根源的なテーマが横たわっていて、しかもそれらに対する確たる解答を持ちえないまま読了に至った。

主人公のインテリ青年は、何故、金貸しの老女と義理の妹とを惨殺する必要があったのか。
そして、単に道徳的な見地からだけでなく、種々の苦悶と彼をとりまく人間関係の中から自首するとの結論に至るのだが、なぜそう結論付けたのか。

訳者は、概ね次のように解説している。

「未来の社会を読み込むことのできる稀有の予言力をそなえたドストエフスキーが、その問題意識の中心に取り込もうとしたのは、人間の生命の営みは根本において不変であり、つねに同じ問題で苦しみ悩みつづける(ものであり)、加えて、1861年の農奴解放は、人々の心のなかに静かに息づいていた神との共生を破綻させ、「自由」というもうひとつの神を生み出してしまった。

この自由の幻想は、自分たちの欲望を実現するために、もっとも手っとりばやい手段である金の力への恐るべき妄想をグロテスクにはぐくみ、そして金の力は、それまで自分たちが安住することができたキリスト教の神の世界をも覆すにいたった(という時代認識の変化であった)」と。

全編を貫く心理描写の巧みさには感服しつつも、確たる答えを得ぬまま読了に至った不甲斐さに打ちのめされた。ただ、名作が持つ確たる生命力は実感できた。

コメント