★クラシック音楽LPレコードファン倶楽部(LPC)★ クラシック音楽研究者 蔵 志津久

嘗てのクラシック音楽の名演奏家達の貴重な演奏がぎっしりと収録されたLPレコードから私の愛聴盤を紹介します。

◇クラシック音楽LP◇ルービンシュタイン&ガルネリ弦楽四重奏団のシューマン:ピアノ五重奏曲

2024-09-16 09:44:30 | 室内楽曲


シューマン:ピアノ五重奏曲

ピアノ:アルトゥール・ルービンシュタイン

弦楽四重奏:ガルネリ弦楽四重奏団                              

             アーノルド・スタインハート(第1ヴァイオリン)
             ジョン・ダリー(第2ヴァイオリン)
             マイケル・トリー(ヴィオラ)             
             デヴィッド・ソイヤー(チェロ)

発売:1969年

LP:日本ビクター SRA-2523

 このLPレコードは、シューマンの室内楽の名品「ピアノ五重奏曲」をアルトゥール・ルービンシュタイン(1887年―1982年)とガルネリ弦楽四重奏団が演奏している。この曲は、シューマンの代表的な室内楽作品で、ピアノと弦楽四重奏のために書かれている。1842年の9月から10月にかけてのわずか数週間のうちに作曲され、妻のクララ・シューマンに献呈された。同年中に3曲の弦楽四重奏曲とピアノ四重奏曲を作曲しており、シューマンの“室内楽の年”として知られる。このLPレコードのライナーノートで上野一郎氏は「これは、今年82歳になる老大家のルービンシュタインと、30代の若手メンバーで組織された新進のガルネリ弦楽四重奏団が合奏しているところに新鮮な魅力を見い出すことのできるレコードである」と指摘している。この中で上野氏は「ルービンシュタインのレコード歴は50年に近い年月に及んでおり、室内楽もハイフェッツ、フォイアーマン、ピアテゴルスキーと組んだ”百万ドル・トリオ”で知られているが、弦楽四重奏団と合奏した室内楽のレコードは意外に少ない」と書いている通り、ルービンシュタインの遺した録音の中でも貴重な一枚と言っていいであろう。アルトゥール・ルービンシュタインは、ポーランド出身のピアニスト。20世紀の代表的なピアニストの1人で、特にショパンの演奏では当時最も優れたピアニストと目されていた。前半生はヨーロッパで、第二次世界大戦中・後半はアメリカで活躍。1910年、第5回「アントン・ルービンシュタイン国際ピアノコンクール」で優勝した。ガルネリ弦楽四重奏団は、1965年にニューヨークでデビューし、その1年後には、辛口評で知られたニューヨーク・タイムズ紙のハロルド・C・ショーンバーグが「ガルネリ弦楽四重奏団は、世界最高のクァルテットの一つである」と賛辞を掲げたほど、当時実力を持った弦楽四重奏団であったが、2009年に活動を中止してしまった。このLPレコードでのルービンシュタインのピアノ演奏は、ルービンシュタイン特有の中庸を得た特徴に加え、伸びと穏やかさを持った安定感のある演奏を存分に聴かせる。ガルネリ弦楽四重奏団もルービンシュタインのピアノ演奏にぴたりと寄り添い、シューマンの独特なロマンの世界を、繊細さと優雅さたっぷりに聴かせてくれている。この録音は、”健康的なシューマン”の秀演とでも表現できようか。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヘンリック・シェリングのブラームス:ヴァイオリン協奏曲

2024-09-12 10:12:48 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ブラームス:ヴァイオリン協奏曲

ヴァイオリン:ヘンリック・シェリング

指揮:アンタル・ドラティ

管弦楽:ロンドン交響楽団

録音:1962年、ロンドン

発売:1980年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) 13PC‐267(6570 304)

 幾多の名盤がひしめくブラームス:ヴァイオリン協奏曲の中でも、このLPレコードは、今でも一際、その大きな存在感を示している名盤中の名盤と言っていいだろう。ヴァイオリンのヘンリック・シェリング(1918年―1988年)と指揮のアンタル・ドラティ(1906年―1988年)のコンビによる演奏は、ドイツ音楽の正統派の頂点に立つ存在と言って過言でない。このLPレコード聴いていると、最近の演奏が如何にこじんまりと纏まり過ぎているかを痛感せずにはいられない。このLPレコードでの悠揚迫らざる態度で演奏する様を聴いていると、このヴァイオリン協奏曲の奥に潜んだ、原石の持つ魅力を最大限に表現しようとする情熱を痛切に感じないわけには行かない。小手先の技巧には決して走らず、曲の持つ奥深さやスケールの大きさを最大限に表現して余り無い。第1楽章の全体にわたる実にゆったりとした表現は、ヘンリック・シェリングのヴァイオリンの美しい音色を聴かせるには丁度よいテンポだ。アンタル・ドラティ指揮ロンドン交響楽団の伴奏は、決して表面に立つことはせずに、ヘンリック・シェリングのヴァイオリンの演奏のサポート役に徹しているわけであるが、さりとて単なる裏方ではなく、引き締めるところはきちっと引き締め、ヴァイオリン演奏を巧みに盛り上げて、見事の一言に尽きる。ヘンリック・シェリングのヴァイオリン演奏は、シゲティの後継者とも言われていたように、表面的な表現より、曲の核心をぐいっと掴み取る表現力の凄みのようなものが感じられ、印象に強く焼き付く。第2楽章に入ると、この傾向がさらに深まる。そして何より考え抜かれた叙情的表現の美しさは例えようもない。知的な叙情味とでも言ったらいいのであろうか。テンポも第1楽章よりさらにゆっくりと運んでいるようにも感じられる。時折点滅するような、陰影感をたっぷりと含んだ表現力がリスナーに対して堪らない魅力を発散する。第3楽章は、一転して心地良いテンポに一挙に様変わりする。そして、ブラームスの曲特有の分厚く、しかも重々しい響きが辺り一面を覆い尽くす。しかもヘンリック・シェリングのヴァイオリン演奏は、最後まで恣意的な解釈を排して、曲の核心から離れることは一切ない。正統的であるのに加えて、温かみのあるその演奏内容は、多くのファンの心を掴んで離さない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇オイストラフ&オボーリンの名コンビによるベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番/第2番/第4番

2024-09-09 09:47:53 | 室内楽曲(ヴァイオリン)


ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番/第2番/第4番

ヴァイオリン:ダヴィド・オイストラフ

ピアノ:レフ・オボーリン

録音:1957年、パリ

発売:1977年

LP:日本フォノグラム(フィリップスレコード) X‐5690

 ヴァイオリンのダヴィド・オイストラフ(1908年―1974年)は、ロシアのオデッサ生まれ。オデッサ音楽院で学び、同音楽院を1926年に卒業後、直ぐに演奏活動を開始。1935年「ヴィエニアスキ国際コンクール」第2位、そして1937年には、「イザイ国際コンクール(現エリーザベト王妃国際音楽コンクール)」に優勝して、世界的にその名を知られることになる。1938年にはモスクワ音楽院の教授に就任。1949年までは旧ソ連内での活動に留まっていたが、1950年以降になると西欧各国での演奏活動を積極的に展開するようになる。その優れた技巧と音色、そしてスケールの大きな演奏により、西欧でも名声を不同なものとして行く。1974年10月に客演先のアムステルダムのホテルで逝去した。享年66歳。一方、ピアノのレフ・オボーリン(1907年―1974年)は、モスクワ生まれ。モスクワ音楽院で学び、1927年に同音楽院を卒業した翌年の1928年、第1回「ショパン国際ピアノコンクール」に優勝。以後西欧各国から招かれ、その第一級の腕を高く評価された。1935年にモスクワ音楽院教授に就任。ピアニストで今は指揮者として活躍しているアシュケナージも教え子の一人という。1938年からはオイストラフとコンビを組み二重奏の演奏を開始。さらにチェロのクヌシェヴィッキーを加えたトリオの演奏でも高い評価を得た。1974年1月にモスクワで死去。この2人のコンビでベートーヴェンのヴァイオリン全集が録音されたが、その中から3曲を収めたのが今回のLPレコードである。ベートーヴェン:ヴァイオリンソナタ第8番は、中期を前にした曲で、明るくまとまりの良いヴァイオリンソナタとして知られる。第2番は、初期の作品であり、モーツァルトの影響も見られ、内容の充実度というよりは、新鮮な内容が特徴。第4番は、ベートーヴェン独自の個性が発揮され始めた頃の作品。2人によるこれら3曲の演奏内容は、いずれも緻密な計算の上に立ち、高い技巧で表現されているのが特徴。一部の隙のない演奏ではあるが、人間味のある暖かみがベースとなっているので、聴いていて自然に心が和んでくる。完成度の高さは極限まで追究している一方で、音楽の心は決して忘れてはいない。やはり、2人は不世出の名コンビだったということを、改めて思い知らされたLPレコードであった。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジョージ・セル指揮クリーヴランド管弦楽団のプロコフィエフ:交響曲第5番

2024-09-05 09:36:50 | 交響曲

プロコフィエフ:交響曲第5番

指揮:ジョージ・セル

管弦楽:クリーヴランド管弦楽団

録音:1959年10月24日、31日

LP:CBS/SONY 13AC 797

 セルゲイ・プロコフィエフ(1891年―1953年)は、現在のウクライナ生まれのロシア人作曲家。サンクトペテルブルク音楽院で学ぶ。ロシアが革命の嵐に包まれる中、1918年、プロコフィエフはアメリカへの移住を決意。シベリア・日本を経由してアメリカへ5回渡り、さらにパリに居を移す。20年近い海外生活の後、1936年に社会主義のソヴィエトへ帰国。このように何回も海外移住をを繰り返し、最期には祖国に帰還できたということは、当時のソ連政府がプロコフィエフの行動を黙認するしかなかった、ということであろう。つまり、それほどプロコフィエフの世界的な名声が高かったことの証だ。1948年、プロコフィエフは、ジダーノフ批判の対象となるかとおもえば、1950年度のスターリン賞第2席を得るなど、当時のソ連政府のプロコフィエフへの評価は大きく揺らいでいたようだ。偶然ではあるがプロコフィエフの死は、スターリンの死と同年同月同日であった。「スターリンの死が国家的大事件であったのに比べ、プロコフィエフの死は誰も知らなかった」と、同じロシア出身で、亡命の経験を持つウラディーミル・アシュケナージは、プロコフィエフの晩年の淋しい死について語っていた。そんなプロコフィエフが作曲した交響曲の中で、第1番「古典交響曲」と並び人気の高い交響曲第5番を収めたのがこのLPレコードだ。1941年にヒトラーの率いるドイツ軍が独ソ不可侵条約を一方的に破棄してソ連に攻め入る現実を見て、かつてない祖国愛に目覚めて作曲したのが、この交響曲第5番と言われている。初演は1945年、モスクワのモスクワ音楽院大ホールにて、プロコフィエフ自身の指揮それにモスクワ国立交響楽団の演奏で行われ、ソヴィエト全域にラジオ放送で中継されたという。このLPレコードは、ハンガリー出身の名指揮者ジョージ・セル(1897年―1970年)がクリーヴランド管弦楽団を指揮した録音。ジョージ・セルとクリーヴランド管弦楽団のコンビは、1946年から1970年の24年間にも及んだが、この録音は1959年なので、その中間期の録音に当る。実際聴いてみると、重厚で威厳のある第1楽章、軽快でスケルツォ風の第2楽章、美しい旋律が次々と現れる叙情的な第3楽章、そして勇猛で力強い雰囲気に満ちた第4楽章からなる全4楽章を、実に流麗に、しかも内容がぎっしりと詰まった演奏を展開しており、聴くものの心を掴んで決して離さない魅力に富んだものとなっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇フランス・ブリュッヘンのブロックフレーテ(リコーダー)によるバロック音楽名演集

2024-09-02 09:37:30 | 古楽


①ヴィヴァルディ:ブロックフレーテ、オーボエ、ヴァイオリン、ファゴットと通奏低音のための協奏曲
②バード:5声部のブラウニング“青葉”―5本のブロックフレーテのための―
③シンプソン:4声部のリチェルカーレ“愛しいロビン”―ガンバ、ブロックフレーテ、ガンバ/ヴァージナルのための―
④モーリー:哀しみのファンタジア(2声部)―ブロックフレーテ、ガンバのための―
⑤モーリー:狩りのファンタジア(2声部)―ブロックフレーテ、ガンバのための―
⑥パーチャム:ブロックフレーテと通奏低音のためのソロ
⑦ヴァン・エイク:“ダフネ”による変奏曲
⑧ラヴィーニュ:ブロックフレーテと通奏低音のためのソナタ「ラ・バルサン」
⑨ダニカン=フィリドール:ブロックフレーテと通奏低音のためのソナタ
⑩テレマン:ファンタジア―無伴奏フルートまたはヴァイオリンのための“12のファンタジア”より

ブロックフレーテ(リコーダー):フランス・ブリュッヘン


オーボエ:ユルク・シェフトライン
ヴァイオリン:アリス・アーノンクール
ファゴット:オットー・フライシュマン
チェロ:ニコラウス・アーノンクール
チェンバロ:グスタフ・レオンハルト

②~⑤
ブリュッヘン合奏団(オリジナル楽器使用)
指揮:フランス・ブリュッヘン


ガンバ:ニコラウス・アーノンクール
チェンバロ:グスタフ・レオンハルト

⑧~⑨
チェロ:アンナー・バイルスマ
チェンバロ:グスタフ・レオンハルト

発売:1980年

LP:キングレコード K15C-9036

 ブロックフレーテは、ドイツ語での呼び方で、英語ではリコーダーとして知られる、古楽で使われる木管楽器。同じエアーリード(リードを持たない木管楽器)である現代のフルートが横笛であるのに対し、ブロックフレーテは縦笛。吹奏が比較的に容易であり、構造もシンプルで、安価に量産できるため、日本では教育楽器として多用されている。西ヨーロッパでは中世からその存在が知られ、ルネサンス期には盛んに用いられ、バロック期前半の17世紀には現在用いられるものとほぼ同じ形のものが完成された。テレマンが自ら演奏したことでも知られる。しかし、続く古典派音楽に至って、ブロックフレーテは全く顧みられなくなってしまった。ところが、20世紀初頭になり、復元され、過去の奏法が研究され、現在では古楽演奏では欠かせない楽器の一つとなっている。フランス・ブリュッヘン(1934年―2014年)は、オランダのアムステルダム出身。アムステルダム音楽院、アムステルダム大学で学ぶ。卒業後に古楽演奏に取り組み、1950年代よりブロックフレーテ奏者として活動を開始し、古楽の草分け的な存在となった。1981年には、オリジナル楽器のオーケストラである「18世紀オーケストラ」を結成して指揮者に転じた。フランス・ブリュッヘンは、この18世紀オーケストラを指揮し、多数の録音を遺した。1973年にはブロックフレーテ奏者として初来日を果たしている。このLPレコードには、フランス・ブリュッヘンのブロックフレーテ演奏を中心に、ブロックフレーテが使われた古楽の室内楽の名品が収めらている。フランス・ブリュッヘンが演奏するブロックフレーテの音色は、あたかも幻想のベールに包まれたようでもあり、素朴であるが詩的な雰囲気を醸し出し、他の楽器では到底表現不可能なような、しみじみとした情緒が辺りを覆う。昨今は古楽ブームと言ってもいいような状況にあるが、この古楽の開拓者の一人がフランス・ブリュッヘンその人である。この意味で、フランス・ブリュッヘンは、単なるブロックフレーテの一奏者というより、現代に古楽を蘇らせた偉大な演奏家として、後世にその名を留めることになるであろう。それにしても、このLPレコードでのフランス・ブリュッヘンのブロックフレーテ演奏は、何と純粋な美しさに満ち溢れていることか。久しぶりに古楽の楽しさを存分に味わうことができた。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ジャン・マルティノン指揮フランス国立放送管弦楽団のビゼー:交響曲第1番/組曲「美しきパースの娘」 /小組曲「子供の遊び」    

2024-08-29 10:19:59 | 交響曲


ビゼー:交響曲第1番     
    組曲「美しきパースの娘」     
    小組曲「子供の遊び」

指揮:ジャン・マルティノン

管弦楽:フランス国立放送管弦楽団

録音:1971年2月、パリ

LP:ポリドール(グラモフォンレコード) MGW5154(2544 100)

 交響曲と言うと直ぐに、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンなどの古典派やマーラーやブルックナーなどのロマン派のドイツ・オーストリア系の曲が思い浮かぶ。それでは、フランス系の交響曲を挙げてみなさいと言われると・・・ベルリオーズの「幻想交響曲」ぐらいしか思い浮かばない人も少なくない。今回のLPレコードは、そんなドイツ・オーストリア系偏重の交響曲の中で、フランス系の交響曲として、ベルリオーズの「幻想交響曲」と並んで気を吐いている、ビゼーの交響曲第1番である。ビゼーと言えば、オペラ「カルメン」が有名だが、この初期の作品の交響曲第1番は、何とも親しみやすい交響曲に仕上がっており、昔から多くのリスナーに愛聴されてきた曲である。この曲は、1855年、ビゼーがまだパリ音楽院に在学中の17歳の時の作品である。当時、ビゼーは、ドイツ音楽の様式を勉強していた時であり、このため、この曲には、ハイドンやモーツァルトの影響が色濃く反映されている。とはいえ、ビゼーはフランスのパリ生まれであり、南フランスの明るく、ラテン的気質が存分に盛り込まれており、ドイツ・オーストリア系とフランス系の2つの様式が融合され、その結果独特の魅力を発揮する交響曲が生まれた。この曲のスコアは長い間パリ音楽院の図書館に埋もれていたが、20世紀に入りようやく発見され、1935年にワインガルトナーによって初演されたといういわく付きの曲でもある。ところでビゼーは、交響曲を何曲作曲したかというと、この第1番のほかに、第2番を作曲したが破棄し、第3番は作曲されたかどうかも分らないという。つまり、第1番といっても、ビゼーの交響曲はこの曲しか遺されてはいない。このLPレコードで指揮しているジャン・マルティノン(1910年―1976年)は、フランスの名指揮者。フランスものの作品の指揮には定評があり、ドビュッシーの管弦楽曲全集、サン=サーンスの交響曲全集、ベルリオーズの「幻想交響曲」、ラヴェル管弦楽曲全集などの優れた録音を今に遺している。このLPレコードでも、実に軽妙洒脱に3曲のビゼーの作品を指揮しており、聴いていて楽しめる。特に、交響曲第1番の指揮では、軽快なテンポと的確な構成力で、全体がきりりと引き締まった曲づくりに成功しており、この曲のベスト録音として、現在においてもその存在価値は少しも失われていない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇スメタナ四重奏団+ヨゼフ・スークのモーツァルト:弦楽五重奏曲第2番/第6番

2024-08-26 09:57:53 | 室内楽曲

 

モーツァルト:弦楽五重奏曲第2番/第6番

演奏:スメタナ四重奏団              

      イルジー・ノヴァーク(第1ヴァイオリン)
      リュボミール・コステツキー(第2ヴァイオリン)
      ミラン・シュカンパ(第2ヴィオラ)
      アントニーン・コホウト(チェロ)

      ヨゼフ・スーク(第1ヴィオラ)
 
録音:1981年6月15日~21日、プラハ、芸術の家ドヴォルザーク・ホール

発売:1981年

LP:日本コロムビア OF‐7011‐ND

 モーツァルトの弦楽五重奏曲は、有名な第3番と第4番を含んで全部で6曲ある。第1番は、モーツァルトが17歳の時のザルツブルグ時代の曲である。何故、モーツァルトが弦楽四重奏曲でなく、弦楽五重奏曲を作曲したのかは、未だもって明らかにはなっていない。五声部の曲にチャレンジをしたかったのか、あるいは誰からかの依頼を受けたのかもしれない。第2番はその14年後に作曲された、管楽器のためのセレナーデハ短調KV388を編曲した曲。そして名曲として名高い第3番、第4番が連なる。さらに、力強く活発な内容を持つ第5番を経て、死の年に作曲した洗練された美しさが特徴の第6番へと続く。このLPレコードでは、第2番と第6番とが収められている。弦楽五重奏曲第2番の原曲は、1782年に作曲された、オーボエ、クラリネット、ホルン、ファゴット各2本の管楽八重奏曲によるセレナードである。セレナードといっても当時のセレナード様式とは大分かけ離れた内容となっており、非娯楽的な要素が強い。弦楽五重奏曲への編曲は1787年に行われた。弦楽五重奏曲第1番は、1773年の作曲であり、この第1番から遅れること14年もの歳月が流れて、第2番の弦楽五重奏曲が完成したことになる。そのためか、第2番は第1番に比べて、内容が格段に充実したものになった。しかも、原曲となった管楽八重奏曲によるセレナードよりも優れたものに仕上がったことは、続く、弦楽五重奏曲の傑作である第3番および第4番の登場を予言する内容とも取ることができる。一方、弦楽五重奏曲第6番は、モーツァルトの死の年に当る1791年に作曲された曲。全部で6曲ある弦楽五重奏曲の中では、情緒的な雰囲気が排除され、内面的な求心力が勝ったような内容の曲と言える。最高度に洗練された美しさに覆われ曲となっている。演奏は、スメタナ四重奏団に第1ヴィオラとしてヨゼフ・スーク(1929年―2011年)が加わったメンバーによるもので、第3番/第4番に続いての録音。スメタナ弦楽四重奏団は、1945年から1989年まで存在したチェコの弦楽四重奏団。結成当初の名称はプラハ音楽院弦楽四重奏団で、1945年にスメタナ弦楽四重奏団と改称。このLPレコードでの演奏内容は、実に緻密そのものであり、流麗を伴った憂いを含んだ表情が印象に強く残る。モーツァルトの弦楽五重奏曲を、このように静寂さをもって演奏した例を私は他に知らない。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルのブルックナー:交響曲第5番

2024-08-22 09:54:19 | 交響曲


ブルックナー:交響曲第5番

指揮:ハンス・クナッパーツブッシュ

管弦楽:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団

発売:1977年

LP:キングレコード GT 9091

 これは、ブルックナーという、ドイツ音楽の中でも最もドイツ音楽臭い大作曲家の傑作、交響曲第5番を、これもワーグナーやブルックナーの演奏にかけては右に出る者はいないと言われた巨匠ハンス・クナッパーツブッシュが、ウィーン・フィルを指揮したLPレコードである。ブルックナーが作曲した9つの交響曲の中でも、この第5番は、全体がみごとな構成美に形づくられており、まるで壮大な建築物を仰ぎ見るような重々しい迫力は、聴くものを圧倒せずにおかない。そして何よりも、ブルックナーのカトリック教徒としての深い信仰心が滲み出ており、リスナーは知らず知らずのうちにブルックナーの精神的な内面を覗き見ることになる。この傑作交響曲をブルックナー自身は、“対位法的作品”あるいは“幻想的作品”と位置づけていたようであるが、一般的には“中世的作品”という位置づけがされる場合も多い。これは、強固な対位法に基づいている作品であり、バロックの教会を思い起こさせ、宗教心を思い起こさせるからであろう。しかし、現在聴いてみると、中世的という古めかしさ以上に、壮大であると同時に限りない精神的な高みに達した傑作交響曲という側面を強く感じる。ハンス・クナッパーツブッシュ(1888年―1965年)は、ケルン音楽大学で学び、バイロイト音楽祭で助手として登場。34歳の時の1922年には、ブルーノ・ワルターの後任としてミュンヘンのバイエルン州立歌劇場の音楽監督に就任する。1936年からはウィーン国立歌劇場で活躍。第二次世界大戦後の1951年にはバイロイト音楽祭に復帰。その後、世界各国で活躍する。その指揮ぶりは、悠揚迫らざる、ゆっくりとしたテンポであり、特にワーグナーやブルックナーの指揮では、その力を遺憾なく発揮することで定評があった。このLPレコードでもその特徴は、遺憾なく発揮されている。ウィーン・フィルの厚みのある、そして奥行きの深い弦の響きを背景に、巨大な教会を仰ぎ見るようなゆっくりとしたテンポで、壮大な演奏を聴かせる。時には、途中でこのまま演奏が終わってしまうのではないかというほどの、ゆっくりとしたテンポも聴かせる。決して奇を衒うことはなく、淡々と演奏する。必ずしもこの曲の標準的演奏とは言い難いが、全体を通した精神的な深さでは、到底他の指揮者の追随を許さない高い演奏内容となっている。聴き終えて、しみじみとした満足感に包まれる、そんな演奏内容である。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ドヴォルザークの室内楽曲の名品、ピアノ五重奏曲と弦楽四重奏曲第7番

2024-08-19 09:36:56 | 室内楽曲


ドドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲         
         弦楽四重奏曲第7番

ピアノ:エディット・ファルナディ

弦楽四重奏:バリリ四重奏団                      

        ワルター・バリリ(第1ヴァイオリン)         
        オットー・シュトラッサー(第2ヴァイオリン)
        ルドルフ・シュトレング(ヴィオラ)           
        エマヌエル・ブラベッツ(チェロ)

発売:1976年8月

LP:日本コロムビア(ウェストミンスター名盤コレクション) OW‐8045‐AW

 ドヴォルザークの作品を挙げるとなると、「新世界交響曲」や「アメリカ弦楽四重奏曲」などが直ぐに思い浮かぶ。これらの作品は、さしずめ大広間に置かれた、多くの人に愛される一般的な名曲とすると、このLPレコードに収められたピアノ五重奏曲と弦楽四重奏曲第7番は、奥座敷にひっそりと置かれ、ドヴォルザークの作品をこよなく愛する人向けの名曲と言える存在。ドボルザークのピアノ三重奏曲に「ドゥムキー」という曲があるが、この「ドゥムキー」の3年前に書かれたのが、ピアノ五重奏曲である。このピアノ五重奏曲の第2楽章は「ドゥムカ」と題されている。つまりこの曲は、ピアノ三重奏曲「ドゥムキー」を先取りした曲とも言えるのだ。「ドゥムカ」とは、スラヴ民族の哀歌であり、多くの場合、悲しげでゆるやかな旋律と急速で情熱的な旋律とを対立させて書かれている。さらに、この曲の第3楽章には「フリアント」と記されている。「フリアント」とは、ボヘミアの舞曲のことで、激しさと甘さとが交互に取り入れられているが、「ドゥムカ」とは対照的に、早い速度の部分を主体としている。このピアノ五重奏曲は、スラヴやボヘミアなどの民族的香りを濃厚に持つ、古今のピアノ五重奏の中でも傑作の一つに数えられている名曲なのである。一方、アメリカからの旅からボヘミアへ戻って、書かれたのが第7番と第8番の2つの弦楽四重奏曲である。弦楽四重奏曲第7番は、それまでの曲のような民族的な郷愁感は極力抑えられ、明るい幸福感に包まれ、豊かな曲想に覆われているのが特徴。伝統的な形式美を追い求め、じっくりとした深みが感じられる弦楽四重奏曲。ピアノ五重奏曲でピアノを演奏しているエディット・ファルナディ(1921年―1973年)は、ハンガリーのブダペスト出身で、リスト・アカデミーで学び、卒業するまでに2度までもフランツ・リスト賞を受賞したという才媛で、当時マルグリット・ロンやクララ・ハスキルと並び称された名女性ピアニスト。バリリ四重奏団は、1945年にウィーン出身のワルター・バリリ(1921年―2022年)を中心に結成された名弦楽四重奏団。ピアノ五重奏曲の演奏は、エディット・ファルナディのナイーブなピアノの音色とバリリ四重奏団の弦の響きが絶妙に混ざり合い、極上の雰囲気を醸し出している。一方、弦楽四重奏曲第7番の演奏は、バリリ四重奏団の緻密な演奏内容に加え、暖かくも厚みのある、その音色にも魅了される。音は多少古めだが、2つのの曲の演奏内容とも完成度の高いものに仕上がっている。(LPC)

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◇クラシック音楽LP◇ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番とピアノとヴァイオリンのための二重協奏曲

2024-08-15 09:40:50 | 協奏曲(ヴァイオリン)


ヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番        
         ピアノとヴァイオリンのための二重協奏曲

ヴァイオリン:ズザンネ・ラウテンバッハー

ピアノ:マルティーン・ガリング

指揮:C.A.ビュンテ

管弦楽:ベルリン交響楽団

発売:1970年7月

LP:日本コロムビア MS‐1087‐VX

 こののLPレコードは、18世紀末に南イタリア出身の名ヴァイオリニストとして名を馳せたジョヴァンニ・バティスタ・ヴィオッティ(1758年―1824年)が作曲したヴァイオリン協奏曲第22番とピアノとヴァイオリンとオーケストラによる二重協奏曲である。昔は、ヴィオッティのヴァイオリン協奏曲第22番は、ラジオ放送されるケースがちょくちょくあり、ちょっとした有名な曲であった。ヴィオッティは、優れたヴァイオリニストとしてのほか有能な教育者でもあり、彼の門下生からは数多くの優秀なヴァイオリニストが育った。ベートーヴェンのソナタに名を遺すクロイツェルも彼の門下生だったという。それらの優れた門下生達によって“フランコ・ベルギー楽派”の基礎が築かれて行った。ヴィオッティ自身の演奏はというと、甘い、メランコリックなカンタービレで当時の人々を魅了したようである。1782年にパリでデビューを行った後、10年ほど同地に留まり、マリー・アントワネットに認められて、宮廷音楽家としての契約を結んだこともあるが、最期はロンドンで一生を終えている。作曲家としてのヴィオッティは、ヴァイオリン協奏曲を29曲、弦楽四重奏曲を21曲、三重奏曲を21曲、ヴァイオリンソナタを18曲作曲するなど、かなり膨大な数の作品をを作曲した。ベートーヴェンもヴィオッティのヴァイオリン協奏曲を熟知して影響も受けており、ブラームス自身も、このヴァイオリン協奏曲第22番を大変好んでいたようだ。このLPレコードで演奏しているヴァイオリンのラウテンバッハー(1932年生まれ)は、ドイツ出身で、ケルン合奏団のメンバー以外にソリストとしても活躍した人。また、ピアノのガリング(1935年生まれ)は、ドイツ出身で、ハープシコードの演奏家でもあり、当時のヨーロッパでは広く名を知られたピアニスト。このヴィオッティ:ヴァイオリン協奏曲第22番は、甘く、美しいメロディーが全楽章に散りばめられたヴァイオリン協奏曲の佳品であるが、このLPレコードでのラウテンバッハーのヴァイオリン演奏は、古き良き時代のロマンの香りがたっぷりと閉じ込められ、この曲を鑑賞するのにはぴたりと合った演奏スタイルで、リスナーが十二分に満足できる仕上がりを見せている。一方、二重協奏曲の方は、あたかも若い時代のモーツァルトのピアノ協奏曲を彷彿とさせるような優雅さが漂う曲で、ガリングの宝石のような美しいピアノ演奏に思わず聴き惚れてしまう。(LPC)

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