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タンポポ

2017-02-24 20:11:11 | 映画
先日、ふとCS放送をつけると
「伊丹十三監督特集」ということらしく、彼の監督作品を次々に放送していた。
観ているヒマはないのだが、ついつい「タンポポ」だけを最後まで観てしまった。
伊丹十三は実に才能豊かな人であったなあというのが感想である。

俳優として確固たる地位を手にし、監督をやればほとんどが面白いし、
文章も書くし、イラストも描く。そしてなんといっても
元々グラフィックデザイナーとして一流であったという底の硬さ。

映画「タンポポ」は私の好きな作品で、もう30年以上も前に制作されたわけだが、
これは名作だよね。今までに5,6回くらいは観ただろうか。

夫に先立たれ、残されたラーメン店をその細腕で切り盛りする女性(宮本信子)が、
ある日、ふらっと立ち寄ったトラック運転手(山崎努)とその助手(渡辺謙)に
味の欠点を看破され、その場で弟子入りを懇願する。
やがて彼女のために力を惜しまないその道のプロたちが結集し、
また本人も挫折を繰り返しながらもとうとう店の味を完成させる。

真っ白に輝き蘇った店と女店主、続々と入ってくる客。
使命を終えてそれぞれ自分たちの持ち場へと帰る仕事人たちの後ろ姿。
大団円ではあるが、仲間たちと共有した苦しくも楽しかった時の終わりの寂しさもあり、
何かを置き忘れてきてしまったような、ほんの僅かに不思議な苦みが残る。

これはひとつの成長物語を太い軸にしてはあるが、
様々な「官能」への希求を挿話として散りばめ、
さらになぜだか死のイメージを所々に織り交ぜ、
終始、詩的印象を持たされている。

好きなエピソードは「オムライス」「フランス料理店」「牡蠣と海女」、
出来すぎた感はあるが、豊かさの本質を知るホームレスたちの歌う「仰げば尊し」、
そしてやっぱり「最後のチャーハン」というところだろうか。

線路沿いの木造アパート。貧乏子沢山。泥臭い亭主。
臨終間際の一瞬の覚醒は中華鍋一杯の熱いチャーハンにと姿を変え、
「うまいよ」と頬張る亭主と子等を満足気に優しく見守るとそれで息は絶え、倒れ込み、
「ゴン」と頭をぶつけた卓袱台の音は無情に響くが、
それは見事な母のフェアウェルであるようにも見えた。
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