うちの店を訪れている内にその人の人生がゆっくりと変化していくのを見ることがある。女性編集者のHさんが去年の夏初めて来店した時、仕事が忙しくて恋人が出来ない悩みを訴えて来た。美人で聡明。逆にそれが恋人が出来ない理由だと思った俺は、男を頭の中で選ばず、体で応えろ。とりあえず言い寄って来た誰とでもエッチしろなんて、過激な答をした。打席に入ったバッターが選球眼ばかり養ってもバットを振らなければ四球か三振しかない。振れば三振かも知れないが、ホームランの可能性もあるのだ。彼女がそれから誰とでもエッチしたとは思わないが、去年の暮れには好きな人が出来、正月休みの間にアツアツの関係になったとか。自分の恋模様を語る彼女の眼は少女漫画の主人公の様に輝いていた。勿論、ウチの店にこない内に人生が大きく変わっている人もいる。映画配給プロデューサーのAさんは、知らない間に指圧のクリニックを開いていた。映画配給と指圧、何処をどう考えてもつながらない。でも、新しい仕事にスタートしたAさんの眼もスポーツ漫画の主人公の様に輝いていた。