Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

勤務表を作るのが大変だ、と思っている方へ

2023年10月07日 | AI・機械学習
ここでもチラッと書いたけど、1年ほど前から自治さいたまICU医師の勤務表(の原案)を作成している。
慈恵にいた頃は勤務表作成担当を結構長い間やっていて、エクセルで関数とかいっぱい使って工夫していたけど、それでも数時間は必要だった。「コンピューターで自動で作れたらいいのに」とずっと思っていたのだけど、やり方が分からなかった。自治さいたまでも秘書さんが大変そうに作っていたので、Pythonも使えるようになったことだし、ちょっと勉強してみようかな、と思って買ったのがこの本。



数理最適化は式の書き方が普通のフログラムとはちょっと違うので慣れるのが少し難しいけど、その壁を越えれば基本的なやり方だったら結構すぐにできるようになる。勤務表作成なら複雑な式は不要なのでこれで十分。
そして一度プログラムが出来上がれば、15人くらいの勤務表なら5秒でできてしまう。まあ、勉強時間とプログラム作成に数十時間かかっているから、コストパフォーマンス的にはどうか、という問題はあるけど、勤務表の修正も同じ時間でできちゃうから、相当便利。しかも与えられた条件でベストの答えを出すので、スタッフの負担軽減という意味でも人間が作るよりも質が高くなる。

日本のICUを100施設回っている時に、「勤務表の作成がすごく大変で何日もかかっている」という話を何度か聞いた。ちょっと勉強は大変だけど、質の良い勤務表が短時間でできるようになるので、お勧めです。
コメント (2)
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心臓手術中の強心薬使用における患者、臨床医、施設レベルのばらつき

2023年10月06日 | 循環
Mathis MR, Janda AM, Kheterpal S, et al.; Multicenter Perioperative Outcomes Group.
Patient-, Clinician-, and Institution-level Variation in Inotrope Use for Cardiac Surgery: A Multicenter Observational Analysis.
Anesthesiology. 2023 Aug 1;139(2):122-141. PMID: 37094103.


心臓手術中の強心薬使用のばらつきの原因は、施設が22.6%、麻酔科医が6.8%、患者が70.6%、と。
おお、数字を初めて見たかも。

これは手術室の話だけど、ICUでも同様。ICUの7不思議の一つに数えてもいいんじゃないかと思うくらい、みんな好き勝手に使っている。そもそも心外(特に予定手術)は死亡率が他のICU患者に比べて極端に低いので、好き勝手にやっても予後は大きく変わらないし、研究もしにくい(大きなNが必要)。ここ20年でほぼ何も進歩していない分野ではないか?
医療と臨床研究のDx化がさらに進んで、RCTのサンプルサイズは数万〜数十万が普通、という状況にならないと、きっと決着しないんだろうな。

でも、さすがにドーパミンはいらないと思う。この文献でも1.2%にしか使われていないし。
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輸液蘇生のフェーズについて思うこと②

2023年10月05日 | ひとりごと
この記事にコメントをいただいた。ちゃんと批判してくれていて、ありがたい内容。
でも、そもそも数百人しか読んでないブログのコメント欄なんて誰も読まないだろうと思うので、こちらにコピペさせていただく。
ーーーーーーーーーー
Unknown (Unknown)
2023-10-03 14:59:18
病態のフェーズを理解することは重要ではないでしょうか。hypoかhyperかそれぞれを予測する評価方法は様々ありますが、その評価方法も完璧ではなく、それぞれに注意すべき点もあり、それのみに頼ることで、無駄に介入をしてしまうこと、介入すべきときに介入しないなどもあるでしょう。その評価方法を完璧に使いこなせて、完璧に常にボリューム評価ぎできるのでしょうか。そこに病態が今良くなってきている時か、まだまだ改善していないときか、悪くなっているときか、病態のフェーズを理解することで、いわゆるバランスの評価の結果からの介入の背中を押してくれることもあれば、踏みとどまらせてくれることもある。先生のお言葉は、何かhypoかhyperかそれぞれを予測する評価方法について、うまく使えば完璧であるように勘違いさせてしまうように思えます。

Unknown (内野)
2023-10-03 16:33:43
ふーむ。そうかもしれませんね。
消そうかな、どうしようかな、と思っていたら掲載日になっちゃった、というのが実情なので、まあ許してください。芯は食っていなくてもカスリくらいはしているのでは、ということで。
ーーーーーーーーーー
これと同じでどちらも一理あるから平行線になる予感がして、ちょっと適当に返事してしまったので、改めて考えてみたところ、僕もコメントを書いてくれた人も、同じことを言っている気がしてきた。

フェーズで機械的に行動しちゃダメだ、輸液の指標で機械的に行動しちゃダメだ、ちゃんと患者さんの病態を意識しよう。ということではないかな。
経験値が浅いと、どうしても一つのこと(最近勉強したこと、最近知ったこと、最近失敗したこと)に判断が影響されてしまう。そうではなくて、一つ一つの情報をしっかり意識して、かつ全体を考えることが大事。

どこかで聞いた話と思ったら、もう8年も前にこの本に自分で書いていた
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CrとCys-Cに基づく推定値の間に不一致がある場合は?

2023年10月04日 | 腎臓
Fu EL, Levey AS, Coresh J, et al.
Accuracy of GFR Estimating Equations in Patients with Discordances between Creatinine and Cystatin C-Based Estimations.
J Am Soc Nephrol. 2023 Jul 1;34(7):1241-1251. PMID: 36995139.


大きく乖離した時は平均を取ると結構正しい値になるよ、という研究。
ICUの患者が対象じゃ無いけれど、悪い提案では無いのかも。少なくとも結果は綺麗。

過去ログはこちらから。
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集中治療にAIの可能性をもたらすには。

2023年10月03日 | AI・機械学習
昨日の記事にとっても関連するレビューがあった。

Wardi G, Owens R, Josef C, et al.
Bringing the Promise of Artificial Intelligence to Critical Care: What the Experience With Sepsis Analytics Can Teach Us.
Crit Care Med. 2023 Aug 1;51(8):985-991. PMID: 37098790.


表1に、「人工知能が集中治療コミュニティに受け入れられていない潜在的理由」というタイトルで、懸念事項がリストアップされている。
自分のやっていることを評価してみるに、それなりに上手くやっているんじゃないか、と思った。
明らかにできていない項目は、
・Lack of definitive multicenter randomized trials
・Lack of infrastructure for real-time predictive scores
の2つ。1つ目はまだまだ先の話だけど、2つ目はメーカーと交渉中。

こんな研究もあるし、患者の予後予測に関しては専門家に匹敵するものを作れるのは間違いないでしょう。
あとはそれを使った臨床が予後を改善するかどうか。
AIによる予測が患者予後を改善するかどうかについてNEJMレベルの研究が行われるようになるのは、どれくらい先だろうね。
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AIによる予後予測を臨床で使い出してから半年が経過した。

2023年10月02日 | ひとりごと
こんなやつ。

(上の赤丸は再入室+死亡率、下は再挿管率)

これをICU在室中の全患者さんについて、1日1回作成して医師・看護師と共有している。
まだ全自動とは行かず、10-15分の作業を平日の朝に担当者にやってもらっている。

AIの臨床応用は、画像関連は診断補助なのでどれも便利そうだけど、未来予測についてはこんな話こんな話もあり、一筋縄では行かない。だからどうなるだろうと最初はドキドキしていた。

で、半年経って、分かったこと。
まず、予測が臨床医のそれよりも正確なことがチョコチョコあること。すごく具合が悪いと思っていても予測は死亡率ほぼゼロで(その逆のパターンもある)、予測の通りになったり、予測はまだ抜管は早いと言っているのに抜管したら次の日に再挿管になったり。実際、全患者を毎時間予測しているのにAUROCが0.9を超えている項目もあるので、人間よりも正確(なことがある)のは当然と言えば当然。
そして、そういうことを何度か経験すると、人は予測を気にするようになることも分かった。最近のカンファでは、「予測も抜管はまだ無理だと言っているし、今日はやめておこう」とか、そういう会話が時々聞かれるようになった。もちろん、予測に従うべきとも従って欲しいとも思っていない。自分の判断と同じだったら少し自信を持てるし、違ったら改めて考えるきっかけを提供できる。そういう補助的な役割を担ってほしくて作ったのだけど、実際にそういうものとして使ってくれている。ちょっと嬉しい。

半年経って、微妙だなと思うこと。
「予測も抜管はまだ無理だと言っているし、今日はやめておこう」という判断がされた場合、予測がなかったらどうなっていたかというと、きっと行動は変わっていない。じゃあ自分の判断と予測が異なった場合はどうか。それは分からない。果たして予測は人の行動に影響を与えているのだろうか。与えていそうな気はするのだけど、ちょっと微妙。

半年経って、分からないこと。
それはもちろん、患者予後への影響。
とりあえず1年経ったら調べてみようと思っているが、まだしばらく先の話。

実際どんな感じで予測してどんな感じで使っているのか見たい人は、自治さいたまにお越しください。
近未来のICUが見られますよ。
なんてなー!
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輸液蘇生のフェーズについて思うこと。

2023年10月01日 | ひとりごと
最近の文献で言えば、例えばこれ。
腎臓系のメジャー雑誌に最近掲載された補液についてのレビュー。"Rescue", "Optimization", "Stabilization", "De-escalation"といった言葉で補液のフェーズが説明されている。
Wang CH, Fay K, Shashaty MGS, Negoianu D.
Volume Management with Kidney Replacement Therapy in the Critically Ill Patient.
Clin J Am Soc Nephrol. 2023 Jun 1;18(6):788-802. PMID: 37016472.


こういうのを見るたびに、輸液蘇生のフェーズというものを僕は考えたことがないな、と思う。それどころか、考えると間違える可能性が高くなるかも、くらいに思っている。

確かにこういう現象はある。昔は(今も?)利尿期なんて言葉があったし、実際、入室初期に補液をジャンジャンしても追いつかなかったりとか、しばらくしたら胸が白くなったりとか、そういう現象はいくらでも経験する。では何故フェーズを考えたことがないか(臨床で使ったことがないか)というと、患者さんの水分状態はいつも気にしていることで、評価方法はたくさんあって、その中に時間というパラメーターは不要で、フェーズを意識する理由がないから。この患者さんは水が足りないと思えば補液するし、余っていて有害だと思えば除水する。ただそれだけ。

教科書とかレビューって、臨床に有益だから分類が書いてあるとは限らない。それよりも、論理的に話をしようとすると何らかのまとめが必要になるし、図表があった方がカッコよくなるから分類しているなんてこともきっと珍しくない。
問題は、それを読んだ人がなるほどと思って、まとめのために作られた分類や言葉を臨床に使い出すこと。そうすると、初期だけど補液をあまり必要としていない人に無駄な(潜在的に有害な)補液をしたり、そろそろde-escalationの時期だろうという理由だけで利尿剤を投与したりする(当然これも潜在的に有害)。そういうことが起こる可能性がある、じゃなくて実際にやっているところを何度も見聞きしたことがある。

試しにフェーズを忘れてみたらいい。あれ、いらないじゃん、ということに気がつくはず。
ただし、いつも患者さんの水分状態を意識していれば、だけどね。
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