Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

人工呼吸を要する重症患者における酸素目標の個別化治療効果

2024年03月21日 | AI・機械学習
お、またICUの機械学習文献がJAMAに載ったぞ。
熟読、熟読。

Buell KG, Spicer AB, Casey JD, et al.
Individualized Treatment Effects of Oxygen Targets in Mechanically Ventilated Critically Ill Adults.
JAMA. 2024 Mar 19. Epub ahead of print. PMID: 38501205.


なるほどー。うーん。。。

やっていることは、
Sp02のターゲットを高くするか低くするかのRCTのデータを2つ(PILOTICU-ROX)使って、
・まずPILOTのデータで28日死亡率を予測するモデルを作って、
・それをICU-ROXに当てはめて、
この方法でICU-ROXの症例を3群に分けたところ、
・ある群では低SpO2に割り付けた方が6%死亡率が低く、ある群では高SpO2に割り付けた方が13%低かったと。
結論として、こんな感じで酸素化のターゲットを個別化すれば予後は改善するかも、と。

主な研究の問題点(パラレルワールドじゃないんだから無理でしょとか、MEGA-ROXを待とうよとか)については、EditorialでAngus先生がお書きになっている。
なので僕は機械学習的に気になったところを。

まず、PILOTで作ったモデルをICU-ROXに当てはめるためには同じ特徴量(統計用語で言うところの説明変数、ただし細かいことを言うとこの二つは違うという話もある)を作る必要がある。でも使用された重症度スコアが2つの研究で異なる(PILOTはSOFA、ROXはAPACHE II)ので、これを換算する必要があった。いろいろ方法はあると思うけど、この研究では、SOFAを2点ずつ、APACHE IIは5点ずつに群分けして、それぞれの群の実際の死亡率を計算し、その値を"predicted risk of 28-day mortality"という名前の特徴量として利用している。
さて、これは情報のリークではないか?死亡率を使って死亡率を予測しちゃダメなんじゃないか?SOFAとAPACHEの関連を示した研究はいくつかあるだろうから、それを使う方が妥当では?

6つの機械学習モデルから、RBoostというのが選ばれている(XGBoost的なやつらしい、Rの言葉で書いてあるからよく分からない)。ハイパーパラメータをいろいろ調整した結果、このRBoostが一番だったということだけど、パラーメータ調整をするためのデータセットが用意されていない。普通はPILOTのデータを少なくとも二つに分けてパラメータ調整するはずが、どうもやっていないらしい。

この二つはPILOTのデータに対して過学習の原因になりそう。
まあ、それでもROXのデータでも臨床的に妥当な結果(脳損傷では低SpO2の方がいいとか)になっているのでOKでしょう?と言われたら、反論はしにくいけれど。

酸素化のターゲットの話はMEGA-ROXを単に待つ、でいいでしょう。
Nが馬鹿デカいから、それを使っていろいろ遊ぶ人も出るだろうし。
それに、どんな手法で仮説を立てても、結局はその仮説を検証するRCTが必要なわけで、普通のサブグループ解析でも分かる仮説の検証ではなく、複雑な予測による個別化を検証するRCTって、将来的に行われるのだろうか。
やるなら見てみたい気もするけれど。

なんか、批判的吟味的なことをしてしまった。恥ずかしい。
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