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Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

敗血症性ショックにおける最適なバソプレシン投与開始

2025年03月20日 | AI・機械学習
JAMAのAI文献。僕の感想は、「ふーん」。
その理由をちゃんと説明するため、少し詳しく書いてみる。

Kalimouttou A, Kennedy JN, Feng J, et al.
Optimal Vasopressin Initiation in Septic Shock: The OVISS Reinforcement Learning Study.
JAMA. 2025 Mar 18. Epub ahead of print. PMID: 40098600.


強化学習と言えばalpha-goやChat-GPTのRLHFが有名だけど、ICUにおける強化学習と言えば、この研究。時期も早いし、Nature Medだし、これを見た時の感想は「ただすごい」だった。教師あり学習は単に過去の情報をまとめるだけだけど、強化学習はその中からより良い選択をすることができるので、「近未来のICUでは強化学習が患者さんの状態に合わせた治療選択をしてくれるようになるのでは」と漠然と思っていた。

しかしあれから7年、AIの進歩には十分すぎるほどの時間が経ったが、ICUのAI研究が強化学習で溢れるような状況にはならなかった。理由は複数。
・強化学習は教師あり学習と比べて圧倒的に難しい。
・計算資源が教師あり学習よりもたくさん必要(時間がかかる)。
・囲碁などと異なり実験ができず、過去の情報の範囲内の選択しかできない(例えば敗血症性ショックにニカルジピンを投与したらどうなるか、なんていう実験ができない)。
・だからこそバラエティに富んだ多くの症例データが必要だが、巨大データベースはまだ存在しない(1000万例のバイタルデータとか)。
・AI研究者のほとんどがLLMに向かってしまい、強化学習の進歩が遅い。
・頑張って学習させても、このNature Medの研究のように、「敗血症性ショックに対し、ノルアドと補液の投与量を5群ずつに分け、合計25のストラテジを作り、そのどれがもっとも現状にとって望ましいか」という程度の結果しか出ない。「次の4時間はノルアドを0.22-0.45γ、補液を50-180mL/hrで投与してください」という情報が臨床で有益とはとてもじゃないが思えない。
これらの理由により、少なくともICUにおける強化学習は限られた数、限られた種類の研究しか行われていない、というのが現状。発表されている多くの文献はこの研究をリピートしたものだし、あとはFiO2とPEEPの組み合わせとか、せいぜいその程度。

さて、これらの情報を踏まえ、本研究を見てみる。
すぐに気がつくのは、Nが小さいこと。Trainingに使われたのは3608例のみ。そして、アウトカムが「バソプレシンをいつ開始するか」という非常にシンプルなもので、正直、目を引くものは何もない。では何故JAMAに掲載されたのか。
・アウトカムがシンプルであるが故に、逆に分かりやすく、臨床応用できる。
・バソプレシンの開始時期はもう多施設RCTが行われている話題だが、まだ結論が出ておらず、比較的注目を集めやすい。
・eICUのデータを使ったexternal validationなど詳細な解析をしている(AI文献としてはアリガチだけど)。
・強化学習は馴染みのない人が多い。
・アメリカの学会雑誌にアメリカ人が投稿した。かつ著者にDerec Angusが含まれている。
からだと思う。

一言で言えば、上手いことやった研究。
医療における強化学習が今後どこに向かうか、ICUに入ってくるのか、は今後も注目だけどね。
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