Dr内野のおすすめ文献紹介

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しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

ノルアドの投与量は文献によって数字の意味が違う!

2023年10月12日 | 循環
いやー、ビビった。文献読んでて声出して驚いてしまったよ。
この文献、しばらくフォルダに入れっぱなしになっていて、かつePubが5月なので、SNSとかでとっくに話題になってて僕だけ世間から置いていかれたのではないかと心配していたら、自治さいたまの人も誰も知らなかったようなので、ちょっとホッとした。

Kotani Y, Belletti A, D'Andria Ursoleo J, et al.
Norepinephrine Dose Should Be Reported as Base Equivalence in Clinical Research Manuscripts.
J Cardiothorac Vasc Anesth. 2023 Sep;37(9):1523-1524. PMID: 37291003.


日本のノルアドは塩酸塩で、ノルアドそのものに換算するには1.2で割らないといけない。ましてや欧米は酒石酸塩なので半分にしないといけない。
マジですか。。。
もう20年も前から、「フランスってノルアドの使い方がすごいなー」と思っていたら、これが一番の理由だったようだ(それでも多い気はするけど)。

これだけでも十分驚きなのだけど、
調べていくと、自分がもう何度も情報を見逃していることに気がついた。

まずこれに書いてあった。
Mongardon N, de Roux Q, Leone M, et al.
Norepinephrine formulation for equivalent vasopressive score.
Crit Care. 2023 Feb 16;27(1):62. PMID: 36797766.


ここにも。
Leone M, Goyer I, Levy B, et al.
Dose of norepinephrine: the devil is in the details. Intensive Care Med.
2022 May;48(5):638-640. PMID: 35290485.


そしてここにも。
Bitton E, Zimmerman S, Azevedo LCP, et al.
An international survey of adherence to Surviving Sepsis Campaign Guidelines 2016 regarding fluid resuscitation and vasopressors in the initial management of septic shock.
J Crit Care. 2022 Apr;68:144-154. PMID: 34895959.

表2に、"In your unit, which type of norepinephrine do you use?"と書いてあって、50%が"I do not know"と答えている。逆に言えば半分は知っていたということか?
他の文献は全部correspondenceとかなので気が付かなくてもしょうがないと言い訳できるかもだけど、これはoriginal article。そしてこの文献、持ってた。。。

さて。驚きはまだ終わらない。
日本のノルアドは塩酸塩らしいのだけど、ノルアドのインタビューフォームを読んでも、そうは書いてない。分子量は169(つまりノルアドそのもの)となっていて、塩酸という言葉はどこにも出てこない。このことについて知り合いがメーカーに電話して聞いたところ、なんと返事が「よく分からない」だったそうだ。多分塩酸塩なんだけど、じゃあアンプルに表示されている"1mg"はノルアドそのものなのか塩酸塩なのかは不明(下記)。

もうビックリしまくりで大変。
文献に書いてあるノルアドの投与量って何?という驚きと、
CCとかJCCとかICMとかに書いてあることにずっと気がつかなかった自分への驚きと、
メーカーがちゃんと答えてくれなかった驚きと、
何より、こんな基本的なことで知らないことがまだあったのかという驚きと。

ちなみに、ほぼ全ての文献にLeoneという方が出てくるので、どうもこの人とその周辺が騒いでいるようだ。
ちょー大事な話だもんね、当然だ。もっと騒いだ方がいい。今後は全ての文献でノルアドそのものに換算してあることが明記されるべきだもん。

そしてJCVAの執筆者は日本人。あなたは偉い。
ーーーーーーーーーー
追記:偉い人が、日本のノルアドはそのまま計算して良いだろうと教えてくれました
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3 コメント

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SSCGのノルアドレナリン用量について (BJ)
2023-11-11 11:59:54
いつも勉強させていただいています。
2023/10/12の記事に欧米と日本でのノルアドの組成の違いが書かれていましたが、自分も全く知らなかったことで驚きました。
そこで質問です。SSCG2021では血管収縮薬としてノルアドにバソプレシンを追加するときのノルアドの用量として0.25-0.5γがあげられていますが、この値はどのように考えればよいでしょうか。
Unknown (内野)
2023-11-11 17:27:10
0.25-0.5という数字、つまりノルアドとバソプレシンの使い分け・タイミングについては、一応は根拠は存在しているわけですから、ちょっと問題ですね。多分、今後はのあるアドの報告方法は変わるだろうし、次のSSCGはこの点に言及される可能性がありますね。
でも、根拠は多くないし強くないので、0.25-0.5という数字はあくまで目安です。なのであまり気にする必要はないのでは。
Unknown (BJ)
2023-11-11 17:34:39
内野先生 
早速のご返信ありがとうございます。研修医にノルアドでダメならバソプレシンを追加って教えるのですが、じゃあノルアドがどのくらいがバソプレシン追加のタイミングですか、と聞かれると答えに窮します。
今のところ、欧米のstudyでは0.2γくらいで追加していることが多いのでそれが一応の目安だろうと答えていますが、そもそも日本と力価が違うとなるとますます悩みます。

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