Dr内野のおすすめ文献紹介

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Hypotension Prediciton Indexの問題点について少しだけ詳しく。

2024年05月29日 | 循環
検索すると、HPIについて書くのはこれで6回目。
自分的にはこの辺でケリがついていたので半分忘れていたのだけど、自治さいたまのOP室にも入るらしいと聞いて、少しだけ追記することにする。

行われている議論を簡単にすると、
・HPIは術中の低血圧発生を予測しくれて、その情報に基づいて対応すると実際に低血圧の発生が減少する。
・HPIのトレンドはMAPのそれとほぼ同じ。それならMAPを見ていれば済むのでは。
という感じ。
ここで間違えやすいのは、有益なのか無益なのか、1なのか0なのか、という話ではないということ。

低血圧(HPI的にはMAP 65以下)の発生を予測するのに一番重要な因子はもちろん現在のMAP。次に重要なのはちょっと前のMAPとの差。
で、MAPの現在値と数分前とのΔMAPの情報に、波形解析などのそれなりに複雑な情報を追加すると精度がどれくらい上昇するか。それが、例えばAUROC 0.7が0.9になるとかなら有益だし、0.85が0.86になるならほぼ無益。

これは実際に誰かが調べてくれないと分からないけど、経験的には想像ができる。
僕はOP室で麻酔をしたことはないけど、ICUでのいわゆる処置麻酔(内視鏡の止血とか、大きな創処置とか)は普通にしていた。内視鏡の画面を見たいけどグッと我慢して、モニタをずっと見ていた。そうすると、「あ、MAPが下がってきたぞ」と気がついて補液したり、「あ、MAPが上がってきたぞ」と気がついて暴れ出す前に鎮静したりできるから。その経験から想像するに、HPIの精度向上は0.7→0.9よりは0.85→0.86に近いだろう、と予想される。

他の人が処置麻酔をしているのも見たりすると、「ああ、こういうのも上手下手があるんだなー」ということが分かる。これまたこの経験から想像するに、
・まともな麻酔科医がちゃんとモニタを見ていればHPIは、無益
・そうではない状況(若い医師、麻酔の掛け持ち、スマホ見るのに忙しい、など)では有益
かな、と思う。

でも、「MAP 70でアラームかけとけば同じじゃん」という意見には反論できない。
だから、「少なくともしばらくは(高い確率で永久に)使わなくてもよさそう」と思っている。

ちょっと詳しい説明でした。
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