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Dr内野のおすすめ文献紹介

集中治療関連の文献紹介が主な趣旨のブログ。
しかし、セミリタイアした人間の文献紹介なんて価値があるのか?

収縮期血圧の馬鹿らしさ

2016年06月14日 | ひとりごと
特にこれといってきっかけがあったわけではなく、何となくまとめておこうと思って。
ただし、根拠を示せと言われるとちゃんとしたものは半分くらいしか示せない。そこはちょっと微妙ではあるのだけど、まあそんなに間違っていない気はする。

侵襲的血圧測定(A-line)
・圧ラインの構造および患者の特性により、実際の圧変化がトランスデューサーに伝わったときには圧波形が増幅もしくは減弱されている。臨床的に多く見られるのは、特に高齢者に見られるいわゆるオーバーショート(アンダーダンピング)と、カテーテルや動脈の狭窄などによるいわゆるナマリ(オーバーダンピング)。特にアンダーダンピングの発生頻度は高く、ナマリのようにカテーテルの入れ替えでも改善しないため、臨床的に困ることが少なくない。ダンピングをわざと起こしてオーバーシュートを改善するデバイスもあるが、あくまで回路の物理的特性を一定量変化させるだけであり、その使用によって収縮期血圧の測定が正確になるかどうかは保証されない。収縮期血圧が高くて困っている時に使うと低くなるので便利なだけ。波形が増幅(減弱)されただけなので、平均血圧への影響は少ない(はず)。

・モニタに表示される収縮期血圧は過去数秒間の血圧波形の極大値の平均値。なので、その観察期間中に何度極大値があろうが関係ない。例えば観察期間が4秒だとしたら、脈拍が15/minだと1個、120/minだと8個の極大値を平均することになるが、もし一回拍出量と血管抵抗が同じだとしたら、表示される収縮期血圧は同じになる。かたや死にかけ、かたや頻脈で、心拍出量は8倍違うというのに。平均血圧はその名の通り全時間の血圧の平均なので、血管抵抗が同じで心拍出量が8倍違えば、平均血圧も8倍違う(はず)。

・IABPが挿入されている場合、極大値は収縮期だけでなく拡張期にも発生するので、その両方が平均される。つまり画面に表示されている収縮期血圧は実際には収縮期血圧ではなく、収縮期血圧とオーギュメンテーション圧の平均値。

非侵襲的血圧測定(NIBP)
・加圧の変化による動脈の振動の大きさの変化を用いて測定しているが、振動のピークが平均血圧によく一致することは知られているものの、振動変化のどこが収縮期血圧でどこが拡張期にあたるのかは定まっておらず、製造メーカーが独自に決めている。つまり収縮期および拡張期血圧はメーカーによって異なるが、平均血圧は同じ(はず)。

水銀柱
・”水銀を落とす速度は、血圧測定点付近では1拍動2㎜Hgとする”と教科書には書いてあり、そうでないとちゃんと計れるわけないけど、実際にはそんなこと面倒でやっていない人は多いはず。1拍動2㎜Hgって、脈拍が60/minだったら10mmHg下げるのに5秒かかる。収縮期血圧が予測できない場合、180mmHgから始めて100mmHgまで下げるのに40秒もかかる。

収縮期血圧と平均血圧
・教科書的な話で、もう言い飽きたけれども。血圧がもっとも重要なのは臓器灌流圧を規定しているからで、それは平均血圧が決定する。実際、全身血管抵抗(SVRI)、脳灌流圧(CPP)、腹部臓器灌流圧(ABP)のどれを計算するときでも使用するのは平均血圧。それにそもそも、血圧が低くて困るのは臓器血流が低下するからで、気にするべきは平均血圧。収縮期血圧は臓器血流とは関係なくて、せいぜい脈圧の大きさから心拍出量を推定するくらいの情報しかない。

・ではどんなときに収縮期血圧の意義があるかだけど、心臓の高負荷を問題とするとき、大動脈への衝撃(大動脈解離の急性期とか)を問題とするときは収縮期血圧を使用することが妥当そうな気はする。出血を気にしているときに血圧を下げようという話になるが、明らかに動脈性の出血の場合は別として、通常は毛細血管圧が規定因子なのではないか。その場合、確かに血圧が下がると出血は減少するだろうけど、収縮期血圧が下がったからなのか平均血圧が下がったからなのか、よく分からない。

結論。
高血圧の慢性期管理とか、救急外来の初療とかは別として、少なくともICUにおいて収縮期血圧が有意義な状況はとても少なそうだし、血圧が低いことを問題とするときはまったく意味がないというのも確かそうだ。
収縮期血圧は無意味だとは言わないけれど。ただ、その意義の小ささと、実際の臨床での使用頻度の高さとの乖離が大きすぎるので、馬鹿らしく思えてしまう。

モニタや電子カルテのメーカーの方々、平均血圧を小さく表示たり温度板にプロットしなかったりするのはもうやめませんか?
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