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眼に見えない「痰」とは?

2012-11-25 00:15:00 | 漢方市民講座

漢字の「痰」は眼に見えますが、「見えない痰」とは?

始めに

見えないものは信じない、定量化できないものは信じない、さらにはデジタル化できないものは信じないというのが科学者である医者の正当な姿であると信じるのであれば、そのような医者や薬剤師は以下の「見えない痰」の講座は意味がありませんので読まないでも私には痛痒はありません。

中医学の医師は体内の異常な液体と問われれば「痰タン イン 湿シー」の3者を挙げます。「実際に見せてください」とお願いすれば、目に見える痰、いわゆる喀痰、胸水、じくじくした皮膚病変などを「痰タン イン 湿シー」として示すでしょう。彼らは何千年にもわたって漢字教育を受けてきたので、「漢字の感じ」を良く知っています。加えて、「伝統医学の言語体系」は約2000年間に革命的な変化が無いままに現在に至っています。「痰タン イン 湿シー」の「概念」を病因論、治療論から一部を変化させようとしても、約2000年間の先人の「伝統医学の言語体系」自体を変化させなくてはならないので、膨大な労力を要することになります。かかるゆえに、臨床的に効果があることは「伝統医学の言語体系」の中で認証し、新たな西洋医学的知見は順次取り入れるという中西医結合の方向へ向かって進んでいるのが現状です。臓腑学説も同様であり、陰陽五行学説も同様です。

では「痰」とはどのように「伝統医学の言語体系」で扱われてきたのか?現代用語も交えて解説すれば、

とは、肺、脾、腎などの水液代謝が失調し、津液の運化と輸布が出来なくなって

停滞、あるいは濃縮されることによって発生する病理産物であり、目に見える喀痰はその一部である。中医基礎理論では脾は生痰の源、肺は貯痰の器として論じます。西洋医学で統一された頭脳には理解しにくいというよりも、許容できないものがあることも容認します。その「痰」が五臓において引き起こす「痰症」を、「伝統医学の言語体系」では次のように定義しました。

肺の痰症の症状:咳、呼吸困難、多痰

胃の痰症の症状:悪心、嘔吐

経絡の痰症の症状:痰核(しこり、結節)

痰が心窮をふさぐと精神異常、意識障害が起こる

すでにここまでで、「痰」が奇怪な病理産物であるという印象があります。「実際見せてみろ」といわれれば、胃の痰症、経絡(これも見せることが出来ません)の痰、精神異常、意識障害はある程度、数量化は可能ですが、心窮を表示は出来ませんし、ましてや心窮をふさぐ眼に見えない痰を見せることも出来ません。そこで「わが意を得たり」と「漢方は非科学的であるから学ぶに値しない」と断ずる医者も出現することになります。しかし、転じて「治療効果」「自覚症状の改善」などに視点を移せば、西洋医学が到達してない治療効果が現実にあるのに気が付き、「訳がわからないが、一通り、漢方を学んでみるか」という気持ちに変わる医師もいるのです。そもそも五臓に脳が含まれていないのですから、現代医学から論ずれば舌足らずの感は否めませんし、ビタミン、ミネラルなどに相当する漢方用語が「伝統医学の言語体系」にありませんので、あくまで、理論は後付で、治療が先行したという中医学の歴史の中で、漢方用語が生まれてきたと感じる立場を忘れないことが大切です。

それにしても、2000年も前に「誤治」という概念を打ち出した張仲景は偉大です。常日頃感じていることは、「病は医師が治すものではなく、患者さんの自然治癒力のお手伝いをするのが医師である」という考えです。「患者さんの自然治癒力を損なう治療が誤治」なのです。

昔の医師になったつもりで、老師との問答を想定してみましょう。

老師:治りにくい病の原因として何を考えるか?

貴方:痰

老師:では「痰」の特徴とはなんぞや。

貴方:病を長引かせ、気血のめぐりを阻害し、気滞や瘀血を生む

老師:他の特徴はなんぞや。

貴方:多種多発の性質を持ち、神明を擾乱(じょうらん)させる。

老師:では、診察時の患者の特徴は?

貴方:肥えている場合が多く、舌苔が粘?(ねんじ)です。

老師:然り。

あっけないほど簡単ですね。

問答は続きます

老師:瘀血の原因とはなんぞや。

貴方:気虚、気滞、寒凝、血熱による出血、外傷

老師:忘れているものがあるが、なんぞや。

貴方:痰疽(たんそ)です。

老師:然り。では瘀血の特徴はなんぞや。

貴方:視診で①暗紫色、痛みを問えば②固定された痛み、夜間痛、婦人に問えば③経血に血塊の出現などです。

老師:先ほど診たご婦人には乳腺に悪しき腫れ物があった。基本病因はなんぞや。

貴方:肝経の痰凝血瘀です。

老師:然り。では治療原則はなんぞや。

貴方:化痰活血化瘀です。

老師:然り。

禅問答ではなく、老師と弟子との真面目な医学的会話だったのです。

老師:痰飲 瘀血 結石の共通点と相違点はなんぞや。

貴方:共通点はすべて病理産物であり、

相違点は、痰飲は水湿代謝障害により形成される病理産物

瘀血は正常に巡らず体内に留まった血液

結石は湿熱により形成された砂石様のものです。

老師:然り。稠濁なるものが「痰」にて、無形の痰とは、痰液をみることは出来ないが、治療薬が有効なある種の病証である。有形の痰とは、肺から喀出される、眼で見える痰であり、清稀なるものを「飲」として、狭い意味では痰飲は胃腸の水飲懸飲(けんいん)は胸水溢飲(いついん)は皮膚の水飲支飲(しいん)は心下の水飲を区別する。およそ、飲食不摂生で甘く、濃厚な食品を過食するものに「痰」は生じやすい。

貴方:覚えておきます。

老師がそのように教えるのであれば、門下生は一字一句間違えないように毛筆で筆記したことでしょう。

老師:風痰とはなんぞや。

貴方:痰証に動風を伴うもので、上実下虚の肝腎陰虚から、肝陽が上亢し、痰と一緒に肝風が体内を動き回る病態です。

老師:然り。では症状はいかなるか。

貴方:眩暈、時に卒倒、口眼歪斜(こうがんわいしゃ)、半身不遂、舌が強張り、話が出来なく、或いは言語がもつれる。

老師:然り。では狭義の痰飲の定義、症状、治療法はなんぞや。

貴方:狭義の痰飲とは水飲が胃腸に停滞したものであり、症状は、胃腸で水音

を発す 胸脇部張満 不口渇 不欲飲水 眩暈 心悸 気短 (凌心射肺) 白滑舌 脈は弦滑脈(痰飲脈象) 治則は温化痰飲です。

老師:しかり、古くはどの方薬を用いたか?

貴方:傷寒論中太陰病の茯苓桂枝白朮甘草湯を用います。

老師:然り、太陰病とは脾の病であり、脾陽虚による中焦の病、すなわち、中焦虚寒証である。これに対して少陰病は全身の陽虚による全身性の虚寒症である。

太陰病では手足はわりに暖かかく、少陰病では手足は冷たく、脈は微細となる。

主証は、腹満、腹満して嘔吐し、(食不下)食欲不振 下痢、稀に腹痛があるが、寒邪阻滞による腹痛である、腹満腹痛は喜温、喜按、舌苔白?、脈沈緩弱である。口渇が無い理由は、下焦の気化作用が傷害されていないから津液上昇も出来るのからである。思い返しなさい、陽明病の腹満、腹痛が実症、口渇(+)であるのに対し、太陰病は虚症による腹満、腹痛で口渇(-)ある。嘔吐下痢がひどくなれば口渇の感覚が生じるが、あまり飲みたがらないか、或いは暖かいものを少し飲みたがる。

太陰病の治則は寒に対しては温、虚に対しては補、すなわち温補であり、理中丸(理中湯=人参湯)を主体として、虚寒が強ければ附子を配合する。中等症には苓桂朮甘湯、さらに病状が悪化し、少陰病証に発展すれば真武湯、重症には四逆湯類が必要になってくる。真武湯証、四逆湯類証は少陰病心腎両陽虚方証に属する。

貴方:暗記していました。

老師:可なり。さすれば理中丸証と苓桂朮甘湯証を述べ、生薬の効能はいかん。

貴方:理中丸証:脾陽虚による中焦水停滞、喜唾久不了了(よだれが止まらない)

胸上有寒、寒多不用水(不渇)、(上から)頭重、めまい、喜唾久不了了、寒多不用水(不渇)胸上有寒胸痛、胸下結鞭、食不下、嘔吐、腹満腹痛、下痢、小便自利

理中丸(人参干姜白朮炙甘草){温中散寒、健脾益胃利湿に作用}

(煎薬としたものが人参湯で金匱要略方剤です)

寒症がつよければ附子理中丸(理中丸+附子)

同じく脾陽虚による中焦水停滞で理中丸証より病状が重く、小便不利が出現し、真武湯証に近い状態になったら茯桂朮甘湯を用います。

苓桂朮甘湯証:(上から)起即頭眩(起きるとフラフラする)、口渇なし、喘満、気短、(理中丸証より重症)、動悸、胸脇支満(胸脇部まで結鞭がひろがる)心下逆満、清水嘔吐(水気上衝胸)胃部振水音、腹壁軟、小便不利(理中丸証では小便自利)、大便軟、身は揺揺として揺れます。真武湯証に近い状態です。

茯苓滲湿利水桂枝通陽化気白朮健脾燥湿に、炙甘草補益中焦

調和諸薬に作用し、方剤として健脾利湿、温陽行水に働きます。

老師:覚えているのは佳にして可なり。まずは先人の言を覚えるべし。

貴方:まだ「見えない痰」の方には老師の教えがさほど進んでいませんが、

老師:先は長いのだ、本日は「老人たる私は疲れた、後日続きを行う」

貴方:後片付けと、洗濯は済ませました、夕食の準備も出来ておりますので、御酒を持ってまいりましょう。

老師:佳にして良なり。

続く  ドクター康仁 記


要薬 半夏 考

2012-11-24 00:15:00 | 漢方市民講座

漢方市民講座 「要薬 半夏」

(制)半夏 せいはんげ ジバンシャ 生半夏は有毒 辛温

生の半夏は咽頭を刺激する為に生姜と共に使用します。中国では制半夏という修治(炮制)したものを使います。嘔吐、痰飲、腹張逆満、咽頭腫痛に効能があると最初に覚えましょう。

最も顕著な作用は鎮吐作用であり、 古くは金匱要略に半夏厚朴湯(梅核気に)、傷寒論に半夏心湯(寒熱挟雑の胃部不快感に)が記載されています。

副作用は下痢ですが、黄芩が拮抗します。半夏には、抗炎症作用の報告も近年なされています。

中医学的には「少陽病期」において用いられる重要な生薬です。小柴胡湯中の半夏と生姜の組み合わせなどです。

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スライド 半夏

燥湿化痰 湿痰、寒痰に良い。脾経にはいるので 湿痰の要薬とよばれます。

中医学では「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」と教えるように、痰の形成に脾を重要視します。そこで、入脾経という概念があります。

辛温なので寒痰に良い(比較:竹茹は涼性なので熱痰に良い)半夏を熱痰に用いる場合は清熱化痰薬と配合します。反対に燥痰には用いられない。初めはこのように単純化して覚えるといいでしょう。

消腫鎮痛:半夏を外用する。天南星に比べ作用は穏やかである。

降逆止:妊娠悪阻にも(昔は妊娠時に禁とされていたが今は用いられている)

 方剤例 小半夏湯(金匱要略 半夏 生姜)小半夏加茯苓湯(金匱要略)

消痞散結痞満に対して(副作用下痢―黄芩、黄連、葛根と配合)リンパ節腫大、

甲状腺腫などに用いられる。

梅核気(肝気鬱滞による気痰互結)には半夏厚朴湯が効きます(後述)。

半夏厚朴湯(金匱要略)半夏 厚朴 茯苓 生姜 蘇葉に大棗を加味したもの。効能:行気解鬱 降逆化痰

半夏の中医学的捉え方

基礎理論から「気滞症」

  原因:痰湿(痰濁)、瘀血、食積、結石など実邪により気滞は生じる。

症状:張、痛 痰湿気滞:体が重い、歯痕舌、厚?苔、滑弦脈

論治:一般的には肝気郁結を指すことが多い。肝鬱気滞に対しては逍遥散(和剤局方 柴胡 白芍 当帰 白朮 茯苓 生姜 炙甘草 薄荷)が用いられる。中医学的に気鬱痰結の梅核気(ばいかくき)症状に半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(金匱要略:半夏 厚朴 茯苓 蘇葉 生姜)が用いられる。梅核気は、患者によって感じ方が異なりますが、喉に何かつまっているか引っかかっている感じ、喉に塊りがある感じ、喉の奥がはれている感じ、胸がつかえる感じとして訴えることが多い。

基礎理論から「よく見られる痰証」

寒痰(かんたん):痰証に寒証を伴うものと中医学では定義される。外感病では、寒邪感受し、水液寒凝して滞る状態です。

内傷病では、陰盛陽虚により、同じく水液寒凝滞が病態となります。

症状は畏寒(いかん)寒さが嫌いなこと、手足厥冷(けつれい)(手足の冷え)白色痰 手足が重く、筋骨に痛みが生じる。脈は沈遅となります。

治療原則は温化寒痰(寒痰を暖めて除くの意)であり、方剤例は 三子養親湯(韓氏医通 蘇子 白芥子 莱菔子)或いは二陳湯(和剤局方 半夏 陳皮 茯苓 炙甘草 生姜)に干姜 細辛 五味子(これら三生薬はいずれも温薬です)を加減します。

湿痰 痰証に湿証を伴うもので、 寒湿邪感受→肺、脾の機能失調→水湿停滞 湿痰へ、脾虚 運化失調→水湿停滞 湿痰へ 以上が中医学的な病機とされます。

症状は、胸のつかえ 食欲減退 悪心嘔吐 多量の喀出しやすい痰 体が重い

? 濡脈(湿邪阻滞)滑脈(痰飲脈象)であり、燥湿化痰が治則であり、二陳湯が良いと思います。傷寒論中の小青龍湯(しょうせいりゅうとう)の組成を眺めると、麻黄 桂枝 乾姜 細辛 白芍 五味子 半夏 炙甘草です。風寒客表、水飲内停に対しての、宣肺降逆 温化水飲の作用のうち、温化水飲は温化寒痰とほぼ同意であり、乾姜 細辛 半夏によるものです。私論ですが、近年の医師は、ほとんど漢方医学(中医学)の訓練を受けていないのに、知ったかぶりか、あるいは、あてずっぽうなのか、馬鹿の一つ覚えなのか、気管支喘息の寛解期にも、アレルギー性鼻炎などほぼ必要のない疾患にも、漫然と小青龍湯を継続するか、はなはだしきは、乱用する傾向があります。慎まなければならないことです。日本の自称漢方医のレベルの低さには驚いて開いた口がふさがらない場合もあります。浅学の私でも、弟子であったら破門したくなるレベルの医師も存在します。基本的な寒熱弁証すらできない偽医者が多いのです。小青龍湯の副作用として、胃粘膜傷害、温燥に傾き、喉が渇く、発疹が引かない、心悸亢進、血圧上昇などが起こる可能性があります。私は、小青龍湯を投与した患者さんは過去1年間を振り返って一人も居ません。西洋医学で対応できる急性期の気管支喘息に、あえて小青龍湯を使用する必要がないというのが私論です。神秘湯を最小限に使用する場合はありました。

ところで、「温胆湯(うんたんとう)」についての整理をすると、

コタロウの「温胆湯」の組成は全6g中の中に

半夏4.8茯苓4.8生姜0.6g陳皮2.0g 竹筎1.6g 枳実1.2g 甘草0.8の構成になっています。この出典は三因極一病証方論、俗に「三因方」、陳言(11311189)の創方と重なります。中国の年代では金元時代に入ります。二陳湯に竹筎と枳実を加味したものと考えるのが妥当でしょう。

ツムラの竹筎温胆湯の組成は上記コタロウの「温胆湯」に柴胡 麦門冬 桔梗 香附子 黄連 人参を加えた組成になっており、竹筎の量は半夏:竹筎=5:3となり、竹筎の量が増えていますが、そもそもの温胆湯にも竹筎が配合されているのですから、相違点は涼寒薬が増え、対薬である桔梗と枳実の上行と下行の気機調整が加えられ、理気薬である香附子が加味されているということになります。平たく言えば、方剤としては、より涼寒に傾き、理気薬が増えているということになります。私どもの中医学を学んだものとしては「黄連温胆湯」の組成が、ツムラの竹筎温胆湯にあたるのではないかと思います。加味温胆湯は黄連温胆湯を指すのです。したがって、温胆湯加減として、竹筎温胆湯や黄連温胆湯があるのではなく、竹筎温胆湯加味として黄連温胆湯が位置すると理解すべきでしょう。などを加味した星火温胆湯と称する方剤もあるようですが、出典は明らかではありません。長患いの胃腸障害を改善する意味で人参が配合されたのかは不明です。白朮でない理由が私にはわかりません。痰熱による傷肺陰を補う目的で麦門冬は配合されたのかと思います。以上をまとめますと、二陳湯→温胆湯→竹筎温胆湯(黄連温胆湯)と進化したという仮説です。

 ところで、

黄連温胆湯に似た4生薬の方剤が王士雄(清代)の「温熱経緯」にあります。黄連橘皮竹筎半夏湯(おうれんきっぴちくじょはんげとう)です。非常に簡素な内容ですが、橘皮を陳皮と考えれば、二陳湯の茯苓、甘草、生姜をそぎ落とし、黄連と竹筎を加えたとも考えられます。

「医方考」あるいは「医方集解」の中の清気化痰湯(せいきけたんとう 或いは清気化痰丸 1682 医方集解 清代)の組成は以下のようになります。

黄芩 栝萋仁 半夏 陳皮 杏仁 枳実 茯苓 胆南星 

胆南星と半夏の量が他薬に比較して1.5倍で、全体として寒涼の性質を持ち、熱痰に対する常用方とされます。方剤的にはもっとも後期になります。

君薬は苦涼の胆南星は清化熱痰薬で、苦辛温の天南星を牛胆汁で炮制したものです。炮制前の天南星が激しい温化寒痰薬であるのに対し、炮制後の胆南星は苦涼となり、熱痰を除く性質になります。胆南星の清化痰熱の効能は清気化痰湯が代表方剤とされます。私論ですが、生甘草を加味してもなんら問題はないようです。そうしますと、二陳湯に黄芩、栝萋仁、杏仁、枳実、胆南星を加味したものと考えられます。胆南星の薬効の特徴は、痰熱による意識障害や癲癇、痙攣などに、牛黄、天竺黄などとともに、用いられることです。この場合の「痰」は「有形の痰」に加え、中医学独自の「無形の痰」の概念に基づきます。方薬中、黄芩は清肺熱に、栝萋仁は清化熱痰と潤肺寛胸理気に作用し、胆南星を補佐します。枳実と陳皮は下気開痞消痰散結に作用し、黄芩、栝萋仁、枳実、陳皮は臣薬です。止咳平喘薬の杏仁は宣肺下気に作用し、茯苓は健脾利水滲湿により瀉肺と、生痰の源である脾を調節し、半夏は燥湿化痰に作用し、杏仁 茯苓 半夏は佐薬になります。二陳湯の半夏、陳皮(橘皮)、茯苓、燥湿化痰に作用すると理解も可能です。全体として清熱化痰潤肺と下気止咳に働きます。証は構成生薬から推測が可能で、咳嗽、熱痰である黄痰、胸の痞え、肺熱としての発熱、呼吸数の増加、熱証としての舌質の紅、舌苔の黄、かつ痰濁としての?苔、脈象は痰証としての滑、熱証としての数などです。

清代の「医学心悟」には、貝母栝萋散貝母 栝萋 天花粉 茯苓 陳皮 桔梗があります。熱痰よりも燥痰に対する方剤と考えられます。

ところで清気化痰丸(医方集解 清代)と清金化痰丸(統旨方)とは同じものでしょうか? 答えは「似て非ず」です。

清気化痰湯(せいきけたんとう 或いは清気化痰丸 1682 医方集解 清代)

黄芩 栝萋仁 半夏 陳皮 杏仁 枳実 茯苓 胆南星 

清金化痰湯(せいきんけたんとう 統旨方 明代に成立か?):清金―黄芩 山梔子 知母 桑白皮 化痰―母 栝萋仁 潤肺―麦冬 痰除去―桔梗 主治:内傷咳嗽、痰熱郁肺

上海時代には以下のように処方を覚えました。

清金化痰おうごんさんしし ちもそうはく べいもばくとう ぐあろうれん 

ぶくりょう ちんぴ ききょうかんぞう

黄芩山梔子9 知母桑白皮12 貝母麦門冬栝萋仁12茯苓陳皮6 桔梗甘草

中国の方歌(処方内容を覚えやすく歌にしたもの)には、「清金化痰黄芩? 桔梗麦冬桑? , 瓜??茯苓草 ,痰火犯肺咳嗽止」とあります。日本人ですから、馬鹿正直にそのまま日本語、中国語ちゃんぽんで語呂合わせで覚えたものです。清金化痰湯には原則 半夏は除かれています。温薬を少なくしたかったのかも知れません。

処方される病状は以下です。

 ①痰熱郁肺の咳嗽(咳嗽 痰多 痰粘稠黄 黄?苔)

 ②肝火犯肺の咳嗽に 瀉(しゃはくさん 小児薬証直決)地骨皮 桑白皮 甘草 粳米と合方(痰熱郁肺に口苦 脈弦数 情緒誘発の肝火の証が加わる)

 ③痰熱郁肺型の喘 桑白皮湯(景岳全書 桑白皮 黄芩 黄連 山梔子 蘇子 

半夏 貝母 杏仁と合方喘 黄苔 痰多粘稠黄 脈数)

漢方処方は漢方医の学識、(経験)、学派で少しずつ変化します。現代まで処方名が残存しているものには、特に有効性があったためであろうと推測するのが、素直な「筋(すじ)」でしょうが、おそらく、多数のバリエーションがあったと思います。医書に編纂される際に、有名な医家であったという史実とか、門人が処方名を記載していたとか、編纂時の有力者の後押しがあったとか、いろいろな背景が存在すると思います。

ドクター康仁 記

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次回は無形の痰についての講座を予定しています。


普済消毒飲 考

2012-11-23 00:15:00 | 漢方市民講座

東垣(り とうき)

金元四大家の一人「李東垣11801251」は後世「脾胃派」として有名ですが、

彼も必要とあらば「苦寒」の清熱解毒薬を使用しました。

その代表方剤が、普済消毒飲(ふさいしょうどくいん)(東垣試効方)です。

普済消毒飲

清熱解毒剤に分類されます。組成は、黄芩 酒黄連15g陳皮 生甘草 玄参 柴胡 桔梗6g連翹 板藍根 馬勃 牛蒡子 薄荷3g白僵蚕 升麻 2g 粉末を湯に溶いて頻回に服用するか、蜜丸にして噛んで服用する。
1/3
2/1量を水煎服用してもよい 
効能:疏風散邪、清熱解毒 主治:大頭瘟

大頭瘟とは、「大頭傷寒」「大頭風」「大頭天行」ともいい、現代の顔面丹毒、流行性耳下腺炎などに相当し、風熱疫毒の邪が気分に侵入した病変と推定されます。細菌やウイルス感染症に対する方剤といえるでしょう。

方剤論で言えば、


方中の酒黄芩、酒黄連は頭面の熱毒を清する、共に君薬です。
牛蒡子、連翹、薄荷、僵蚕は共に臣薬で、辛涼疏散で、頭面の風熱を散発します。
玄参、馬勃、板藍根は、清熱解毒の効を増強し、甘草、桔梗、玄参は清利咽喉に働きます。
さらに玄参は陰を傷つけないような作用を有し、陳皮は理気疏壅で、邪熱鬱結を散発します。
方中の升麻、柴胡はその疏散風熱の効を果たす。つまり「火鬱発之」の意味です。
黄芩、黄連は升麻、柴胡の力により、効率的に上に、つまり顔面頭部行くことができると考えたようです。
升麻、柴胡、黄芩、黄連を配伍し、相反、相成で協同して疏散風熱、清熱解毒の効を果たします。

漢字の勉強になってしまいますが、

当時は生薬の「現代医学的な成分特定」が無かったのですから、漢字で表現するしかなかったのです。

それでも、現代の中国では、流行性腮腺炎、顔面丹毒の治療に用いられています。

聞きなれない、白僵蚕は辛涼疏散に働きます。馬勃(ばぼつ ホコリタケ科 Lycoperdaceae のキノコです。上海時代に、清肺熱、利咽喉に作用すると教えらました。「湯をかけて溶かして飲む、一回量は5け 野菜として食用しても安全である」と。

私は最初中国語でマーボと覚えましたが、現在に至るまで、生薬の馬勃を使用したことは無いし、日本では流通されていません。清代の「温病条弁」には銀翹馬勃散(ぎんぎょうばぼつさん)が出典されています。組成:連翹 牛蒡子 金銀花 射干 馬勃

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スライド 李東垣

涼膈散(りょうかくさん)(太平恵民和剤局方 北宋時代)

太平恵民和剤局方中の大黄が配合されている涼膈散(りょうかくさん)を眺めてみましょう。太平恵民和剤局方は北宋時代の刊行ですから、金元時代より前であり、元、明、清と時代がうつり、清代の温病学の発生の遥か以前の方剤です。大黄と芒硝により中焦の熱を瀉下により除去し、山梔子、連翹、黄で上焦の心肺の熱を清し、竹葉によって小便に熱を泄熱するという解熱の役割分担の概念を見て取れます。

涼膈散(りょうかくさん 太平恵民和剤局方)

山梔子 連翹 薄荷 黄芩 竹葉 大黄 芒硝 甘草 

膈は縦膈と横隔を意味します。上焦中焦の熱を清熱、通便、利尿泄熱、通便の組み合わせで解熱させます。大黄 芒硝 甘草の組み合わせは調胃承気湯(傷寒論)に相当します。黄連こそ配合されていませんが、配合されていてもなんら不思議を感じません。三黄瀉心湯(金匱要略 大黄 黄連 黄芩)の概念がやはり色濃く反映されています。

黄連解毒湯(おうれんげどくとう 外台秘要 唐代黄連 黄 黄柏 山梔子

中国時代区分に従うと、三黄瀉心湯は後漢時代、黄連解毒湯はさらに下って隋代にはすでに知られていたようです。隋代(581618 都は長安 現代の西安市)の巣元方の「諸病源候論」は、中医の病理専門の本であり、その中は、内科疾病の記載が大半を占めています。巣元方は煬帝に上奏して「諸病源候論」を作ることを提案し、勅命によってその計画が実行され5年後の610年に完成しましたが、刊行を目前にしながら、随は唐に亡ぼされました。原稿が発見されたのは、唐代の玄宗の頃で、「外台秘要」の中で、「諸病源候論」が引用されています。そうしますと、黄連解毒湯は唐代以前の隋代にはすでに広く使用されていた方剤ではないかと推測されます。もっとも黄連解毒湯の証で便秘を伴う場合には大黄を加えるとの記載がありますから、黄連 黄 黄柏 山梔子プラス大黄となりますと三黄瀉心湯に黄柏と山梔子を加味したことになります。

黄連 黄 黄柏 山梔子に対する基本的な中医学的な知識は中国漢方を学ぶ上で欠かせません。

共通点は清熱燥湿瀉火解毒作用です。清熱燥湿は清熱利湿とも言います。

湿熱諸証と熱毒諸証(熱病煩渇、高熱神昏、咽喉腫痛、目赤腫痛、皮膚瘡瘍腫痛、湿熱黄疸、湿熱下痢など)に効果があります。湿熱の治療の難しさは、「如油入麺」「小麦に入った油の如し」と形容され、油だけを取り除くのは難しいという言い回しがあります。

市民講座 復習:

黄連(おうれん)四川省産の川連が有名です。帰経は心肝胃大腸ですが

特に上焦心熱と中焦肝胃大腸に作用します。抗菌作用は黄芩 黄柏 山梔子中で最強といわれます。抗ウイルス作用や、抗不整脈の効能も報告されています。

肝火による肝胃不和「呑酸がみられる」の際に清心火除煩、清胃熱止嘔に働きます。

左金丸{苦寒黄?+辛苦熱吴茱萸(清熱燥湿瀉火解毒+燥湿疏肝下気)}については前述しました。腸湿熱による細菌性の大腸炎に有効です。木香黄連丸{苦寒黄連+苦辛木香:清熱燥湿瀉火解毒 理気止痛)については前述しました。

熱毒による眼病、或いは皮膚の瘡にも効果があります。中枢神経には興奮鎮静の作用があります。胃液分泌抑制作用や胃粘膜の安定作用により抗潰瘍の効果が報告されています。一定の脳血流改善作用も存在するといわれています。

黄芩(おうごん)帰経は肺胆胃大腸ですが、特に上焦の肺熱、肺火に作用するのが特徴で、中国では単味 30gを「清金散」と称し、清肺熱に用います。一定の抗炎症、抗菌作用、抗ウイルス作用が現代薬理学で確認されています。

降圧作用の他に、ケミカルメデエイターの遊離抑制により一定の抗アレルギー作用があることも確認されています。中焦の肝胆大腸の湿熱をとる作用は中医学の説くところですが、湿熱の概念が現代西洋医学に無いために、具体的に説明を加えるのが困難です。現代薬理学では、黄成分に胆汁分泌促進作用があることが確認されたことや、すでに抗炎症、抗菌作用があることが確認されていることを付記します。

涼血止血作用と中薬学は記載しています。血熱出血に対する涼血作用による間接的な止血作用という意味ですが、これも現代薬理学で明確に定義づけをすることは困難です。黄の清熱作用による妊娠の安定化を清熱安胎(あんたい)と中医学ではいいますが、現代薬理学での証明はまだ無いようです。中医学の長い経験から出てきた効能概念のひとつです。

黄柏(おうばく)四川省産の川柏が有名です。ミカン科のキハダのことです。帰経は腎膀胱大腸とする清書と腎胆膀胱とする清書があります。特に下焦腎に作用するのが特徴であると中医学は説いています。日本では苦味健胃薬、整腸剤として親しまれてきた生薬です。抗潰瘍作用、抗炎症作用は一部、現代薬理学で証明されています。黄柏の清熱燥湿作用はいろいろな方剤で利用されています。

白頭翁湯(はくとうおうとう 傷寒論):白頭翁 秦皮 黄連 黄柏は大腸湿熱に、梔子柏皮湯(ししはくひとう 傷寒論)山梔子 甘草 黄柏は湿熱黄疸に対する方剤です。黄柏の抗菌作用、胆汁排泄促進作用は現代薬理学で証明されていますし、肝細胞保護作用も一部証明されています。黄柏は、下焦の湿熱に有効で湿熱帯下、淋疾、膝関節の痛みなどに適応があります。

易黄湯(いおうとう 傳青主女科 山薬 芡実 黄柏 車前子 白果)は悪臭のある湿熱帯下に、苦寒黄柏+辛苦温蒼朮の組み合わせは二妙散(にみょうさん 丹渓心法)として知られ、蒼朮の燥湿健脾、祛風湿作用と黄柏の清熱燥湿作用が相まって下焦の湿熱蘊結に効果があります。二妙散に補肝腎、祛風湿、引血下行の牛膝を加え、さらに下焦湿熱を伴う下肢の軟弱などに効果を強めたものが三妙丸(さんみょうがん 医学正伝)です。利湿清熱をさらに強めるために三妙丸に薏苡仁を加味したものが四妙丸(しみょうがん 成方便読)です。

黄柏には虚熱を清する清退虚熱の効能もあります。苦寒黄柏+苦甘寒知母の組み合わせが、中国漢方では陰虚火旺、特に腎陰虚の際の虚熱に対する方薬でよく認められます。知柏地黄丸(ちはくじおうがん 医宗金鑑):知母 黄柏 熟地黄 山茱萸 山薬 茯苓 牡丹皮 澤瀉 や 大補陰丸(だいほいんがん 丹渓心法):知母 黄柏 熟地黄 亀板 猪脊髄が代表方剤です。

虚熱とは何ぞや?を説明することは大変難しいのです。西洋医学には虚熱の概念がありません。以前の「虚熱論」のブログを参照していただければ幸いです。

 西洋基礎医学は、後から漢方生薬の成分分析を行い、単純な実験系で、構成成分の薬効の分析を行っていますが、私の感想では、まだまだ初歩の分析にとどまっています。牛蒡子、板藍根の抗ウイルス効果、抗腫瘍効果などの論文を見かけますが、薬湯全体の分析には膨大な時間がかかるでしょう。「鬼の首でも取ったような」論文が出ても、人体の複雑系に対する生薬、生薬の組み合わせである方剤の分析は「ほんの食いかじり」程度の現状です。

 粗製乱造の論文の数で「専門家」と称されますが、そのような専門家の医者が大家でないことは確かなことです。

ドクター康仁 記


白頭翁湯と芍薬湯の比較

2012-11-22 00:15:00 | 漢方市民講座

芍薬湯(しゃくやくとう 素問病機宜保命集)

出典の素問病機宜保命集は「保命集」と略記されることもあります。金代中期頃の劉完素(りゅうかんそ)(11201200)の方剤とされます。したがって、傷寒論、金匱要略{張仲景150?-219}より約1000年の後世になります。

白芍 甘草 当帰 木香 檳榔子 大黄 黄芩 黄連 肉桂

白芍、甘草、当帰は行血和営緩急止痛、木香、檳榔は行気導滞、大黄は清熱解毒及び去積導滞に作用します。大黄は湿熱の邪による下痢に対し、その邪を早期に腸から排泄させる「通因通用」の原則に従うものです。黄芩、黄連は清熱燥湿し作用し、肉桂は苦寒傷中を防ぐために配合されています。大黄 黄芩 黄連三黄瀉心湯(張仲景 金匱要略)そのものですね。もう少し方剤の詳細を述べれば、白芍1521g、当帰9g、黄連69g、檳榔子6g、木香6g(後下)、炙甘草6g、大黄9g(後下)、黄芩9g、肉桂25g(沖服)となります。方剤論的には、芍薬が君薬、黄芩 黄連が臣薬、大黄 木香 檳榔 肉桂が左薬となります。芍薬と当帰は調和営血に、肉桂は苦寒薬に対し反佐として働きます。

このようにして、苦寒薬、涼薬、温薬の配合を色分けしてみると、バランスが取れている感じを受けます。劉完素は金元四大家の草分けで、寒涼の薬をたくさん用いたので、後世「寒涼派」と呼ばれていますが、浅学の私からすれば、「寒涼派」らしくもなく、当帰 木香 檳榔子 肉桂の温薬を四薬も使用しています。苦寒薬の中に、肉桂などの温薬を配伍すると、苦寒薬を人体が拒絶しなくなり、受け入れ易くなるのではないかとも考えますが、病状からの視点では、後述の張仲景の白頭翁湯が、アメーバ赤痢、細菌性大腸炎(赤痢を含む)などの急性期に用いられたと推測できるのに比較して、やや慢性化した痢疾、たとえば、現代の潰瘍性大腸炎の如き病状にも応用が可能な方剤と理解もできるのです。調和気血 清熱解毒の効能は、やや慢性化した痢疾に対するものと感じます。

では、劉完素より1000年さかのぼって、張仲景(ちょうちゅうけい)の白頭翁湯と比較してみましょう。

白頭翁湯(傷寒論):白頭翁15 秦皮12 黄連6 黄柏12

熱毒痢の方剤です。白頭翁は清熱解毒涼血に作用し君薬で、黄連 黄柏が補助する関係で、清熱解毒収渋止痢の秦皮が加わっています。苦寒薬一辺倒の方剤で、解りやすいですね。中焦の陽気の保持を要(かなめ)としていた張仲景でも、必要とあらば、苦寒薬だけの創方もしていたわけです。

金元四大家の草分けの劉完素(1120?-1200)は弟子に調子和(11561228)、張元素{後世、脾胃派と証される李東垣(11801251)が一時師事}、後世、滋陰派として名高い朱丹渓も劉完素の流れの羅知悌(12381327頃)に師事していた歴史を振り返れば、臨床医学は独学では修得不可能であるということです。劉完素が三黄瀉心湯を応用できたのは医書「金匱要略」から学んだのでしょう。あるいは、師とした陳希夷より教えられたかのいずれかであろうと思います。

現代西洋医学の臨床では、医薬史上、画期的とも言えるペニシリンが実用化されたのが1942年であり、アメーバ赤痢の治療がある程度確立されたのが、テトラサイクリン、メトロニダゾールの開発後であることからしても、3世紀~12世紀の中国で、医家が一定の治療成績を残したという史実には驚かされます。

スライド 張仲景 1000年後の 劉完素

張仲景の晩年は中国後漢末期の208年の赤壁の戦い以降に相当しますし、1000年後の、北宋で生まれた劉完素の一生は幼年時代から、金が北宋を滅ぼした後の金朝の民としてのそれでした。

ドクター康仁 記

張仲景は70歳弱、劉完素は80歳弱までの天寿を全うしました。当時の世界レベルでは長寿に入るのではないでしょうか?それに生前は現役医師そのものでした。長寿、仕事ぶり、ともにあやかりたいものです。

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盗汗(寝汗)論

2012-11-21 00:15:00 | 漢方市民講座

本日の漢方市民講座は「汗」についてです。

復習になりますが、再度「を問うinquiry of sweating」を記載します。

汗の診断を弁汗(べんかん)といいます。

表症弁汗とは体の表面の弁汗という意味ですが、「傷寒論」の六系弁証中の太陽病からの引用が表実症と表虚証で、それぞれ麻黄湯、桂枝湯の適応となります。表熱症は体表面が直接熱邪に侵襲された場合を意味します。

    表実症 無汗anhidrosis(或いは実汗)

    表虚症 有汗hidrosis

    表熱症 有汗 無汗あり

裏症弁汗とは、気血津液弁証、八綱弁証から診断される弁汗です。

    盗汗night sweating 陰虚 病机(内熱を)追汗外泄する 裏虚熱証 

    (一割に血虚、湿熱の盗汗がある)

    自汗spontaneous sweating 気虚が多い(陽虚もある)衛外不固

    思わず汗が出る 動即更甚 原因は一般的に陽気虚と表現される

    裏実熱症 exuberance of endogenous heat syndrome

    亡陽yang exhaustionの際の大汗profuse sweating(蒼白、四肢厥冷、脈微)yang exhaustion syndrome due to sudden loss of yang leads body fluid to excrete

局部弁汗とは、異常発汗の起こる部位での弁汗です。

    手足心汗sweating over palms and soles 陰虚多い 五心煩熱 子供と老人

    頭汗head seating  上焦熱蒸(心煩、口渇、黄苔、浮数脈)

     中焦湿熱郁蒸(体が重い、易疲労感、黄?苔)

     亡陽の際の額の大汗

    冷汗 一般的には陽虚、気虚

戦汗sweating following shiveringとは? 震えながら発汗することを意味し、病状の表現となります。マラリヤなどの熱病で見られます。

盗汗(寝汗)

寝汗を中医学では盗汗といいます。原因は虚証と考えます。

中医学的病因 心血不足

(症状)寝ると汗が出て、覚醒すると汗が止まる。動悸、少眠、顔色不華(顔色がさえない、多くは萎黄を呈する)、気短(息切れ)、神疲(疲れやすい)などの症候がみられ、舌質は淡、舌苔は薄、脈は虚である。

治療法養神補血止汗

(方薬)帰脾湯加減。茯神、遠志、酸棗仁、龍眼肉で養心安神、当帰で養血補心、党参、黄耆、白朮、甘草で補脾益気の効能を求める。

帰脾湯(きひとう)(済生方茯神 酸棗仁 白朮 黄耆 人参 木香4.5当帰 遠志 炙甘草3竜眼肉9 

汗量が多い者には、龍骨、牡蠣、五味子、浮小麦を加え、養心寧心、斂汗を行います。

中医学的病因 陰虚火旺

 (症状)潮熱(午後になると発熱を繰り返す)、盗汗、虚煩不眠、五心煩熱、痩せなどの症候がみられ、女子には生理不順、男子には遺精をみる。舌質は赤、苔が少なく、脈は弦細である。

 (証候分析)体質虚弱、失血失精、或は、肺癆久咳で陰血が虧損し、虚火が内生し、津液外泄のため、潮熱、盗汗、五心煩熱をみる。陰虚火旺、心腎不交のため、虚煩不眠をみる。陰血不足のため、生理不順をみる。陰虚による相火妄動のため、男子には遺精をみる。陰精衰少のため体が痩せる。舌質が赤、苔が少なく、脈が弦細は陰虚火旺の証候である。

 (治療法滋陰降火

 方薬当帰六黄湯(蘭方秘蔵)加減

当帰六黄湯(とうきりくおうとう)(蘭方秘蔵):当帰 生地黄 熟地黄 黄連 黄芩 

黄柏 黄蓍

当帰、生地黄、熟地黄は滋陰養血、壮水制陽に作用し、黄連、黄芩は心肺の熱を清める。ただし虚火が甚だしい場合は、燥による傷陰を防止するために少量投与する。黄柏は相火を瀉し、陰を固め、黄耆は益気固表に作用する。

久病肺腎陰虚の者には、八仙長寿丸(麦味地黄丸)(医級)に龍骨、牡蠣、浮小麦、糯稲根を加え、滋陰斂汗の効能を期する。潮熱が甚だしい者は地母、地骨皮、亀板、鱉甲を加え、滋陰清熱をはかる。

八仙長寿丸(はっせんちょうじゅがん)(麦味地黄丸)(医級)麦門冬 五味子 熟地黄 山茱萸 山薬 澤瀉 牡丹皮 茯苓

私の個人的な感想ですが、

当帰六黄湯は陰虚火旺の盗汗の火旺部分に、より重点が置かれ八仙長寿丸(麦味地黄丸)は陰虚火旺の盗汗の陰虚部分に、より重点が置かれています。

漢方医学は漢字との戦いでもあります。

黄柏は苦寒薬の中でも、例外的に堅陰作用があります。それで、陰を固めると日本語で表現したのですが、凝固させるという意味ではありません。堅持すると同時に守るという意味合いの「堅」です。黄耆の益気固表の固表は「気」を体表にめぐらし、

腠理 (ソウリ)を引き締めるという意味での「固表」です。五味子の「斂陰(れんいん)」の斂は、耗気、傷陰という病理状態に対して、陰を補強すると同時に、さらなる傷陰を防ぐという意味で「斂陰(れんいん)」と表現します。

陰を補う:補陰

陰を育てる:育陰

陰を養う:養陰

陰を滋す:滋陰

陰を堅固堅持する:堅陰

陰を補強し、傷陰を防止する:斂陰

腠理 (ソウリ)を引き締め汗を止める:固表止汗

斂汗(れんがん)という漢字も出てきます。平易な日本語に出来ません。

明代末期の大医家「張岳景」は「景岳全書」中で、

一に寒熱を問い、二に汗を問う、
三に頭身を問い、四に便を問う、
五に飲食を問い、六に胸を問う、
七に聾、八に渇とともに弁ずべし、
九に脉色によりて陰陽を察し、
十に気味によりて神見を章かにす、

と述べています。

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張岳景

ドクター康仁  記