熟地黄 性味 甘、微温 帰経 心肝腎 効能:補血調経 滋腎益精と和書には記載されているが、中国の清書には養血滋陰 、補精益髄と記載されてもおり、原意は同じ意味であろう。補血調経の調経は、血虚による月経異常を正常化するという意味である。
ゴマノハグサ科のジオウRehmannia glutinosa LIBOSH、カイケイジオウR. glucinosa LIBOSH. var. hueichingensis CHAO et SCHIHの肥大根を乾燥した後、酒で蒸して塾製したものが熟地黄である。酒で処理した熟地黄は苦味が増し、温性が増す。 補血作用に優れ、四物湯(当帰、熟地黄、白芍、川芎)は養血の基本方剤である。六味地黄丸中に配合 熟地黄は補血補腎虚の要薬と呼ばれる。同じく、補血、滋陰 特に腎陰虚に用いられる阿膠との共通点は、「不動」の性質があり、滋?(じに):胃を障害しやすい。長期間の投与で食欲低下、胃の張満感が出現する。熟地黄の滋?の予防として配合される薬剤は 砂仁であり、砂仁と攪拌した砂仁拌熟地は滋?の副作用が少ない。中国漢方医が、 熟地、砂仁 拌と処方箋に書く意味は、熟地と砂仁を一緒に混ぜる意味であり、砂仁拌熟地を指す。
スライド 熟地黄と乾地黄(生地黄)
新鮮地黄は苦味が甘みより強く、大寒であり、清熱涼血に優れているので、熱入営血や血熱妄行に適している。乾地黄は苦味より甘みが強く、滋陰養血に優れているので、陰虚陽亢 血虚化燥に適する。熱盛の時期には新鮮地黄が、後期で傷陰があり、余熱の残っている時期には乾地黄がよい。気血津液弁証によれば、熱邪が営分にある時は、高熱煩燥、舌赤脈数 斑疹隠隠(皮下出血)がさらに熱邪が血分に入ると斑疹悪露が出現する。
しかし、現実的には、日本の漢方診療では新鮮地黄を使用することは無い。冷凍庫に新鮮地黄を保存しておけば使用は可能であるが、熱性疾患で新鮮地黄を使用しなければならないような症例は、現在では西洋医学の分野であるからだ。発熱が続けば体力が衰える。癌患者にみられる抗生物質耐性の発熱などは、多くは入院しているので、漢方の出番が無いのが現状である。新鮮地黄や牛黄が奏功することがあるので、頑固な発熱には考慮されてもしかるべき薬剤である。日常診療では、乾地黄(干地黄 甘 苦 寒 心肝腎)を使用することになる。清熱滋陰に作用し、歴史的には、
清営湯(温病条弁) 熱邪が深く営陰に入り、津液を損傷した熱傷陰営に用いられる。
証:発熱(夜間甚)心煩少寝、譫語 斑疹隠隠 紅絳舌干(少苔あるいは
無苔)脈細数 主治:熱傷陰営 効能:清営泄熱(清営透熱)滋陰活血
組成:清営湯 (透熱転気の代表方剤)
水牛角30 ~生地15玄参 麦冬9銀翹96 黄連5丹参6竹葉心3水煎服用
清営涼血水牛角生地 滋陰玄参麦冬 活血丹参と共に
透熱転気の金銀花 連翹 竹葉などにより営分邪気を衛分に戻す。
スライド 清営湯構成
犀角地黄湯(千金方)組成:犀角 生地黄 赤芍 牡丹皮 などや、
増液湯(温病条弁)組成:玄参 麦門冬 生地黄
青蒿鼈甲湯(温病条弁):青蒿 知母 牡丹皮 鼈甲 生地黄
知柏地黄丸(景岳全書 )(方中の熟地黄を乾地黄に変える場合もある)
知母 黄柏 熟・生地黄 山薬 山茱萸 澤瀉
牡丹皮 茯苓
大補陰丸(景岳全書)知母 黄柏 熟・生地黄 亀板 などに配合されている。
涼血止血を期待し、四生丸(校中婦人良方)生側柏葉 生地黄 生荷葉
生蓬葉 や、
生津止渇目的に益胃湯(温病条弁):沙参 麦門冬 氷砂糖 生地黄 玉竹
消渇証の口渇 多飲に滋膵飲(医学衷中参西録):生地黄 山薬 黄蓍 山茱萸 生猪膵 がある。
生地黄の清熱涼血作用、 清熱、養陰生津の作用は知母と似ている。現実的には、熱邪に対しては生地(生地黄 乾地黄)を配合することを常道として問題はなさそうである。
久痺症に対しての
独活寄生湯(備急千金用方):独活 桑寄生 秦艽 防風 細辛 当帰 白芍 川芎 乾地黄 杜仲 牛膝 人参 茯苓 甘草 桂心 方中 乾地黄を熟地黄にしても支障はない。あるいは熟地黄 乾地黄両者を使用しても支障はない。
放射線 化学療法時に副作用軽減 効果増強目的 中国での症例から
人参10g沙参10g麦門冬10g莪朮10g黄蓍30~40g白朮15g
熟地黄10g山薬15g女貞子15g茯苓12g当帰12g枸杞子12g
菟絲子12g陳皮7g木香6g 甘草6g 白花蛇舌草30g
化学療法開始5日前から連日服用2週間
以下症状症候を著名に改善させる。
嘔気 下痢 食欲不振などの消化器症状
白血球減少 血小板減少などの骨髄抑制
体重減少
ほとんどの癌メール相談はすでに化学療法、放射線療法を受けた後に、いわゆる第4期の末期がんの状態が多い。化学療法中やそれ以前の相談が少ないのは非常に残念である。
ドクター康仁 記
甘草には炙甘草と生甘草があり、後者は清熱作用を有する。地黄にも熟と生(あるいは乾)があり、後者は涼寒で清熱涼血 滋陰の作用がある。四物湯の当帰、川芎は丹参で代用することも可能であり、熟地黄は生地黄に変えるというサジ加減が出来る。各生薬の性味、効能を熟知していれば、方剤全体の温熱涼寒平の具合を変化させられる、これは、実際の臨床で大切なことである。
下品なコメントが続いていますので、コメントは当分受け付けないことにしました。