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要薬 半夏 考

2012-11-24 00:15:00 | 漢方市民講座

漢方市民講座 「要薬 半夏」

(制)半夏 せいはんげ ジバンシャ 生半夏は有毒 辛温

生の半夏は咽頭を刺激する為に生姜と共に使用します。中国では制半夏という修治(炮制)したものを使います。嘔吐、痰飲、腹張逆満、咽頭腫痛に効能があると最初に覚えましょう。

最も顕著な作用は鎮吐作用であり、 古くは金匱要略に半夏厚朴湯(梅核気に)、傷寒論に半夏心湯(寒熱挟雑の胃部不快感に)が記載されています。

副作用は下痢ですが、黄芩が拮抗します。半夏には、抗炎症作用の報告も近年なされています。

中医学的には「少陽病期」において用いられる重要な生薬です。小柴胡湯中の半夏と生姜の組み合わせなどです。

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スライド 半夏

燥湿化痰 湿痰、寒痰に良い。脾経にはいるので 湿痰の要薬とよばれます。

中医学では「脾は生痰の源、肺は貯痰の器」と教えるように、痰の形成に脾を重要視します。そこで、入脾経という概念があります。

辛温なので寒痰に良い(比較:竹茹は涼性なので熱痰に良い)半夏を熱痰に用いる場合は清熱化痰薬と配合します。反対に燥痰には用いられない。初めはこのように単純化して覚えるといいでしょう。

消腫鎮痛:半夏を外用する。天南星に比べ作用は穏やかである。

降逆止:妊娠悪阻にも(昔は妊娠時に禁とされていたが今は用いられている)

 方剤例 小半夏湯(金匱要略 半夏 生姜)小半夏加茯苓湯(金匱要略)

消痞散結痞満に対して(副作用下痢―黄芩、黄連、葛根と配合)リンパ節腫大、

甲状腺腫などに用いられる。

梅核気(肝気鬱滞による気痰互結)には半夏厚朴湯が効きます(後述)。

半夏厚朴湯(金匱要略)半夏 厚朴 茯苓 生姜 蘇葉に大棗を加味したもの。効能:行気解鬱 降逆化痰

半夏の中医学的捉え方

基礎理論から「気滞症」

  原因:痰湿(痰濁)、瘀血、食積、結石など実邪により気滞は生じる。

症状:張、痛 痰湿気滞:体が重い、歯痕舌、厚?苔、滑弦脈

論治:一般的には肝気郁結を指すことが多い。肝鬱気滞に対しては逍遥散(和剤局方 柴胡 白芍 当帰 白朮 茯苓 生姜 炙甘草 薄荷)が用いられる。中医学的に気鬱痰結の梅核気(ばいかくき)症状に半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(金匱要略:半夏 厚朴 茯苓 蘇葉 生姜)が用いられる。梅核気は、患者によって感じ方が異なりますが、喉に何かつまっているか引っかかっている感じ、喉に塊りがある感じ、喉の奥がはれている感じ、胸がつかえる感じとして訴えることが多い。

基礎理論から「よく見られる痰証」

寒痰(かんたん):痰証に寒証を伴うものと中医学では定義される。外感病では、寒邪感受し、水液寒凝して滞る状態です。

内傷病では、陰盛陽虚により、同じく水液寒凝滞が病態となります。

症状は畏寒(いかん)寒さが嫌いなこと、手足厥冷(けつれい)(手足の冷え)白色痰 手足が重く、筋骨に痛みが生じる。脈は沈遅となります。

治療原則は温化寒痰(寒痰を暖めて除くの意)であり、方剤例は 三子養親湯(韓氏医通 蘇子 白芥子 莱菔子)或いは二陳湯(和剤局方 半夏 陳皮 茯苓 炙甘草 生姜)に干姜 細辛 五味子(これら三生薬はいずれも温薬です)を加減します。

湿痰 痰証に湿証を伴うもので、 寒湿邪感受→肺、脾の機能失調→水湿停滞 湿痰へ、脾虚 運化失調→水湿停滞 湿痰へ 以上が中医学的な病機とされます。

症状は、胸のつかえ 食欲減退 悪心嘔吐 多量の喀出しやすい痰 体が重い

? 濡脈(湿邪阻滞)滑脈(痰飲脈象)であり、燥湿化痰が治則であり、二陳湯が良いと思います。傷寒論中の小青龍湯(しょうせいりゅうとう)の組成を眺めると、麻黄 桂枝 乾姜 細辛 白芍 五味子 半夏 炙甘草です。風寒客表、水飲内停に対しての、宣肺降逆 温化水飲の作用のうち、温化水飲は温化寒痰とほぼ同意であり、乾姜 細辛 半夏によるものです。私論ですが、近年の医師は、ほとんど漢方医学(中医学)の訓練を受けていないのに、知ったかぶりか、あるいは、あてずっぽうなのか、馬鹿の一つ覚えなのか、気管支喘息の寛解期にも、アレルギー性鼻炎などほぼ必要のない疾患にも、漫然と小青龍湯を継続するか、はなはだしきは、乱用する傾向があります。慎まなければならないことです。日本の自称漢方医のレベルの低さには驚いて開いた口がふさがらない場合もあります。浅学の私でも、弟子であったら破門したくなるレベルの医師も存在します。基本的な寒熱弁証すらできない偽医者が多いのです。小青龍湯の副作用として、胃粘膜傷害、温燥に傾き、喉が渇く、発疹が引かない、心悸亢進、血圧上昇などが起こる可能性があります。私は、小青龍湯を投与した患者さんは過去1年間を振り返って一人も居ません。西洋医学で対応できる急性期の気管支喘息に、あえて小青龍湯を使用する必要がないというのが私論です。神秘湯を最小限に使用する場合はありました。

ところで、「温胆湯(うんたんとう)」についての整理をすると、

コタロウの「温胆湯」の組成は全6g中の中に

半夏4.8茯苓4.8生姜0.6g陳皮2.0g 竹筎1.6g 枳実1.2g 甘草0.8の構成になっています。この出典は三因極一病証方論、俗に「三因方」、陳言(11311189)の創方と重なります。中国の年代では金元時代に入ります。二陳湯に竹筎と枳実を加味したものと考えるのが妥当でしょう。

ツムラの竹筎温胆湯の組成は上記コタロウの「温胆湯」に柴胡 麦門冬 桔梗 香附子 黄連 人参を加えた組成になっており、竹筎の量は半夏:竹筎=5:3となり、竹筎の量が増えていますが、そもそもの温胆湯にも竹筎が配合されているのですから、相違点は涼寒薬が増え、対薬である桔梗と枳実の上行と下行の気機調整が加えられ、理気薬である香附子が加味されているということになります。平たく言えば、方剤としては、より涼寒に傾き、理気薬が増えているということになります。私どもの中医学を学んだものとしては「黄連温胆湯」の組成が、ツムラの竹筎温胆湯にあたるのではないかと思います。加味温胆湯は黄連温胆湯を指すのです。したがって、温胆湯加減として、竹筎温胆湯や黄連温胆湯があるのではなく、竹筎温胆湯加味として黄連温胆湯が位置すると理解すべきでしょう。などを加味した星火温胆湯と称する方剤もあるようですが、出典は明らかではありません。長患いの胃腸障害を改善する意味で人参が配合されたのかは不明です。白朮でない理由が私にはわかりません。痰熱による傷肺陰を補う目的で麦門冬は配合されたのかと思います。以上をまとめますと、二陳湯→温胆湯→竹筎温胆湯(黄連温胆湯)と進化したという仮説です。

 ところで、

黄連温胆湯に似た4生薬の方剤が王士雄(清代)の「温熱経緯」にあります。黄連橘皮竹筎半夏湯(おうれんきっぴちくじょはんげとう)です。非常に簡素な内容ですが、橘皮を陳皮と考えれば、二陳湯の茯苓、甘草、生姜をそぎ落とし、黄連と竹筎を加えたとも考えられます。

「医方考」あるいは「医方集解」の中の清気化痰湯(せいきけたんとう 或いは清気化痰丸 1682 医方集解 清代)の組成は以下のようになります。

黄芩 栝萋仁 半夏 陳皮 杏仁 枳実 茯苓 胆南星 

胆南星と半夏の量が他薬に比較して1.5倍で、全体として寒涼の性質を持ち、熱痰に対する常用方とされます。方剤的にはもっとも後期になります。

君薬は苦涼の胆南星は清化熱痰薬で、苦辛温の天南星を牛胆汁で炮制したものです。炮制前の天南星が激しい温化寒痰薬であるのに対し、炮制後の胆南星は苦涼となり、熱痰を除く性質になります。胆南星の清化痰熱の効能は清気化痰湯が代表方剤とされます。私論ですが、生甘草を加味してもなんら問題はないようです。そうしますと、二陳湯に黄芩、栝萋仁、杏仁、枳実、胆南星を加味したものと考えられます。胆南星の薬効の特徴は、痰熱による意識障害や癲癇、痙攣などに、牛黄、天竺黄などとともに、用いられることです。この場合の「痰」は「有形の痰」に加え、中医学独自の「無形の痰」の概念に基づきます。方薬中、黄芩は清肺熱に、栝萋仁は清化熱痰と潤肺寛胸理気に作用し、胆南星を補佐します。枳実と陳皮は下気開痞消痰散結に作用し、黄芩、栝萋仁、枳実、陳皮は臣薬です。止咳平喘薬の杏仁は宣肺下気に作用し、茯苓は健脾利水滲湿により瀉肺と、生痰の源である脾を調節し、半夏は燥湿化痰に作用し、杏仁 茯苓 半夏は佐薬になります。二陳湯の半夏、陳皮(橘皮)、茯苓、燥湿化痰に作用すると理解も可能です。全体として清熱化痰潤肺と下気止咳に働きます。証は構成生薬から推測が可能で、咳嗽、熱痰である黄痰、胸の痞え、肺熱としての発熱、呼吸数の増加、熱証としての舌質の紅、舌苔の黄、かつ痰濁としての?苔、脈象は痰証としての滑、熱証としての数などです。

清代の「医学心悟」には、貝母栝萋散貝母 栝萋 天花粉 茯苓 陳皮 桔梗があります。熱痰よりも燥痰に対する方剤と考えられます。

ところで清気化痰丸(医方集解 清代)と清金化痰丸(統旨方)とは同じものでしょうか? 答えは「似て非ず」です。

清気化痰湯(せいきけたんとう 或いは清気化痰丸 1682 医方集解 清代)

黄芩 栝萋仁 半夏 陳皮 杏仁 枳実 茯苓 胆南星 

清金化痰湯(せいきんけたんとう 統旨方 明代に成立か?):清金―黄芩 山梔子 知母 桑白皮 化痰―母 栝萋仁 潤肺―麦冬 痰除去―桔梗 主治:内傷咳嗽、痰熱郁肺

上海時代には以下のように処方を覚えました。

清金化痰おうごんさんしし ちもそうはく べいもばくとう ぐあろうれん 

ぶくりょう ちんぴ ききょうかんぞう

黄芩山梔子9 知母桑白皮12 貝母麦門冬栝萋仁12茯苓陳皮6 桔梗甘草

中国の方歌(処方内容を覚えやすく歌にしたもの)には、「清金化痰黄芩? 桔梗麦冬桑? , 瓜??茯苓草 ,痰火犯肺咳嗽止」とあります。日本人ですから、馬鹿正直にそのまま日本語、中国語ちゃんぽんで語呂合わせで覚えたものです。清金化痰湯には原則 半夏は除かれています。温薬を少なくしたかったのかも知れません。

処方される病状は以下です。

 ①痰熱郁肺の咳嗽(咳嗽 痰多 痰粘稠黄 黄?苔)

 ②肝火犯肺の咳嗽に 瀉(しゃはくさん 小児薬証直決)地骨皮 桑白皮 甘草 粳米と合方(痰熱郁肺に口苦 脈弦数 情緒誘発の肝火の証が加わる)

 ③痰熱郁肺型の喘 桑白皮湯(景岳全書 桑白皮 黄芩 黄連 山梔子 蘇子 

半夏 貝母 杏仁と合方喘 黄苔 痰多粘稠黄 脈数)

漢方処方は漢方医の学識、(経験)、学派で少しずつ変化します。現代まで処方名が残存しているものには、特に有効性があったためであろうと推測するのが、素直な「筋(すじ)」でしょうが、おそらく、多数のバリエーションがあったと思います。医書に編纂される際に、有名な医家であったという史実とか、門人が処方名を記載していたとか、編纂時の有力者の後押しがあったとか、いろいろな背景が存在すると思います。

ドクター康仁 記

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次回は無形の痰についての講座を予定しています。