今日もまた桂枝茯苓丸が効かないと言う患者さんが初診された。
生理不順(月経過多)や冷えのどれにも目だって効かないと、、
めっきり暖かくなってきているが、日によっては冷え込むことが多い。春一番が先日吹きまくって、ボロ屋で夜中にパソコンを打っていて、恐ろしいくらいの軋みが聞こえた。しかし、我慢をすれば春である。
やれやれ倒壊を免れたかぁ。
冷えがひどく、子宮筋腫があり、婦人科を受診したら漢方薬を処方されたのですが、いっこうに冷えも、筋腫のサイズも良くならない。 と訴える38歳の女性が本日の初診の患者である。
下腹部や下肢の「冷え」が強く、生理痛と月経量が多く、婦人科を受診して当帰芍薬散、次に桂枝茯苓丸をいただいたが、一向に冷えが改善しないし、筋腫のサイズも小さくならないという。漢方エキス剤の普及は喜ばしいことであるが、思考停止的な処方が目立つ気がする。保険の効く既存のエキス剤で、婦人科では、当帰芍薬散に次いで、桂枝茯苓丸が多く処方される。 ほとんど例外なくその順番の感である。
「軽い生理痛なら効くが、筋腫のサイズは変化しないし、冷えも際立って改善はしませんよ」 と私は言った。 事実だからである。
「子宮筋腫は良性であるが腫瘍なのだから、単純な漢方薬では小さくならない。特殊な漢方治療が必要です。」 と私は断言します。
当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)は婦人科で処方される漢方エキス剤で最も多いものです。 色白で筋肉が柔らかく、疲労しやすく、腰や足が冷えて、眩暈、肩こりがあり、貧血気味の女性に向くと記載されていますが、じゃ、色が黒かったらどうなる?筋肉が硬かったら?と迷う漢方のビギナーがいることも事実です。迷わないようにするには、その組成に対する知識が必要です。
当帰芍薬散 組成は
当帰 白芍 川芎 白朮 澤瀉 茯苓です。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬です。この組成から、私には、当帰芍薬散が体を積極的に温めるというイメージは湧いてきません。事実、冷え性がつらくて婦人科を受診して、当帰芍薬散を処方されて冷え症が改善したという症例は非常に少ないのです。
当帰 白芍 川芎の3生薬の組み合わせは血虚に使用される四物湯のうち3生薬である。それで、まず、顔色が悪く、貧血気味であり、背景に気虚も存在するような疲れやすいご婦人のイメージが湧いてくるのです。
白朮 澤瀉 茯苓の3生薬の組み合わせは、健脾利水、利水滲湿である。ここから、胃腸が虚弱で、下肢などが浮腫みっぽいイメージが湧いてくるのです。
そもそも、当帰芍薬散は
肝血不足が基本にあり、そのために肝陰が肝気を抑制できず、脾虚体質が生じる、つまり肝気が脾に乗ずる肝脾不和に用いるものです。
当帰 白芍 川芎の3生薬の組み合わせにより肝血を補い、肝気を抑え、白朮にて益気健脾をはかり、肝気が乗じるのを防止し、脾気虚による寒湿を茯苓、澤瀉で除くという「方意(ほうい)」を持つのです。
従って、当帰芍薬散は「冷えの改善を方意とする方剤ではない」といえます。
冷えが強い場合は、
適宜、吴茱萸、生姜、干姜、肉桂、桂枝、附子を加味すると効果が確実になり、生理痛が伴えば炙甘草を加味します。
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
千数百年前の漢代の「金匱要略(きんきようりゃく)」の方剤です。昭和になって保険収載されたことから、広く婦人科領域で使用されています。保険適応症は子宮筋腫、下腹部の圧痛や、引きつりがあり、生理痛があり、不正性器出血や無月経、胎盤残留、死胎残留、悪露停滞などとされています。
巷の漢方本には、「体格がしっかりしていて赤ら顔であり、のぼせやほてりを感じるタイプの人に用いる」とか、「骨盤内のうっ血、血流障害による冷え症」あるいは、
「実証で手足が冷え、顔や頭に頑固な湿疹がある場合」などと記載されていますが拡大解釈といえるでしょう。
組成は桂枝 茯苓 丹皮 桃仁 赤芍である。赤は温薬、ブルーは涼寒薬、グリーンは平薬である。この組成から、桂枝茯苓丸が体を積極的に温めるというイメージはまったく湧いてきません。体を温める温薬は桂枝の1生薬だけである。事実、冷え性がつらくて婦人科を受診して、桂枝茯苓丸を処方されて冷え症が改善したという症例は非常に少ないのです。
桂枝は辛温であり、陽気を巡らし、瘀血(おけつ)や水湿(すいしつ)を配合剤と協力して体外に消退させる働きがある。中国医学では、「桂枝と茯苓の組み合わせ」は、通陽利水(つうようりすい)に働くといいますが、体を温める温陽(おんよう)とか温里(おんり)とは考えません。あくまで、陽気を巡らし利水を行うという理論であって、体を温める意味ではありません。
丹皮 桃仁 赤芍はいずれも活血祛瘀(きょお)薬です。丹皮、赤芍は涼薬であり、総合的に瘀血を除くと共に瘀熱(おねつ)を清します。もっとも、瘀熱(おねつ)という概念は中国医学でも最近は用いられない。その発生病理が不明瞭だからです。確実なことは、涼薬である丹皮、赤芍と平薬である桃仁の組合わせには体を温める作用は無いということです。
桂枝茯苓丸の本当の方意(ほうい)
活血化瘀 (かお)、通陽利水、消癥(ちょう)です。癥(ちょう)とは、腫瘤の意味です。瘀血(おけつ)が原因となる腫塊を指しますが、子宮筋腫そのものではありません。瘀血による月経異常に対しても効果があるとされ、冷えの改善を方意とする方剤ではありません。
生理不順や月経痛や冷えのどれを優先して治療するか?という観点からすれば、明らかに前2者であり、冷えでも子宮筋腫でもありません。
冷えと共に、生理痛がひどければ少腹逐瘀 湯(しょうふくちくおとう)や折衝飲(せっしょういん)の方が有効な場合が多いのです。
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