漢方医の思考回路の紹介
胃腸(脾)から考えると漢方治療はわかりやすい
脾(ひ)は五行学説では「土」であり五志は「思」である。脾は口に開き、その華は唇、五行では土、志は思、液は涎、筋肉と四肢を主る。という中医学の基礎理論があるが、説明は省く。
さらに 中医学の臓腑学説では、
脾は運化(平たく考えて消化と水分の吸収)を司り、清を上昇させる運化升清の機能を持つ。
脾の水穀運化作用により水穀精微から後天の精の本が吸収され、水穀精微の栄養部分は営気となり脈内に分布し肺、心を経て血となり、水穀精微の「力」の部分は衛気となり肺の主気作用により全身の脈外に分布する。また脾は水湿を肺と腎に運ぶ水湿運化作用を持ち、肺、腎は気化作用により水湿を汗液と尿液に変えて体外に排出する、津液の生成、代謝に深く関与する。これらは脾の昇清を主る機能による。
脾は統血作用を持つと説く。(脾の統血作用とは気の固?作用の具体的表現である。)
やや面倒になってきた感がするが、胃腸機能は「気」「血」の源になる栄養を吸収し、体内の水分の分布やその性質に深く関与し、出血を防止するような生体の機能と深くかかわっている。ということになる。
体液(津液しんえき)の分布、代謝に関して中医学では次のように説く。
津液は脾の運化作用により水穀から小腸、大腸より吸収され、脾の昇清作用により肺に運ばれ肝の疏泄作用とともに肺の主気作用、宣発粛降作用(通調水道作用)により三焦をめぐり、肺の宣発作用の一部として汗になるとともに、腎の気化作用による利尿によってその量が調節される。
これまた面倒な理論ではあるが、中医学でいう健脾祛湿(けんぴきょしつ)や健脾化痰(けんぴかたん)という治療方法は、脾の水質運化作用を正常に戻し、体内の異常な「痰」「飲」を取り除くという意味である。
ちなみに、「痰」とは水質の異常に変化したものであり、身近な、いわゆる目に見える気道から喀出される「痰」と、目に見えない「痰」があると中医学では考えてきた。「肺は貯痰の器、脾は生痰の源」という中医学の格言にも近い概念がある。
目に見えない「痰」の特徴は、
① 病を長くさせる。久病挟痰、怪病挟痰という概念がある。
② 気血のめぐりを阻害し、気滞、瘀血を生じさせる
③ 多種多発の性質を持つ
④ 神明を擾乱(じょうらん)する(精神を混乱させる)
⑤ 舌苔が粘? (ねんじ)(診察した場合である)
⑥ 体が肥りやすい(必ずしも当てはまらない場合もある)
「飲」については説明を省く。
パニック症候群の漢方治療に当たっては、治療の主眼点をどこに置くかで、若干の違いはあるものの、思考回路には、必ず「脾」が入っている。
ここからスタートするわけである。
続く。