陰虚火旺(いんきょかおう)の症状
手足が火照り、特に手の平や足の裏が火照り、午後に微熱が出る場合もあります。このようなタイプの不安神経症(ひどくなればパニック障害を起こす)は、虚火が精神不安定を引き起こし、津液が脳を滋潤させることが出来なくなることが原因と中医学は考えます。
月経不順も同時に来る場合が多く、動悸、不眠などを伴います。
このタイプの原因としては、津液不足(腎水、或いは腎陰の不足といいます)を発生させるもの、たとえば、過度のセックスや、夜更かしが多いなどの津液を消耗する行為を長くししていることがあげられます。ここで強調したいことは、津液不足には、大きく分けて、単純に体液の不足を意味する場合と、腎陰虚の二つがあることです。前者は飲水や点滴で補正されますが、後者は中医学特有の概念であり、点滴などでは補正されない状態です。体内の陰陽のバランスが崩れ、相対的に過剰になった陽気のために、虚熱が生じ、体に「ほてり」感が出てきます。脈を診ると、弱いものの、やや頻脈気味で、舌のコケ(舌苔ぜったい)が少なく、舌が乾燥し、てかてかと光る感じが診てとれる場合があります。
滋水清肝飲(じすいせいがんいん)や六味地黄丸(ろくみじおうがん)、滋陰至宝湯(じいんしほうとう) や柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)を組み合わせることによってパニック症候群に良い治療成績が得られています。
ここでは代表的な補腎陰の方剤である六味地黄丸についてご紹介します。
六味地黄丸(ろくみじおうがん)
熟地黄 山茱萸 山薬(三補)澤瀉 牡丹皮 茯苓(三瀉)
オレンジ色は軽い温薬、赤は温薬、グリーンは平薬、青は寒薬です。熟地黄は補腎陰に、山茱萸は補肝腎に、山薬は補脾固精に働く補薬です。澤瀉は泄腎濁に、牡丹皮は山茱萸の温薬に対する対薬で、ストレスから起こる肝火を瀉するとともに、山茱萸の温燥の性質を防止します。茯苓は健脾利水に働きます。
中医学の処方学(方剤学)では補薬と瀉薬がバランスよく配合されているので、三瀉三補の方剤とも呼ばれます。ここでも、山薬、茯苓など、脾の機能(胃腸機能)を正常化するという中医学の基本的な考え方が見て取れます。六味地黄丸は腎陰虚、陰虚発熱、小児の発育不全、糖尿病に広く用いられます。
六味地黄丸の加減による方剤
更年期の顔の火照りなどを伴うパニック症候群で、特に陰虚火旺が目立つ場合には六味地黄丸に知母と黄柏を加えた知柏地黄丸を用います。知母と黄柏は苦寒薬で虚熱を取り除きます。
特に眼精疲労などが著しいコンピューター関係などの仕事をされている女性などのパニック症候群には六味地黄丸に枸杞子と菊花を加えた杞菊地黄丸を用います。
もちろん、不眠傾向が強ければ、酸棗仁、遠志、茯神などを加味します。その他に、咽頭の乾燥感などが強い場合には沙参、麦冬などの補陰剤を加える場合もあります。不安感、焦燥感が強ければ竜骨 牡蠣 真珠粉 小麦 大棗などを加味します。
津液不足、腎陰不足には便秘が伴いやすく、便秘傾向がある場合には、玄参、麦冬、生地黄、大黄、芒硝などを適宜加減します。
一人の患者さんがいれば一つのまったく異なる病態があると漢方では考えます。人体は宇宙であるという生体観念が中医学にはあり、人が異なれば、病態は千差万別なのです。
決め細やかなケアこそ漢方の得意とするところです。
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