A氏の円高インポ
最近は証拠金為替取引(FX)が盛んらしい。
昨年の暮れから始まった急激なドル安(円高)に日本は見舞われた。ドル安が一服して、クロス円が一時期上昇したものの、再びドルが103円台に突入し、再び100円を目指し急速にドル円が下落し、つられてユーロや豪ドル、ニュージーランドドルにも再び円高傾向が現れている。
Aさんは52歳、2年ほど前から証拠金為替取引を始めた。円安基調に支えられて一時は4千万ほど儲かったらしい。そんなA氏に米国のサブプライム問題に端を発した急激なドル安が襲いかかった。ちょうどA氏が仕事と遊びをかねて2007年暮れから2008年正月にかけて中国大連に遊びに行っていた時である。
中国の馴染みの女性と地方に遊びに行っていた時のこと、取引先の中国人から電話があり「すごい円高が始まったらしい。Aさん。テレビ見て」といわれ、その町では高級なホテルまですっ飛んで、台湾の衛星放送をみて驚いた。なんと年末113円台であったドルが急落し、1月4日の時点で108円台前半まで一挙に5円ほど円高が進んでいたのである。ユーロは約6円、豪ドルは約5円の円高である。A氏は一挙に100万ドル 120万ユーロ 100万豪ドルの建玉で1600万ほどの評価損失を食らったわけである。一抹の不安はあったものの、強い酒と美人の連れで頭が麻痺していたとA氏は今頃、反省している。
悪いことは重なるものである。女性と遊びに出かけた田舎町には氏はパソコンを持っていかなかった。ネット環境が不十分と聞いていたからだ。A氏はすぐに大連に引き返し、ホテルのビジネスセンターでコンピューターの前に息を切らせて座りこんだ。数時間も座り込んで全決済し1500万ほどの損失で食い止めたらしい。
A氏が帰国したのは1月7日である。ドル安は一服し、クロス円も回復するかに見え、ほっと胸をなでおろした。しかし、相場勘の狂ったA氏はその後損を重ねて累積損失が3000万ほどになってしまった。
A氏は元来、豪放磊落、たくましい体型で、アルコールは強く、女性好きであるものの、子供の面倒見がよく、家庭では「立派なパパ」「良き夫」「良き息子」である。14歳年下の奥さんは近所でも評判の美形である。
そんなA氏が頭を抱えて尋ねてきた。ここ2ヶ月以上完全に不能になってしまったという。「何とかならないの?これじゃ踏んだり蹴ったりだわ。酒もまずいし」と元気がない。「それにしてもバーナンキてのは馬鹿野郎だ」と、クマを作った目をぱちぱちさせぶつぶつ言っている。
金の心配をしている限りインポは続く
A氏とは以前、一緒に返還後間もないマカオに行った事がある。サイコロ賭博で、数が大小の簡単な賭けをして双方ともに日本円で20数万勝ったことがある。
そこで私は彼に言った。
「一回100万円賭ける丁半ばくちを30回やって30連敗したらちょうど損失が3000万になる。それはありえないだろうさ。でもな、ありえないことが起こったんだから、ツキが回ってくるまで一時休憩だわな。やめい。今すぐ。」
A氏はまだ利益が少しでも残っている状態で、スパッと止めた。この辺は、見事である。
私の助言はおかしな理屈ではある。「一回100万円ずつ賭けて、20連勝の後で50連敗した。」とも言えるし、「5連敗の後で2連勝を10回繰り返した」とも言えるからである。要は説得力の問題である。「100万円30連敗」のほうがずしりと来るのである。サイコロ賭博で言うならばの話である。
虚労不得眠には酸棗仁が効く
疲れているのに眠れないのである。金の心配をしているからだ。スパッと取引を止めた後もしばらくA氏は眠れない日が続いた。つまり悔しいのである、悔やむのである。したがって後悔と言う。こういう精神状態のときに眠れないのを古来中国では「虚労不得眠」といい、酸棗仁湯が効くとされている。私は酸棗仁と延胡索のエキス粉末をA氏に処方した。その晩からいびきをかいて眠れるようになったと氏の細君から電話があった。
肝気鬱結を改善すればインポは治る
気の流れをつかさどるのは肝である。ストレスが重なると肝の気をつかさどる機能が失われ気滞が生じる。これを肝気鬱結あるいは肝鬱気滞という。気の血を推動する力が失われれば当然勃起は不十分となり、淤血も生じる。氏には柴胡 荔枝核 橘核 郁金 紅花 香附子 牛膝 川芎 白芍 を煎じて1週間服用させた。方剤でいうなら柴胡疏肝散と血府逐瘀湯の合方加減である。
腎陽気を補えばさらに性欲は生じる
前方を服用して4日目から、仙茅 仙霊脾 菟?子 紅景天 冬虫夏草を3日間服用させた。
かかる治療の結果、服用開始から1週間でA氏のインポは完全に治ったのである。
以前に何かの書籍で真偽はともかく、強制収容所でも性欲は保たれるという記述を読んだことがある。「命をとられるほどのことでもない金の心配」で完全不能になってしまうとは、、。 「セックスは神にも通じる」と30年ほど前に親友の一人が医師当直室で話していたのをふっと思い出した。
ドル円相場 A氏をインポにさせた年末からの急激な円高