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林成之著“ビジネス<勝負脳>”を読んで

また 読後感想、3回続けてで恐縮です。このブログにおける私の企画力の乏しさを示しています。
反省していますが、真剣に検討する余裕がない綱渡りというのが現状です。申し訳ありません。

この本は、先に読んだ2冊の本との関連が深いと言えます。それは、この本の副題が“脳科学が教えるリーダーの法則”だからです。水泳の平井コーチや 野村監督の 人材育成、リーダー・シップについて脳科学者がどのように解説しているのか大いに興味を持ったのです。まして、この本のテーマが北京オリンピックの日本競泳陣にアドバイスした“勝負脳”の鍛え方、使い方であると言うのならば、なのです。

なぜ、脳科学なのか。それは“この世の中の仕組や構造は、すべて人間の脳が考え出したことをもとにしてつくられています。社会システムの有様は、人間の脳の仕組を広げて可視化したものです。もっといえば、人間がつくり出した複雑な社会システムは、”「生きたい」、「知りたい」、「仲間になりたい」という本能に集約されるからだ、というのです。
この辺では フト映画“マトリクス”をイメージしてしまう記述です。つまり この世のことは全て 精神活動が生み出したものだ、という主張を思い起こし、それはシミュレーションが世界なのだ、という認識になるのですが、脳を扱っていると このあたりから ものの見方の姿勢が分かれて行くのかも知れません。幸い 著者は実務的医師であり、本では怪力乱神は語られていません。

さて、企業経営にとって不可欠の集団思考には多様性が重要であると言っています。
脳には“統一・一貫性を好む性質”がある、と言っています。なぜそうなのかは分かっていないが、美人やイケメンを好む本能は“左右対称、あるいは筋の通ったものを好む”という脳の特性によるものだ、と言うのです。この本能によって、正誤判断ができるのであり、筋の通らないものを忌避したり、“似たようなものは応用展開が可能”とすることができるが、“自分と違う考えを受け入れなかったり、まったく異なる思考の展開ができなかったり”するようになるというのです。さらに、“その物事が正しいか否かより、数の多い方に統一・一貫性を働かせ、物事の成否をゆがませて”しまい、時として判断を誤ることになる、ということです。これが 脳の間違う仕組とのこと。
独創的であり、かつ判断を誤らないためには、統一・一貫性の本能から“自分と似たものを選択”させないように、“リーダーは、自分の考えをいったん置き、人の意見に耳を傾ける姿勢が重要”と言っています。
要は 私がかつて取上げた“認知的複雑性”を確保するため、「知りたい」理性を働かせ、より大きく「仲間になりたい」という本能を満足させるために、多様性が要求される、そういう理性がリーダーには必要だということなのです。

この本には、“あなたのリーダー「勝負脳」度”が解るという自己チェックシートが用意されています。
項目としては次の6項目です。①自分に勝つ力②理解する力③指導者としてのカリスマ性④独創的思考能力⑤人間力⑥過去の体験や訓練を活かす力
このチェックシートで常に 自分と自分のチームのメンバーに自己チェックすることで 自分を高める努力をすることがチーム力向上に大切だと言っています。

そして、③のカリスマ性に正面から言及しています。こういうテーマを取上げる本は 実に珍しい、と思います。
曰く、“カリスマといわれるリーダーに共通するのは、掲げた目的や目標に対する達成率の高さです。”
“もちろん、生まれつき話術が巧み、容姿が麗しいなど生来の魅力や何ともいえない先天的なカリスマ性がある人もいます。けれども、後天的にカリスマ性を身につけることもできるのです。それが、「達成率」です。達成率とは、その人がいったこと、約束したことをどれくらいいつも達成しているかということです。その達成率が高ければ高いほど、カリスマ性のあるリーダーになります。”

“リーダーにはつねに向上心がなければなりません。”“現状維持でもダメです。なぜダメなのかというと、世の中はつねに進歩”しているため、現状維持しているだけでは、自分達だけが世の中に取り残され、結果的にレベル低下していることになるからです。
したがって、“「指導者はつねに将来を予見して手を打たなければならない」というのは松下幸之助氏の言葉です。”
つまり、予見して手を打つために「目的」、「目標」を明確にして、「目標」達成のための具体的方法を明らかに示し、着実に達成して行く。それがカリスマたるリーダーである、というのです。
ここで言う「目的」、「目標」はISO14001での言葉づかいと同じです。(不思議なことにISO9001では このような区別なく「目的」の規定がありません。ISO14001との整合性を目指したという2008年版でも規定されていません。実務部隊としてはその方が楽ですが・・・・。)

カリスマ性に重要な要素として“つねに自分を高めようとしている”という要素以外にも4項目を取上げています。
それらは、人々のリーダーへの信頼を裏切らず、“喜んで参加させる”ための要素であると考えられます。ここでは、カリスマ性とリーダー・シップは同義語と考えてよいものなのでしょう。いわばカリスマとは 強いリーダーと言えるのでしょう。

“どんな仕事であれ、原点である本質を大切にするためには、時に自分の立場を捨てても守らなければならないものがあります。リーダーは、それが何であるかをつねに高い視点で考えることが大切です。”そして、それを“指摘し、実行できること”つまり“プロフェスできるリーダー”を目指すべきだと言っています。

ですが、この“カリスマ性”と脳科学の直接の関係については 残念ながら語られていません。
また ついでながら集団の中のカリスマについて、私は次のように思ったのです。
その達成率の高さに人々が気付かなければ、それを賞賛する集団でなければ、如何に高い達成率を誇っていたとしても その人はカリスマには なりえません。つまり、その集団が 目指すもの「目的」が明確でなければ、何を達成するのがその集団にとって大切なのかという「価値観」が明確でなければ、その集団でカリスマは存在し得ないのです。
その集団にとっての「価値観」と、それに沿った「目的」と 個々の「目標」の達成が、カリスマの生息条件になると私は思うのです。そして カリスマの生存しない集団には 明るい未来はありません。

さて、この著者は どのように北京オリンピックの日本競泳陣にアドバイスしたのか、について中々説明してくれていませんでした。この本も もう読み終わるなと思い始めた最終章でようやくこの点に触れています。

まず必要なのは“絶対目標を達成するという強い気持ちを持つこと”、そして何かの目標一点に集中する。“日頃の訓練の中で鍛え抜かれた空間知能と運動知能を駆使すれば、一気に駆け上がる力を発揮することが可能”に なってくる、という。
そういう訓練の後、オリンピック代表選考会が催され、そこで選抜された選手が“いったんペースを落として疲れを取り、合宿中に体調を整えながら調子を上げてオリンピックにのぞむというスケジュール”を否定したのだそうです。
一度 ペースを落とすと“脳は楽な状態を好むので、ふたたびピークに向けて駆け上がれるかどうか保証できません。” そのため、むしろ“ここから、一気に駆け上がる”、“これから否定的なことはいっさいいわず、極限の訓練”を提案したというのです。
ここでの極限の訓練とは“一つひとつの練習にその都度人格が変わるくらい気持ちを入れて、少しの迷いもなく全力で集中してやる”というポイントを絞った訓練であって、必ずしも身体がへとへとになるまででの練習ではないとのことです。
その結果の日本の競泳陣の活躍があった、と言うのです。

私も 例えば 仕事の一日のイベントで重要なものが午前中で無事終了したような時、午後は 何も手がつかずに無駄な時間を過ごすようなことが、しばしばあります。これは 脳のそのような働きから来ている 至極当然なことなのだ、と了解した次第です。
まぁ、このような時、本当は早々に帰ってフィットネスにでも行った方が効率的な人生を送ることになるのでしょう。

脳科学という装いで語られた リーダー・シップ論だと言える本でした。

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