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長江文明と日本

2014年09月15日 | 現代に生きる縄文
引き続き、日本文化のユニークさ8項目のテーマをのうち一番目、と二番目のテーマとの関連でいくつかの本を取り上げる。

◆『古代日本のルーツ 長江文明の謎
◆『対論 文明の風土を問う―泥の文明・稲作漁撈文明が地球を救う
◆『対論 文明の原理を問う

中国の雲南省から長江流域、そして西日本には多くの文化的共通点があるという。たとえば納豆や餅などネバネバした食べ物が好きであったり、味噌、醤油、なれ寿司などの発酵食品を食べ、鵜飼と同じような漁が行われることなどである。中尾佐助氏や佐々木高明氏は、この文化的要素が共通する地域の文化を「照葉樹林文化」と名付けた。そして雲南の高地を中心とした半月形の地域を稲作農耕の起源地とした。

しかしその後の研究から稲作の起源地は雲南ではなく長江中・下流域であることがわかってきたという。6300年前に誕生し長江文明は、4200年頃に起こった気候の寒冷化の影響を受ける。漢民族のルーツにつながる北方の畑作牧畜民が南下し、長江文明を発展させた稲作漁撈民は、雲南省や貴州省の山岳地帯に追われたのだ。同時に、長江流域を追われた人々の一部は海に逃れ、台湾や日本に流れ着いた。日本に流れ着いた人々の影響を受けて弥生時代が開かれえていったという。とすれば日本の源流は、長江文明の系譜を色濃く引いていることになる。

四大古代文明は、畑作農耕民と牧畜民の融合から生まれたが、湿潤地帯を流れる長江には、元来牧畜民はいない。長江文明では、牧畜民ではなく、狩猟民や漁撈民から動物や魚などのタンパク源を求め、そこから両者の融合が始まったのではないかという。そして長江文明は、他の古代文明とちがい森の文明である。森には生命の再生と循環が満ちている。その世界観は「再生と循環」なのである。

長江文明の人々は、何よりもまず太陽を崇拝した。そして重要なのは、その太陽が女神だったということだ。それは、日本のアマテラスが女神であることとどこかでつながるのかもしれない。漢民族の太陽神は炎帝という男神であり、ギリシャのアポロンも男神だ。長江流域の稲作漁撈民ははまた、山を崇拝した。山は、米作りのいちばん重要な水を生み出す。同時に、山は天地をつなぐ架け橋(梯)だった。稲作漁撈民にとっては、天地がつながり雨が降ることが最も重要だった。日本の会津磐梯山の「梯」もそのような意味が込められているのだろう。さらに柱も山と同じように天地を結合する豊饒のシンボルだった。こうしてみると、それらが日本の古代の信仰ときわめて近いことが分る。

縄文人にとっても山は、その下にあるすべての命を育む源として強烈な信仰の対象であっただろう。山は生命そのものであったが、その生命力においてしばしば重ね合わされたイメージがおそらく大蛇、オロチであった。ヤマタノオロチも、体表にヒノキや杉が茂るなど山のイメージと重ね合わせられる。オロチそのものが峰神の意味をもつという。蛇体信仰はやがて巨木信仰へと移行する。山という大生命体が一本の樹木へと凝縮される。山の巨木(オロチの化身)を切り、麓に突き立て、オロチの生命力を周囲に注ぐ。そのような巨木信仰を残すのが諏訪神社の御柱祭ではないか。稲作漁撈民もまた、蛇や蝶やセミを大切にした。これら脱皮する生きものは再生の象徴であった。

こうして比べると、縄文人と長江文明を担った人々の宗教世界はきわめて近い。もし日本に稲作を伝えた人々が長江流域から流れ着いた人々であったなら、縄文人はその信仰世界をほとんど抵抗なく受け入れることができ、それは日本列島にたどりついた人々にとっても同様だったろう。もちろん日本への稲作の流入は朝鮮半島からのルートも無視できない。しかしどちらにせよ、弥生文化は縄文文化の要素をかなり受け継いでおり、断絶と言うよりは影響し合いながらの融合という側面がかなり強いことが、近年の土器の変化の研究などでも明らかになりつつある。私たちが、一万年の縄文文化の記憶を断絶なく受け継いできたひとつの大きな理由は、日本列島に新たにたどりついた人々との世界観の近さがあったのかもしれない。

《関連記事》
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日本文化のユニークさ33:縄文の蛇信仰(2)

日本文化のユニークさ34:縄文の蛇信仰(3)

日本文化のユニークさ35:寄生文明と共生文明(1)

日本文化のユニークさ36:母性原理と父性原理


《関連図書》
文明の環境史観 (中公叢書)
対論 文明の原理を問う
一神教の闇―アニミズムの復権 (ちくま新書)
環境と文明の世界史―人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ (新書y)
環境考古学事始―日本列島2万年の自然環境史 (洋泉社MC新書)
蛇と十字架
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