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日本文化のユニークさ31:平等社会の基盤

2011年08月10日 | 現代に生きる縄文
◆安田善憲『森のこころと文明 (NHKライブラリー)

引き続き上の本に触れながら縄文時代が、いかに日本文化のユニークさの基盤になっているかを考えていきたい。昨日、都市文明の誕生について少し触れたが、その過程にはやはり気候変動が関係していると著者はいう。人類に文明の光をもたらした古代文明(メソポタミア、エジプト、インダス)は、半乾燥地帯の大河の中・下流域で誕生した。しかも、いずれも麦作と家畜をセットにした農耕が古くからおこなわれるいる。

およそ5000年前に気候変動(寒冷化)が起こり、これらの地域を乾燥化させた。麦作農耕が富の貯蔵と階級支配の文明を推し進めたが、都市文明の誕生には、農耕が牧畜とセットになっていたことと、牧畜民との接触の機会が多い農業であったことが深くかかわっている。気候の乾燥化によって、大河周辺の乾燥したステップで生活していた牧畜民が、水を求めて河畔に集中し、農耕民と接触したり侵略する機会が多くなったのだ。

農耕民がもっていた富と余剰労働力が、牧畜民の文化と結びついて都市文明は誕生した。「都市文明を特色づける個人の所有権、契約、外国との交易、英雄叙事詩、武器や貴金属の装身具は、本来、牧畜民の中にあった文化的・社会的要素とみなされる。」

農耕と牧畜はセットになって都市文明を形成した。大陸の文明のルーツには農耕と牧畜がある。同じころ縄文人は牧畜をまったく知らず、牧畜民との接触もなく自然と森の恵みの中で生活していた。弥生時代に本格的な稲作農業が入ってきたあとも、牧畜はなかった。何度もいうようだが、これが日本人の精神文化に与えた影響は大きい。日本人の生命観の根幹に影響を与えている。その意味は、昨日挙げた以下のエントリーでも詳述したが、大切なので再掲する。

《関連記事》
日本文化のユニークさ04:牧畜文化を知らなかった
日本文化のユニークさ05:人と動物を境界づけない
日本文化のユニークさ06:日本人の価値観・生命観

日本文化のユニークさ5項目のひとつとして(2)「ユーラシアの穀物・牧畜文化にたいして、日本は穀物・魚貝型とで言うべき文化を形成し、それが大陸とは違うユニークさを生み出した。」という項目を作った理由がここにある。

さて、メソポタミアなどで気候変動がきっかけとなり都市文明が生まれた5000年前、日本列島では気象変化によって寒冷・湿潤化に見舞われていたという。関東平野ではこの時代以降、海岸線が30キロメートル以上も沖合に前進した。そのため縄文時代前期の生活を支えた豊かな内湾が消える。代わって縄文時代中期になると、関東西部や中部山岳の八ヶ岳山麓などに遺跡が急増する。内湾の資源をあきらめ、内陸部のナラ、クリ林に依存するようになったためとみられる。

縄文中期には八ヶ岳山麓のような特定地域に、著しい遺跡の集中現象がみられるという。この頃、配石遺構や土偶・土面など呪術や儀礼に関する遺物が多く出土するようになる。しかも、ナラやクリの生育する東日本の落葉広葉樹林帯に急増する。土偶などの遺物が急増するのは、人口の集中や増加による社会的緊張をやわらげるための必要性からだったのではないかと推測する研究者もいる。

縄文時代に都市文明を誕生させるような土木技術がなかったわけではない。三内丸山遺跡の巨木遺構など、縄文時代の巨大な遺構が、最近次々と発見されている。これらの巨大遺構は、人口30人から50人のムラがいくつも集まって共同で作業しないと作れない。それは都市文明の一歩手前の段階とみなさる。にもかかわらず特定の権力をもった王は誕生しなかった。

縄文人たちは、不平等が顕在化したり、富が一部にのみ集中することを意識的に避けたのではないか、そして代わりに呪術や儀礼を発展させて、平和で安定した平等社会を維持したのではないかと、著者は考えているようだ。

縄文人が、はたして「意識的に」不平等や富の集中を避けたのかどうかは分からないが、やはり縄文人が基本的には狩猟・漁撈採集の民であったことが最大の理由だったのではないだろうか。そして、日本列島という湿潤で森の豊かな環境のなかで、大陸からの農耕民が一気に大量に押し寄せることもなく、まして牧畜民との争いもなかったために、初期からの縄文人としての生活や文化を大きく変える必要性がなかった。そんな社会と文化を一万年も継続させた経験が、私たち現代日本人のこころの底に流れているのだ。この経験が、現代日本人のあり方に無関係であるはずがない。

《関連図書》
文明の環境史観 (中公叢書)
対論 文明の原理を問う
一神教の闇―アニミズムの復権 (ちくま新書)
環境と文明の世界史―人類史20万年の興亡を環境史から学ぶ (新書y)
環境考古学事始―日本列島2万年の自然環境史 (洋泉社MC新書)
蛇と十字架

《関連記事》
日本文化のユニークさ03:縄文文化の名残り
日本文化のユニークさ12:ケルト文化と縄文文化
日本文化のユニークさ17:現代人の中の縄文残滓
日本文化のユニークさ19:縄文語の心(続き)
『「かわいい」論』、かわいいと平和の関係(3)

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